1. なぜ「先生」がカギなのか
高卒採用と大卒採用には、根本的な構造の違いがあります。大卒採用では学生がリクナビ・マイナビなどの就職サイトで自ら企業を探し、直接応募します。しかし高卒採用では、生徒が自分で企業に直接コンタクトすることは制度上できません。
高卒就職の80%以上は「学校斡旋」
文部科学省の学校基本調査によると、高卒就職者の80%以上が学校やハローワークの斡旋を通じて就職しています(リクルートワークス研究所 2022年報告書)。進路指導の先生こそが、生徒と企業をつなぐ最大のゲートキーパーです。
高卒採用の流れは以下の通りです。
企業
ハローワークに
求人申込
ハローワーク
求人票を発行
先生
求人票を選別し
生徒に紹介
生徒
先生の紹介を受け
応募先を決定
つまり、どれだけ良い求人票を作っても、先生が「この企業を生徒に紹介しよう」と思わなければ、生徒の目に触れることすらありません。高卒採用で成果を出すには、「生徒に選ばれる」前に「先生に選ばれる」ことが必要です。
株式会社ジンジブの調査(2026年卒)によると、企業が高校へ情報を届ける方法として「先生への電話連絡(40.5%)」「近隣の学校への訪問(40.2%)」「求人票の発送(37.6%)」が上位を占めています。先生への直接的なアプローチが、高卒採用の基本戦略です。
2. 先生が求人票で見ている5つのポイント
進路指導の先生は、「生徒の安心と将来の幸せ」を第一に考えて求人票を評価しています。秋田採用サポートナビの取材では、ある先生が「生徒の安心や幸せを想う親のような気持ち」で判断していると語っています。先生は以下の5つのポイントを重点的に見ています。
1離職率・定着率
先生が最も重視する指標の一つです。離職率が高い企業は、先生から敬遠されます。福島採用.comの調査では「離職率が高い企業に対しては、何か企業側に問題があるのではとネガティブな印象を持つ」とされています。
厚生労働省の発表(令和4年3月卒)によると、高卒就職者の3年以内離職率は全体で37.9%です。自社の離職率がこの平均値を大きく超えている場合、先生は「生徒を送っても辞めてしまう」と判断する可能性が高くなります。
逆に、過去に採用した卒業生が定着して活躍しているならば、それは先生にとって最大の安心材料です。「御校の卒業生の〇〇さんが3年目で主任になりました」といった具体的な情報を伝えることが効果的です。
2休日日数
福島採用.comの調査によると、年間52週×週休2日=104日がボーダーラインです。104日を上回れば「働きやすい」と評価され、年間80日台の企業にはほぼ応募がないとされています。求人票の「休日等」欄は、先生と生徒の双方が最初に確認する項目の一つです。
3給与水準
福島採用.comによると、基本給が15万円を下回ると生徒が抵抗感を示すとされています。賞与の有無も判断材料になります。高校生にとって給与は「自立して生活できるかどうか」の直接的な指標であり、先生もその観点で確認しています。
4研修制度・育成体制
秋田採用サポートナビの先生取材では、「生徒が『働き続けられる』ということを重視しています」という声が紹介されています。入社後の研修制度、メンター制度、資格取得支援など、高校生が安心して成長できる環境が整っているかを先生は見ています。社会人経験のない高校生を受け入れる以上、育成体制の有無は先生にとって「この企業に送って大丈夫か」の重要な判断基準です。
5求人票のわかりやすさ
先生の役割は、求人票の内容を理解した上で「この生徒に合いそうだ」と判断し、紹介することです。専門用語だらけの求人票、仕事内容がイメージできない記述では、先生は「どの生徒に勧めていいかわからない」と判断し、紹介を見送ります。高校生が読む前提で、平易な言葉で具体的に書くことが必要です。求人票の書き方については高卒求人票の書き方で詳しく解説しています。
| チェックポイント | 先生が見ていること | ボーダーライン |
|---|---|---|
| 離職率 | 過去3年の採用者のうち何人が辞めたか | 全産業平均37.9%を大きく超えると敬遠 |
| 休日日数 | 年間休日数、週休二日制か | 年間104日以上が目安、80日台はほぼ対象外 |
| 基本給 | 手取りで生活できる水準か | 15万円以下で応募意欲が低下 |
| 研修制度 | 入社後の育成体制があるか | 制度の有無と内容の具体性 |
| 記載のわかりやすさ | 仕事内容が高校生に伝わるか | 専門用語の排除、具体的な業務記述 |
3. 求人票の「届き方」で優先度が変わる
先生が求人票を評価する際、内容だけでなく「どのように届いたか」も大きな判断材料になります。秋田採用サポートナビの先生取材では、「指定校求人や来校いただいた企業を優先して紹介しています」という声が紹介されています。
| 優先度 | 届き方 | 先生の受け止め方 |
|---|---|---|
| 1位 | 指定校求人 | 「うちの生徒を採りたい」という明確な意思表示。最優先で検討 |
| 2位 | 公開求人(持参・学校訪問) | 企業の顔が見える。会話の中で企業文化や担当者の人柄がわかる |
| 3位 | 公開求人(郵送) | 求人票の内容で判断。企業との接点がないため判断材料が限られる |
| 4位 | 公開求人(WEB掲載のみ) | 進路指導室に紙が届かない。先生が自発的に検索しない限り見られない |
「WEBに載せれば見てもらえる」は大きな誤解
「高卒就職情報WEB提供サービス」に掲載した求人票は、高校の就職担当教員が専用ID/パスワードでログインしないと閲覧できません。一般のハローワークインターネットサービスには公開されず、進路指導室に紙で届くわけでもありません。WEB掲載のみの求人は、先生の優先度が最も低くなります。詳しくは求人票の流通経路をご覧ください。
指定校求人の出し方や3倍ルールについては、指定校求人の完全ガイドで詳しく解説しています。
4. 学校訪問の効果と進め方
求人票の「郵送」と「持参(学校訪問)」で15倍の差
株式会社ジンジブ(高卒採用Lab)の調査によると、求人票の届け方によって応募前職場見学への誘導率に大きな差があります。
求人票を郵送のみ
約1%
職場見学につながる率
学校訪問(持参)
約15%
職場見学につながる率
学校訪問をするだけで、職場見学につながる確率が約15倍になります。先生と直接会話し、企業の魅力を伝え、生徒の特性を聞く。この「顔の見える関係」が、求人票の優先度を大きく引き上げます。
学校訪問のスケジュール
| 時期 | 活動内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 4〜5月 | ターゲット校のリストアップ | 就職者5名以上の学校が目安 |
| 6月1日 | ハローワークに求人申込書提出 | できるだけ早く申込む |
| 7月1日〜12日 | 最優先校を訪問 | 求人票を受け取ったら即日〜12日以内に |
| 7月12日以降 | その他の学校を訪問 | 遅くとも8月中には完了 |
| 7〜8月 | 職場見学の受入れ | 見学申込があれば積極的に対応 |
訪問前の準備
アポイントの取り方
- • 連絡先:進路指導部長または進路指導主事に電話
- • 時間帯:全日制は10時〜11時頃がベスト
- • 伝える内容:会社名・業務内容・求人票を持参したい旨
持参するもの
- • 受理済み求人票
- • 会社パンフレット
- • 名刺
- • 採用動画(約1分・あれば)
訪問時に先生に伝えるべき5つのこと
自社の強み3つ(明確に言語化)
「安定した経営基盤」「資格取得支援」「地元密着」など。先生が生徒に説明しやすい言葉で伝える
具体的な求める人材像
「体を動かすことが好きな生徒」「コツコツ取り組める生徒」など。先生が「この生徒に合いそう」とイメージできるように
OB/OGの活躍状況
その学校の卒業生が在籍していれば、具体的な活躍状況を伝える。先生にとって最大の安心材料
職場見学の受入れ可否と日程
「いつでも受け入れます」と伝えるだけで、先生が生徒に紹介しやすくなる
入社後の育成体制
研修内容、メンター制度、資格取得支援など。「高校生を受け入れる準備ができている」ことを示す
訪問人数は最大2名
推奨される組み合わせは「社長+人事担当者」または「人事部長+高卒入社の若手社員」です。特に高卒入社の若手社員を連れていくと、先生にとって生徒の将来像がイメージしやすくなります(高卒採用Lab)。
5. 職場見学を採用につなげる
高卒採用では、応募前に「応募前職場見学」を実施するのが一般的です。生徒が自分の目で職場を見て、働く人と話して、応募先を決める重要なステップです。
職場見学から応募への転換率は約50%
高卒採用Lab(株式会社ジンジブ)の調査によると、職場見学に参加した高校生のうち約50%が応募に至るとされています。見学を受け入れるだけで、採用の大きなチャンスになります。
またジンジブの高卒社会人アンケート(2023年卒対象)では、職場見学に行った社数で最も多い回答は「1社」(43%)でした。つまり、多くの生徒は1〜2社しか見学せず、見学した企業にそのまま応募するケースが多いのです。
職場見学で意識すべきポイント
生徒が見ているもの
- • 職場の雰囲気(社員同士の会話、挨拶)
- • 先輩社員の表情(楽しそうに働いているか)
- • 実際の仕事内容(自分にもできそうか)
- • 担当者の話しやすさ(質問しやすい雰囲気か)
企業が準備すべきこと
- • 高卒入社の先輩社員に体験を語ってもらう
- • 実際の業務を短時間でも体験してもらう
- • 質問しやすい場を設ける(1対1の時間)
- • 先生や保護者が同行する場合に備える
高卒採用Lab(ジンジブ)によると、職場見学後に生徒から得られる声として「話しやすかった」「入社後のイメージを持つことができた」「自分も頑張れそうな気がする」といった感想が挙げられています。見学の質が、そのまま応募意欲に直結します。
6. 信頼関係の築き方 — 1年目から3年目まで
先生との信頼関係は一朝一夕では築けません。特に採用実績がない学校では、段階的にアプローチすることが重要です。
1年目:顔を覚えてもらう
- • 公開求人で求人票を持参して学校訪問(初めての学校でいきなり指定校求人は非推奨)
- • 自社の強みと求める人材像を明確に伝える
- • 職場見学の受入れを積極的にアピール
- • 求人の時期以外でも学校を訪問する(秋田採用サポートナビ取材で先生が「求人の時期以外でも、学校にどんどん話に来ていただいてOKです」と発言)
2年目:実績をつくる
- • 1年目に採用した生徒の定着状況・活躍状況を先生に報告
- • 同じ先生を訪問し、継続的な関係を示す
- • 採用実績があれば「御校の〇〇さんが頑張っています」と具体的に伝える
- • 関係が深まれば指定校求人への切り替えを検討
3年目以降:安定的なパイプラインの構築
- • OB/OGの活躍情報を定期的に共有(昇進・資格取得・表彰など)
- • 先生の異動があっても、後任の先生に引き継ぎの挨拶をする
- • 指定校求人として毎年安定的に求人を出す
- • インターンシップや出前授業など、採用以外の接点も検討
訪問先は2〜3校に限定しない
秋田採用サポートナビの先生取材では「近隣校だけでなく10〜20校に範囲を広げるべき」という声もあります。理想の人材は遠方の学校にいても、通勤は自社近くの自宅からになるケースがあるためです。ターゲット校を広げることで、採用の可能性も広がります。
よくある失敗:関係構築なしに指定校求人を出す
制度上は、初めての学校に対しても指定校求人を出すことは可能です。しかし、先生が企業を知らなければ推薦にはつながりません。まずは公開求人で持参→関係構築→翌年から指定校求人、というステップが現実的です。詳しくは指定校求人の完全ガイドをご覧ください。
7. 離職を出さない = 翌年も推薦がもらえる
高卒採用で最も見落とされがちなのが、「採用した生徒が辞めると、翌年以降の推薦に直結して悪影響がある」という事実です。先生は「この企業に送った生徒がちゃんと続いているか」を常に気にしています。
高卒3年以内離職率の実態
厚生労働省の発表(令和4年3月卒業者)によると、高卒就職者の3年以内離職率は37.9%です。
| 事業所規模 | 3年以内離職率 |
|---|---|
| 5人未満 | 63.2% |
| 5〜29人 | 54.6% |
| 30〜99人 | 45.2% |
| 100〜499人 | 36.7% |
| 500〜999人 | 29.9% |
| 1,000人以上 | 26.3% |
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
特に中小企業(30人未満)では離職率が50%を超えています。中小企業ほど、定着のための取り組みが先生からの信頼に直結します。
産業別の離職率
| 産業 | 3年以内離職率 |
|---|---|
| 宿泊業・飲食サービス業 | 64.7% |
| 生活関連サービス業・娯楽業 | 61.5% |
| 小売業 | 48.3% |
| 医療・福祉 | 49.2% |
| 全産業平均 | 37.9% |
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
定着率を上げるための具体策
入社後3ヶ月間のフォロー体制
メンター(相談相手)の配置、定期的な面談、業務の段階的な引き上げ。社会人経験のない高校生にとって、最初の3ヶ月は最もつらい時期です。
人間関係のケア
厚生労働省の調査では、高卒者の離職理由の第1位は「人間関係がよくなかった(26.9%)」です。職場のコミュニケーション環境の整備が定着に直結します。
成長実感の提供
資格取得支援、スキルアップ研修、昇進・昇給の見通しを示す。「この会社にいれば成長できる」という実感が定着につながります。
先生への定期報告
入社した生徒の活躍状況を先生に定期的に報告する。「あの生徒は元気にやっています」の一言が、翌年の推薦につながります。
「先生に選ばれ続ける」好循環
採用→定着→先生に報告→翌年も推薦→採用。この好循環ができると、毎年安定的に応募が来る状態が実現します。逆に、早期離職が出ると「あの企業はやめておこう」となり、推薦が止まります。高卒採用では定着こそが最大の採用戦略です。
8. よくある質問
Q1. 高卒採用が初めてで、学校に知られていません。何から始めればいいですか?
A. まずは公開求人として求人票を作成し、ターゲットとなる学校に求人票を持参して訪問することから始めてください。初回から指定校求人を出しても、先生が企業を知らなければ推薦にはつながりません。1年目は「顔を覚えてもらう」ことが目標です。高卒採用のスケジュールはこちらで確認できます。
Q2. 学校訪問でどの学校を選べばいいですか?
A. 基本的には「年間5名以上の就職者がいる学校」を目安にターゲット校を選びます(高卒採用Lab)。また秋田採用サポートナビの先生取材では、近隣の2〜3校に限定せず10〜20校に範囲を広げることを推奨する声もあります。工業高校・商業高校など、自社の業種に関連する学科を持つ学校を優先するのが効果的です。
Q3. 職場見学は必ず受け入れるべきですか?
A. 可能な限り受け入れることを強く推奨します。高卒採用Lab(ジンジブ)の調査によると、職場見学に参加した高校生のうち約50%が応募に至ります。また見学に行った社数で最も多い回答は「1社」(43%)で、見学を受け入れるだけで採用に直結するチャンスになります。先生や保護者が同行するケースもあるため、柔軟な対応を準備しておきましょう。
Q4. 採用充足率はどのくらいですか?
A. ジンジブのプレスリリース(2026年卒対象)によると、計画通りに充足できた企業は29.4%にとどまり、約7割の企業が計画人数を確保できていません。高卒採用は売り手市場であり、先生との関係構築や求人票の質が結果を左右します。
Q5. 7月の訪問に間に合わなかった場合はどうすればいいですか?
A. 7月後半〜8月でも訪問は可能ですが、主要企業に先を越されている可能性があります。秋田採用サポートナビの先生取材によると、「求人の時期以外でも、学校にどんどん話に来ていただいてOK」とのことです。今年度の採用に間に合わなくても、来年度に向けた関係構築として訪問する価値はあります。
Q6. 過去に早期離職者を出してしまいました。挽回できますか?
A. 挽回は可能ですが、時間がかかります。まず離職の原因を分析し、具体的な改善策を講じてください。そのうえで先生に「離職の原因をこう分析し、こういう対策を講じました」と誠実に報告することが重要です。先生は企業の改善姿勢を見ています。改善策と向き合う姿勢を示すことで、信頼回復の可能性があります。
データ出典
- • 文部科学省 学校基本調査(リクルートワークス研究所 2022年報告書「就職後から見た、高校生の就職活動の構造的課題」で引用)
- • 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」2024年10月25日公表
- • 株式会社ジンジブ プレスリリース「2026年卒・高卒採用の最新動向 — 採用充足は3割にとどまる現実」
- • 高卒採用Lab(株式会社ジンジブ)「7月求人解禁!学校訪問におけるコツとポイント」
- • 高卒採用Lab(株式会社ジンジブ)「応募前職場見学の基本と注意すべきポイント」
- • 高卒採用Lab(株式会社ジンジブ)「高卒社会人アンケート(23卒)」
- • 秋田採用サポートナビ「先生のホンネも!高卒採用の公開求人と指定校求人の違いを徹底解説」
- • 秋田採用サポートナビ「採用担当者様必見!高校の先生との関係作りに大切な高校訪問とは」
- • 福島採用.com「高校生は求人票のドコを見ている?高卒採用求人票作成のコツも解説」
- • ATTEME(株式会社アッテミー)「高卒就職にある、独自の文化やルール」





