高卒採用で保護者の壁を越えるには

「知らない会社」が選ばれない構造と突破法

「いい会社だと思うんだけど、親が反対していて...」。高卒採用で、こんな理由で内定辞退された経験はありませんか。保護者が反対しているのではありません。御社のことを「知らない」から、賛成のしようがないのです。この記事では、保護者に企業情報が届かない構造的な問題と、「知らない会社」から「知っている会社」に変わるための具体策を解説します。

1. 保護者は「最終決定権者」である

高卒採用において、保護者は単なる「相談相手」ではありません。事実上の最終決定権者です。

高校生の84%が保護者のアドバイスを参考にしたい

37.1%

「とても参考にしたい」

47.0%

「まあ参考にしたい」

出典: ベネッセコーポレーション「進路意識調査」(2024年7〜9月、高校生 n=642)

進路について保護者と話す高校生は83.0%にのぼります。保護者も89.4%が「進路について子どもと話す」と回答しており、進路選択は家庭内での対話を通じて形成されています。

出典: 全国高等学校PTA連合会・リクルート「高校生と保護者の進路に関する意識調査」(2023年9〜10月、9都道府県27校)

これは高校生に限った話ではありません。大卒の就活でも、内定先の意思決定で「父親・母親」に相談した学生は58.7%で最多です。大卒でさえ6割が親に相談するのですから、社会経験がなく家庭との距離が近い高校生ならなおさらです。

出典: マイナビ「2025年内定者意識調査」

18歳成人でも、保護者の影響力は変わらない

2022年4月の民法改正で成年年齢が18歳に引き下げられました。法的には、18歳以上の高校生は単独で労働契約を締結できます。しかし、法律が変わっても家庭内の力学は変わりません。高校3年生の多くは実家に住み、生活を保護者に依存しています。

保護者が「知らない会社」と言った瞬間

高校生が「この会社に決めたい」と報告したとき、保護者が「聞いたことない会社だけど大丈夫なの?」と一言いうだけで、高校生の気持ちは揺らぎます。これは反対ではありません。判断するための情報が手元にないのです。

2. なぜ保護者は「知らない」のか — 構造的な情報遮断

保護者が御社を知らないのは、御社の知名度の問題ではありません。高卒就職の仕組みそのものが、保護者に情報が届かない構造になっているのです。

情報は「先生→生徒」で止まる

高卒就職の情報経路は極めてシンプルです。ハローワーク → 学校 → 先生 → 生徒。この流れの中に、保護者への情報伝達チャネルはありません。

高校生の情報収集方法

75.5%
求人票
25.1%
会社HP
24.1%
求人サイト
20.3%
合同説明会

出典: ジンジブ「26卒 就活高校生向けアンケート」(2025年7月、ジョブドラフトFes参加者 n=502)

75.5%が求人票を主な情報源としていますが、求人票は学校の進路指導室にあるものです。保護者が目にする機会はほとんどありません。しかも、33%の高校生が求人票の情報だけでは不十分と感じています。

出典: ジンジブ「高校生の就職活動に関するアンケート調査」(2020年9月、n=1,033)

保護者は「スマホで検索する」が、何も出てこない

高校生から会社名を聞いた保護者がまずやることは、スマホで会社名を検索することです。求人票以外の情報収集手段として、52.5%の高校生が会社のホームページを見るというデータがあります。保護者はなおさらです。

出典: ジンジブ「高校生の就職活動に関するアンケート調査」(2020年9月、就職希望者 n=179)

しかし、多くの中小企業のホームページには採用専用ページがなく、あったとしても中途採用向けの簡素な情報しか載っていません。保護者が知りたい「うちの子が安全に、安心して働ける場所か」という情報は見つかりません。

企業からの保護者アプローチは、まだ少数派

保護者向けアプローチを行っている企業

27.5%

約4社に3社は、保護者に向けた取り組みを何もしていない

出典: マイナビ「2025年卒企業新卒採用活動調査」(2024年6月、n=3,157社)

保護者向けアプローチを行っている企業にその理由を聞くと、「内定辞退対策として」が47.2%、「保護者の意見を重視する学生が多いと感じるから」が44.0%でした。つまり、保護者アプローチの重要性に気づいている企業は成果を出していますが、まだ全体の4分の1にすぎません。

これは「知名度の問題」ではない

大企業であれば保護者も名前を知っています。しかし中小企業は違います。保護者が知らないのは当然です。問題は、「知ってもらうためのチャネル」が高卒就職の仕組みの中に存在しないということ。だからこそ、企業が自ら保護者に「届く」手段を持つ必要があるのです。

3. 保護者が「止める」3つの不安

保護者が就職先に難色を示すとき、その根底にあるのは「反対」ではなく「不安」です。そして、その不安には共通するパターンがあります。

1

「聞いたことがない会社」への不安

保護者にとって、子どもの就職先は「知っている会社」であってほしいという気持ちは自然なものです。テレビCMを見たことがある、地域で名前を聞いたことがある、知人が働いている。そうした「知っている」という感覚が安心感の土台になります。

マイナビの保護者アンケートでは、公務員や有名企業への就職には60%以上が賛成する一方、設立間もないベンチャー企業への賛成は11.0%にとどまります。「知っているかどうか」が判断基準の大きな部分を占めています。

出典: マイナビ「2024年卒 学生就職モニター調査」

2

労働環境への不安

特に製造業・建設業の場合、保護者の頭にあるのは「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージです。現在の製造現場や建設現場は、安全対策も働き方も大きく変わっています。しかし、保護者がそれを知る機会はありません。

高卒の3年以内離職率は37.9%です。保護者はこうしたニュースを見ています。「うちの子も辞めてしまうのでは」という不安は、数字を知っているからこそ生まれます。

出典: 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」令和4年3月卒業者

3

情報不足そのものへの不安

子どもに「どんな会社なの?」と聞いても、「先生に勧められた」「求人票を見て決めた」としか答えが返ってこない。保護者としては、何を基準に判断すればいいかわかりません。

高卒就職は約2ヶ月という短い期間で進みます。一人一社制のもと、限られた情報で志望先を決めなければなりません。保護者が「もっと調べてから決めなさい」と言いたくなるのは、高卒就職の構造的な問題に対する、ごく自然な反応です。

3つの不安に共通すること

すべて「知らない」から生まれているということです。保護者は御社を「悪い会社」だと思っているわけではありません。判断するための情報が手元にないのです。逆に言えば、情報が届けば不安は解消できます。

4. 保護者に「届く」情報の作り方

保護者に情報を届けるには、「保護者が自分から探しに来る場面」と「企業から保護者に届ける場面」の両方を押さえる必要があります。

① 採用専用ホームページ — 検索した時に「見つかる」場所を作る

保護者が会社名を検索した時に、採用に関する情報がしっかり載っているページがあるかどうか。これが最初の分岐点です。

求人票以外の情報として、52.5%の高校生が会社のホームページを見ているというデータがあります。保護者はそれ以上に検索します。「保護者の方へ」というページがあるだけで、保護者は「この会社は、うちの子を受け入れる準備をしている」と感じます。

出典: ジンジブ「高校生の就職活動に関するアンケート調査」(2020年9月、就職希望者 n=179)

採用HPに載せるべき保護者向け情報

  • ・福利厚生(社会保険、住宅手当、資格取得支援など)
  • ・教育体制(研修制度、メンター制度、キャリアパス)
  • ・先輩社員の声(高卒入社の社員が、今どう活躍しているか)
  • ・職場の写真(実際の作業環境、休憩室、食堂など)
  • ・安全への取り組み(特に製造業・建設業)

自社HPにこれらの情報が揃っているか、無料HP診断で確認する

② 紙媒体 — 学校から家庭に届く唯一のチャネル

デジタル情報は保護者に届きにくい。求人サイトは高校生しか見ません。しかし、紙の情報誌なら話は違います。

学校で高校生の手に渡った冊子は、カバンに入って家に帰ります。食卓やリビングに置かれます。保護者が何気なく手に取ります。「デジタルでは届かない保護者との接点」を作れるのが、紙媒体の最大の強みです。

企業紹介が見開きで載っている。社員の写真がある。職場の雰囲気がわかる。保護者がそれを目にした時、御社は「聞いたことがない会社」から「見たことがある会社」に変わります。

③ 動画 — 「見せる」ことで不安を解消する

テキストや写真では伝わりにくい情報があります。職場の空気感、社員の表情、日常の風景。これらは動画でしか伝えられません。

企業が採用ツールとして動画を活用する割合は27.2%と増加傾向にあります。高校生が保護者にスマホで「この会社の動画、見て」と共有する場面は、今後ますます増えていきます。

出典: ジンジブ「25卒 高校新卒採用に関する企業動向調査」(2024年4月)

製造業なら工場の安全対策や最新設備。建設業なら現場の実際の作業風景。「3Kのイメージ」は、実際の映像を見せることで覆せます。

④ 内定後の保護者コミュニケーション

内定が出てから入社までの約6ヶ月間。この期間に保護者との接点を持てるかどうかが、内定辞退を防ぐ鍵になります。

内定後の保護者アプローチ例

タイミングアクション
内定通知時保護者宛の挨拶状を同封。会社案内パンフレットを添付
内定1ヶ月後保護者向け説明会の案内。職場見学の招待
年末年始季節の挨拶。入社に向けた準備のご案内
入社1ヶ月前入社式の案内。初日のスケジュール共有

ポイントは、保護者を「採用プロセスの当事者」として扱うことです。蚊帳の外に置かれている保護者は不安になりますが、定期的に情報が届けば「この会社はちゃんとしている」という信頼感が生まれます。

5. 「反対」が「応援」に変わる瞬間

保護者は、子どもの就職を邪魔したいわけではありません。むしろ、安心できる情報さえあれば、最も強力な「応援者」になります。

オヤカクは「内定後」ではなく「認知段階」から始まっている

「オヤカク」という言葉は、内定後に保護者の同意を確認する行為として知られています。しかし、高卒採用においてオヤカクの本質は、もっと手前にあります。

高校生が応募先を検討する段階で、すでに保護者の意見が影響しています。「その会社、聞いたことある?」「ちゃんと調べた?」。保護者が「知っている会社」であれば、この段階をスムーズに通過できます。つまり、オヤカクの成功は、内定後の対応ではなく、内定前の認知形成で決まるのです。

「知っている」から「応援する」へ — 3つのステップ

1

「見たことがある」

紙媒体や動画で企業名・職場の雰囲気を目にしている状態。「知らない会社」ではなくなる。

2

「調べて安心した」

採用HPで福利厚生・教育体制・先輩の声を確認。「ちゃんとした会社だ」という判断ができる。

3

「子どもが生き生きと話す」

職場見学の感想を聞く、動画を一緒に見る。子どもの目が輝いていれば、保護者は応援に回る。

保護者が「応援する側」になると何が起こるか

保護者の応援は、採用の成功だけにとどまりません。入社後の定着にも直結します。

場面保護者が「知らない」場合保護者が「知っている」場合
応募段階「そんな会社知らないよ」「あの雑誌に載ってた会社だね」
内定報告「本当に大丈夫なの?」「おめでとう、良い会社だね」
入社後「辞めたい」「やっぱりあの会社はダメだったか」「もう少し頑張ってみたら」

保護者を味方につけることは、採用の成功確率を上げるだけでなく、入社後の早期離職を防ぐことにもつながります。保護者対策は「採用」のためだけでなく、「定着」のための投資でもあるのです。

高校3年間のうちに「知っている会社」になる

保護者の認知は一朝一夕には作れません。高校1年生の頃から、学校に届く情報誌で名前を見かける。2年生で職場見学の話を聞く。3年生で就活が始まった時には「あ、あの会社ね」と言える状態ができている。毎月、継続的に学校に届く情報が、3年間かけて保護者の認知を作るのです。

6. よくある質問

Q1. 保護者に直接連絡を取ってもいいのですか?

高卒採用の場合、企業が保護者に直接連絡を取ることは一般的ではありません。学校を通じた情報提供が基本です。ただし、内定後の保護者宛挨拶状の送付や、保護者説明会の開催は問題ありません。学校の先生と相談しながら進めることをおすすめします。

Q2. 保護者説明会はどのように開催すればいいですか?

内定後に、入社予定者の保護者を対象に会社で開催するのが一般的です。内容は、会社概要・教育体制・福利厚生の説明に加え、職場見学と質疑応答を組み合わせます。規模が小さい場合は個別面談形式でも構いません。遠方の保護者にはオンライン参加の選択肢を用意しましょう。

Q3. 18歳成人になったので、保護者の同意は不要になったのでは?

法的にはその通りです。2022年4月の民法改正で、18歳以上は単独で労働契約を締結できるようになりました。しかし、法的な必要性と実態は異なります。高校生の84%が保護者のアドバイスを参考にしたいと回答しており、保護者の理解を得ることは定着率にも影響します。法的義務の有無に関わらず、保護者への配慮は採用成功の重要な要素です。

Q4. 採用HPに保護者向けページを作る余裕がありません。最低限できることは?

まずは既存の会社ホームページに、高卒入社の先輩社員の声と、福利厚生・教育体制の情報を載せることから始めましょう。「保護者の方へ」という見出しの1ページがあるだけでも、保護者が検索した時の印象は大きく変わります。紙の会社案内を作成し、学校を通じて配布するのも有効です。

Q5. 保護者に反対されて内定辞退された場合、どう対応すべきですか?

まずは学校の先生に状況を確認しましょう。先生を通じて保護者の不安点を把握し、それに応える情報(会社案内、先輩社員の声、職場見学の提案など)を提供できないか相談します。ただし、無理に説得することは避けてください。次年度以降の採用で同じことが起きないよう、応募段階から保護者に情報が届く体制を作ることが本質的な対策です。

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