1. なぜ助成金を検討すべきか — 高卒採用のコスト構造
高卒採用は大卒採用に比べて広告費が抑えられる一方で、学校訪問・職場見学の受け入れ・求人票の印刷・内定後フォロー・入社後の研修など、目に見えにくい運営コストが積み上がります。求人1人あたりの総コストは、中小企業でも数十万円規模になることが珍しくありません。
さらに、高卒新卒の3年以内離職率は37.9%(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」令和4年3月卒業者)で、入社から1年以内の離職が全体の約半数を占めます。採用しても短期間で辞められれば、コストは回収できません。つまり高卒採用では「採用コストをどう回収するか」だけでなく「定着までにどう投資を続けられるか」も同時に問われます。
助成金が効く3つのポイント
採用コストの直接補填
トライアル雇用助成金・特定求職者雇用開発助成金は、雇用した事実に対して直接現金が支給されます。求人広告費や採用活動費を相殺できます。
正社員化インセンティブ
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、有期雇用→無期・正規雇用へ転換した際に最大80万円が支給されます。試用期間を経て正社員化するパターンと相性がよく、定着施策と一体化できます。
研修投資の後押し
人材開発支援助成金は、入社後の職業訓練経費と訓練期間中の賃金の一部を補助します。「採って終わり」ではなく「育てて定着させる」フェーズに国の予算を使える制度です。
重要:助成金の金額・要件・支給区分は、厚生労働省が年度ごとに見直しを行っています。本記事では2026年4月時点で公開されている制度概要をもとに説明しますが、必ず最新のパンフレット(厚生労働省「雇用関係助成金」ページ)と最寄りのハローワーク・労働局で最新情報をご確認ください。
2. 高卒採用で使える主な助成金一覧(国制度)
高卒採用に関連する主な国の助成金は、大きく「採用時に支給」「正社員化で支給」「研修で支給」の3タイプに分かれます。以下の表で全体像を把握してから、各制度の詳細に進んでください。
| 制度名 | タイプ | 支給額の目安 | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| トライアル雇用助成金 | 採用 | 月最大4万円×最長3か月 | ハローワーク紹介の就職困難者を試行雇用 |
| キャリアアップ助成金(正社員化コース) | 正社員化 | 有期→正規で最大80万円 | 有期・無期雇用からの正規雇用転換 |
| 特定求職者雇用開発助成金 | 採用 | 最大240万円(2年) | 就職困難者・高齢者・障害者等の雇用 |
| 人材開発支援助成金 | 研修 | 訓練経費・訓練中賃金の一部 | 計画届出をした職業訓練の実施 |
| 人材確保等支援助成金 | 雇用管理 | コース別に支給 | 雇用管理制度の導入・整備 |
出典:厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」(2026年度版)
本記事では、高卒採用との関係性が特に強い上4制度(トライアル雇用/キャリアアップ/特定求職者雇用開発/人材開発支援)を個別に解説します。
3. トライアル雇用助成金 — 試行雇用から本採用へ
就職経験・職業経験が少ない人材をハローワーク経由で試行雇用(原則3か月)した場合、対象者1人あたり月額最大4万円(母子家庭の母等は月額最大5万円)が最長3か月間支給されます。企業側は採用ミスマッチのリスクを下げられ、対象者側は正式就業への道筋をつけられる、双方にメリットのある制度です。
主な要件
- ・ ハローワーク・民間職業紹介事業者等を通じて紹介された対象者を雇用すること
- ・ 対象者が就職困難者(フリーター・ニート・長期失業者・就職氷河期世代など)に該当すること
- ・ トライアル雇用計画書を事業主・対象者・ハローワーク間で作成し、雇い入れ後2週間以内に提出すること
- ・ 雇用保険適用事業所であること・法定帳簿を整備していること
高卒採用との接続
新規高卒者本人は、そのままでは本制度の対象になりません。トライアル雇用の対象要件が「安定した職業に就くことが困難」な求職者を念頭においているためです。ただし、高卒後すぐに就職しなかった既卒の若年者(おおむね3年以内)や、高卒後離職した若年層を中途で採用する場合には、若年者トライアル雇用の対象となる可能性があります。自社の採用対象者が要件に合致するかは、事前にハローワークで確認してください。
支給額の目安
| 対象者区分 | 月額 | 最大支給額 |
|---|---|---|
| 一般トライアル対象者 | 4万円 | 12万円(3か月) |
| 母子家庭の母・父子家庭の父 | 5万円 | 15万円(3か月) |
出典:厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」
4. キャリアアップ助成金 — 正社員化で最大80万円
有期契約・無期雇用・パートタイム労働者を正規雇用(正社員)に転換した場合、中小企業は1人あたり最大80万円(有期→正規の場合。無期→正規は40万円)が支給される制度です。採用時にまず有期契約で雇い入れ、一定期間後に正社員化するキャリアパスを設計すれば、採用リスクを抑えながら助成金を受け取れます。
主な要件
- ・ 「キャリアアップ計画」を管轄労働局長に提出し、認定を受けていること
- ・ 就業規則に「有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度」が規定されていること
- ・ 転換前6か月・転換後6か月の賃金を支払った後に申請すること
- ・ 転換後の賃金が転換前の賃金より3%以上増額していること
高卒採用との接続
高卒採用は「新卒一括・正社員採用」が主流ですが、試用期間を有期雇用契約として明示的に設計し、試用期間満了時に正社員転換する運用にすれば本助成金の対象になり得ます。ただし、この設計は労働基準法上の規制・採用時の労働条件通知内容・就業規則の整備など、複数の要件を正しく満たす必要があり、必ず社会保険労務士または労働局の相談窓口で事前確認してください。
注意:2025年度にはキャリアアップ助成金の要件・支給額について改正が行われています。最新の要件・改正内容は、厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」PDFで必ず確認してください。
5. 特定求職者雇用開発助成金 — 就職困難者の採用に
就職困難者(高齢者・障害者・母子家庭の母・就職氷河期世代など)をハローワーク経由で雇い入れた場合に、対象者区分に応じて最大240万円(対象期間最大2年)が支給される制度です。「コース」という形で複数の対象区分に分かれており、自社が採用する対象者に該当するコースを確認することが最初のステップです。
主なコース
特定就職困難者コース
対象:高年齢者(60歳以上65歳未満)・母子家庭の母・身体障害者・知的障害者・精神障害者など
支給額上限:中小企業:60万円〜240万円
就職氷河期世代安定雇用実現コース
対象:就職氷河期世代(おおむね35〜54歳)のうち正規雇用経験が少ない者
支給額上限:中小企業:60万円
生活保護受給者等雇用開発コース
対象:生活保護受給者等
支給額上限:中小企業:60万円
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
対象:発達障害者・難治性疾患のある求職者
支給額上限:中小企業:120万円
高卒採用との接続
高卒新卒採用のみを行う企業では本制度の対象になりません。ただし、高卒採用と並行して障害者雇用や就職氷河期世代採用を進めている企業は、部門横断で活用できます。人事部門で「新卒高卒は求人票ルート」「対象者区分に該当する中途採用は特定求職者雇用開発助成金ルート」と採用チャネルを明確に分けるのが実務的です。
出典:厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金」各コース案内
6. 人材開発支援助成金 — 入社後の研修経費を補助
従業員に対して職務に関連する専門的な知識・技能を習得させるための職業訓練を実施した場合に、訓練経費の一部と訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。高卒採用の文脈では、入社後の新人研修・OJT・外部研修・資格取得支援などを体系化して、本助成金の対象訓練として届け出る運用が可能です。
主なコース(高卒採用関連)
人材育成支援コース
OFF-JTを10時間以上実施する訓練。外部研修・eラーニング・集合研修など幅広く対象。訓練経費と訓練中の賃金(1人1時間あたり)の一部を助成。
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練のための有給休暇制度を導入して従業員に取得させた場合に定額助成。自己啓発支援の制度化と合わせて活用。
事業展開等リスキリング支援コース
新規事業展開や業務デジタル化など、事業変革に伴うリスキリング訓練に対して高率で助成。中小企業向けに助成率が優遇されている。
申請の特徴
人材開発支援助成金は、訓練実施前に「職業訓練実施計画届」を提出する必要があります。訓練開始後の事後申請では受け付けられません。新人研修を助成対象にしたい場合、内定が出た時点で研修計画を立案し、入社の前月までに計画届を提出する運用が実務上の正攻法です。
注意:人材開発支援助成金は制度改定が頻繁で、コース名・助成率・要件が毎年度更新されます。最新情報は厚生労働省「人材開発支援助成金」ページの最新パンフレットで必ず確認してください。
7. 助成金申請の基本フロー
制度ごとに詳細は異なりますが、助成金申請の基本的な流れは共通しています。以下の6ステップを押さえておけば、どの制度でも迷わず進められます。
ハローワーク・労働局に相談
自社が使える助成金の棚卸しを、最寄りのハローワーク雇用指導部門または都道府県労働局助成金窓口で行います。無料です。
計画書・計画届の提出
キャリアアップ助成金は「キャリアアップ計画」、人材開発支援助成金は「職業訓練実施計画届」を、事前に提出します。後出しは受け付けられません。
採用・訓練の実施
計画に沿って採用・雇用・訓練を実施します。出勤簿・賃金台帳・訓練記録など、後の申請に必要な書類を必ず整備します。
支給申請
要件期間(例:雇用開始から6か月経過)が満了したら、支給申請書と添付書類を期限内に提出します。期限を過ぎると受け付けられません。
労働局による審査
申請内容と添付書類の整合性、法令違反の有無などを労働局が審査します。不備があれば追加資料の提出が求められます。
支給決定・振込
審査を通過すると支給決定通知が届き、指定口座に助成金が振り込まれます。雇用開始から振込まで概ね6か月〜1年半です。
申請書類の作成は、社会保険労務士に依頼することもできます。自社のリソース・制度の複雑さ・申請回数に応じて判断してください。初めての助成金申請はハローワーク・労働局の無料相談を活用するのが鉄則です。
8. 併用パターンとコスト回収シミュレーション
単発の助成金を申請するよりも、採用から定着までの各フェーズで使える制度を重ね合わせる方が、コスト回収効率は大きく向上します。以下は中小企業が採用1人あたりで現実的に狙える併用パターンの例です。
パターンA:既卒若年者を中途採用し正社員化
| フェーズ | 活用制度 | 想定支給額 |
|---|---|---|
| 試行雇用3か月 | トライアル雇用助成金 | 最大12万円 |
| 有期→正規への転換 | キャリアアップ助成金(正社員化コース) | 最大80万円 |
| 入社後の体系的研修 | 人材開発支援助成金(人材育成支援コース) | 経費・賃金の一部 |
| 合計(目安) | 約90〜100万円 +α |
パターンB:就職困難者(障害者・氷河期世代等)の採用
| フェーズ | 活用制度 | 想定支給額 |
|---|---|---|
| 採用〜2年間 | 特定求職者雇用開発助成金(該当コース) | 最大120〜240万円 |
| 研修計画の届出・実施 | 人材開発支援助成金 | 経費・賃金の一部 |
| 合計(目安) | 最大240万円 +α |
注意:上記金額は「各制度の上限を満額組み合わせた場合の理論値」です。実際の支給額は、対象者の区分・事業規模・賃金支払状況・訓練実施状況などで変動します。必ず事前にハローワーク・労働局で自社のケースをシミュレーションしてください。
9. よくある失敗と注意点
計画書・計画届の「後出し」
キャリアアップ助成金・人材開発支援助成金は、計画の事前提出が必須です。採用や訓練を始めた後で「そういえば助成金があった」と気づいても遡って申請できません。採用計画を立てる段階で制度の棚卸しをしてください。
就業規則の未整備
キャリアアップ助成金では「正社員転換制度の就業規則記載」が要件です。口頭運用や内部規程だけでは不可。就業規則の改定と労基署への届出をセットで行います。
賃金台帳・出勤簿の不備
助成金審査では、雇用の実態を証明する帳簿類が厳格にチェックされます。タイムカードの押し忘れ・賃金台帳の記載漏れは不支給の直接原因になります。
申請期限の徒過
多くの助成金は「支給対象期間満了の翌日から2か月以内」に申請が必要です。期限管理のチェックリストを人事部門で持ってください。
不正受給のリスク
書類の改ざん・虚偽申告は不正受給とみなされ、全額返還・違約金・事業主名の公表などの重いペナルティがあります。「要件に届かないならそもそも申請しない」が鉄則です。
10. よくある質問(FAQ)
Q1. 高卒新卒を採用するだけで受け取れる助成金はありますか?
高卒「新卒」の採用だけを要件とする助成金は現行制度にはありません。主要な助成金は対象者の属性(就職困難者・若年者・障害者など)や採用経路(ハローワーク経由)を要件としています。ただし、対象要件に合致する場合は活用可能です。
Q2. 助成金は複数を組み合わせて申請できますか?
制度によって異なりますが、要件を満たせば併給は可能です。ただし同じ期間・同じ経費に対して重複申請はできません。詳細はハローワーク・労働局助成金窓口に確認してください。
Q3. 助成金の申請先はどこですか?
事業所所在地を管轄する都道府県労働局、または最寄りのハローワーク助成金担当窓口が申請先です。制度ごとに窓口が異なるため、事前に棚卸しをすることを推奨します。
Q4. 助成金はいつ振り込まれますか?
雇用開始から振込までは概ね6か月〜1年半です。現金が手元に入るタイミングを踏まえて採用計画を立ててください。
Q5. 助成金を受け取るために必ず守るべきことは?
雇用保険適用事業所であること、法定帳簿(出勤簿・賃金台帳・労働条件通知書)の整備、労働関係法令の遵守、申請期限の遵守、の4点が共通の必須要件です。不正受給は全額返還・違約金・事業主名公表の対象です。
Q6. 都道府県・市町村独自の助成金はありますか?
地方自治体ごとに独自の採用支援制度(若者定着支援、奨学金返還支援、移住者採用補助など)があります。内容・金額・要件は都道府県ごとに大きく異なるため、事業所を管轄する都道府県労働局・市町村の商工担当課・最寄りのハローワークで、自社が使える地域制度を必ずあわせて確認してください。
関連記事
出典・参考資料
- ・ 厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」— 全助成金の制度概要
- ・ 厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」— 対象要件・支給月額(月4万円/母子家庭の母等または父子家庭の父5万円)・期間(原則3か月)
- ・ 厚生労働省「キャリアアップ助成金」— 正社員化コース・賃金3%以上増額要件
- ・ 厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金」各コース案内
- ・ 厚生労働省「人材開発支援助成金」— 人材育成支援・教育訓練休暇等付与・事業展開等リスキリング支援コース等
- ・ 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」— 新規高卒就職者の3年以内離職率37.9%
※各制度の要件・支給額は年度ごとに改正される場合があります。申請時点の最新要件は、必ず厚生労働省公式サイトおよび最寄りのハローワーク・労働局でご確認ください。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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