中小企業が大手に勝つ高卒採用戦略

知名度ではなく「届け方」で差がつく

「大手には勝てない」。中小企業の採用担当者なら、一度は感じたことがあるはずです。大卒市場では、300人未満の企業の求人倍率は8.98倍。大手の21倍の厳しさです。しかし、高卒採用には大卒とはまったく異なるルールがあります。そこには、中小企業だからこそ勝てる構造が存在します。

1. 大卒市場では勝てない。だから高卒採用に勝機がある

まず、大卒採用市場における中小企業の現実を直視しましょう。

大卒求人倍率 — 企業規模別(2026年卒)

8.98

300人未満の企業

0.42

5,000人以上の企業

中小企業は大手の約21倍の厳しさ

出典: リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査」(2025年4月公表、2026年卒対象)

300人未満の企業では、1人の大卒者を約9社が取り合っています。一方、5,000人以上の大手は1人あたり0.42倍。大卒者のほうが求人枠より多い「買い手市場」です。中小企業が大卒採用で大手に勝つのは、構造的にきわめて困難です。

しかし、高卒採用は別の市場である

高卒採用には、大卒にはない3つの構造的な違いがあります。

1

学校斡旋制度

企業 → ハローワーク → 学校 → 生徒。採用活動は先生を通じて行われます。リクナビやマイナビのような就職サイトでの争いではなく、先生との関係が採用の鍵になります。

2

一人一社制

高校生は一度に1社しか応募できません。大卒のように何十社も併願されることはなく、内定辞退がほぼ発生しない。1人に選ばれれば、その人は確実に入社します。

3

採用コストの圧倒的な差

大卒の採用コストは1人あたり100万円前後。高卒は10〜50万円で済むケースが多く、中小企業の限られた予算でも戦えます。

つまり、高卒採用は「資金力の勝負」ではない

大卒市場では、採用サイトへの投資額・合説のブース装飾・内定者フォローの人員で大手が圧倒します。しかし高卒市場では、「先生に知ってもらい、生徒に届ける」ことができるかどうかが勝負を分けます。これは会社の規模ではなく、やり方の問題です。

2. 数字で見る中小企業の現実

高卒採用に勝機があるとはいえ、現状の中小企業の採用は厳しい状況にあります。まず現実を正確に把握しましょう。

7割

高卒採用で
計画未達の企業

計画通り24.6%・未達60.6%
・採用0人14.8%

89.5%

中小企業で
応募が不足

あまりない51.8%
+全くない37.7%

45.2%

30〜99人規模の
3年以内離職率

1,000人以上は26.3%
(1.7倍の差)

出典: ジンジブ「25卒振り返りアンケート」(2025年1〜2月、n=517)/ 中小企業庁「2024年版 中小企業白書」/ 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」令和4年3月卒業者

「採れない・来ない・辞める」の三重苦

高卒採用で企業が感じている課題を見ると、構造的な問題が浮かび上がります。

高卒採用で企業が感じる課題

43.8%
母集団(高校生の数)不足
43.5%
高校生との接点不足
36.4%
先生との関係構築
33.5%
職場見学での魅力付け
33.0%
入社後の早期離職

出典: ジンジブ「25卒 高校新卒採用に関する企業動向調査」(2024年4月、n=507)

上位の課題はすべて「高校生に会社の存在が届いていない」ことに起因しています。高校生の数が足りないのではなく、御社の情報が高校生に届いていないのです。これは特に中小企業で深刻です。なぜなら、大手と違い「名前を知っているだけで候補に入る」というアドバンテージがないからです。

離職率 — 企業規模で2.4倍の差

事業所規模高卒 3年以内離職率
5人未満63.2%
5〜29人54.6%
30〜99人45.2%
100〜499人36.7%
500〜999人29.9%
1,000人以上26.3%

出典: 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」令和4年3月卒業者(2025年10月公表)

5人未満の企業では63.2%、1,000人以上では26.3%。2.4倍の差があります。ただし、この数字を「中小だから仕方ない」と片付けるべきではありません。離職の原因は企業の規模そのものではなく、入社前に十分な情報を得られなかったことによるミスマッチにあるケースが多いのです。

つまり、問題は「会社の大きさ」ではない

採れない・来ない・辞める。3つの問題は、突き詰めると1つの原因に行き着きます。高校生に御社の情報が届いていないということです。そしてこれは、正しいやり方で解決できる問題です。

3. なぜ「知名度のある会社」が選ばれるのか — 3つの構造的不利

中小企業が高卒採用で苦戦する理由は、給与や福利厚生の差ではありません。「知ってもらえていない」という、もっと手前の問題です。

1

知名度の壁 — 「知らない会社」は候補にすら入らない

高校生の情報源は限られています。求人票が75.5%で圧倒的に多く、次いで会社HP 25.1%、求人サイト 24.1%です。いずれも「すでに知っている会社」や「先生から紹介された会社」でなければ、目に触れる機会がありません。

大手企業は会社名だけで「聞いたことがある」という安心感を持たれます。中小企業はこのスタートラインに立てていません。

出典: ジンジブ「26卒 就活高校生向けアンケート」(2025年7月、n=502)

2

情報の壁 — 求人票だけでは伝わらない

高校生の33%が求人票の情報だけでは十分に情報収集できていないと感じています。「十分に収集できている」と答えた高校生はわずか6.1%です。

求人票以外の情報源として52.5%が会社のホームページを見ていますが、多くの中小企業は採用に特化したホームページを持っていません。大手は専門の採用サイトを運営し、動画やインタビューを公開しています。情報量の格差がそのまま応募数の格差になっています。

出典: ジンジブ「高校生の就職活動に関するアンケート調査」(2020年9月、n=1,033 / 就職希望者 n=179)

3

接点の壁 — 高校生に会えない

高卒採用で企業が感じる課題の上位に「高校生との接点が足りない」43.5%、「先生との関係構築」36.4%が入っています。

大手企業は合同企業説明会に毎年出展し、複数の高校への訪問体制も整えています。中小企業は人員も予算も限られ、学校訪問に割ける時間がありません。結果として、先生との接点が生まれず、生徒に紹介してもらえないという悪循環に陥ります。

出典: ジンジブ「25卒 高校新卒採用に関する企業動向調査」(2024年4月、n=507)

3つの壁に共通すること

すべて「情報の届け方」の問題です。中小企業の仕事内容や職場の雰囲気が大手に劣っているわけではありません。問題は、その情報が高校生・先生・保護者に届いていないということ。逆に言えば、届け方を変えれば、大手との差は埋められます

4. 高校生が本当に見ているもの — 中小企業の「隠れた強み」

ここに、中小企業にとって希望のあるデータがあります。高校生が就職先選びで本当に重視していることを見てみましょう。

高校生が入社を希望する企業の条件

74.3%

人間関係が良い

72.6%

休日・給料の待遇

63.6%

社風・職場の雰囲気

41.9%

会社の安定性

出典: ジンジブ「高校生の就職活動に関するアンケート調査」(2020年9月、就職希望者 n=179)

注目すべきは、「人間関係が良い」74.3%と「社風・職場の雰囲気」63.6%が上位に入っていることです。「会社の安定性」は41.9%で4番目。高校生は「大きい会社かどうか」よりも「人が良い会社かどうか」を見ています。

さらに、別の調査では企業選びで確認するポイントとして「給与」64.5%、「休日日数」62.9%に加え、「やりたいことができる環境」17.9%、「成長できる環境」14.5%が挙げられています。

出典: ジンジブ「26卒 就活高校生向けアンケート」(2025年7月、n=502)

職場見学で確認するポイント1位は「雰囲気」

78.5%
会社の雰囲気

出典: ジンジブ「26卒 就活高校生向けアンケート」(2025年7月、n=502)

職場見学で高校生が最も確認したいのは「会社の雰囲気」で78.5%。これは売上高でも従業員数でもありません。

ここに中小企業の勝ち筋がある

大手企業の強みは「知名度」と「安定感」です。しかし高校生が最も重視する「人間関係」「雰囲気」は、むしろ中小企業のほうが伝えやすい。社員の顔が見え、社長との距離が近く、一人ひとりの仕事が見える。問題は、その「伝えやすいはずの強み」を伝えていないことです。

5. 中小企業が大手に勝つ5つの戦略

中小企業が抱える3つの壁(知名度・情報・接点)と、高校生が重視する「雰囲気」「人間関係」。この2つを重ね合わせると、とるべき戦略が見えてきます。

戦略① 紙媒体で「知っている企業」になる

高校生が御社を「知っている」状態を作ることが、すべての起点です。求人票は学校に届いても、数百社の中に埋もれます。しかし、企業の物語が詰まった情報誌なら話は違います。

実際に、パンフレットや情報誌を活用した企業の事例があります。ある企業は500部の採用パンフレットを制作し、約300部を学校に配布。その結果、4名の内定を獲得して採用計画を充足しました。別の企業は同じく500部を配布し、8名の内定で充足しています。

出典: ジンジブ 高卒採用Lab「高卒採用パンフレットの効果的な活用方法」

紙媒体の最大の強みは、学校から家庭まで届くこと。生徒が持ち帰れば保護者の目にも触れます。御社を「聞いたことがある会社」に変える、最も確実な手段です。

合同企業説明会でも差がつく

「合同企業説明会で、求人票よりパンフレットを開いて話を聞いている人が多い」という報告があります。高校生は文字だけの求人票より、写真やストーリーのある資料に手を伸ばします。

戦略② 先生との関係を築く — 学校訪問の力

高卒採用において、先生は最も重要なゲートキーパーです。先生が「この会社なら安心して紹介できる」と思わなければ、生徒に御社の求人票は手渡されません。

高卒採用を行う企業の67.9%が近隣の高校への訪問を実施しています。しかし、訪問するだけでは不十分です。先生にとって「信頼できる企業」とは、年に1回の挨拶ではなく、継続的に接点を持つ企業です。

出典: ジンジブ「25卒 高校新卒採用に関する企業動向調査」(2024年4月、n=507)

先生が企業を推薦する際、手元に「この会社はこういう会社です」と見せられる資料があるかどうかが大きな差になります。求人票の1枚だけでは、先生も生徒に説明しづらいのです。

戦略③ 職場見学を「選ばれる場」にする

職場見学は、中小企業が大手に最も差をつけやすい場面です。高校生が職場見学で最も確認するのは「会社の雰囲気」78.5%。これは大手の立派なオフィスよりも、社員の表情や言葉が問われるということです。

中小企業の強みは「距離の近さ」です。社長が直接話をする。先輩社員と雑談できる。実際の仕事を間近で見られる。大手企業の整然とした説明会では得られない「リアルな空気」を体感できるのが、中小企業の職場見学です。

職場見学に1社のみ参加した高校生は43%。見学先がそのまま応募先になる可能性が高いということです。つまり、「見学に来てもらう」ところまでたどり着ければ、中小企業にも十分な勝機があります

出典: ジンジブ「高卒社会人アンケート(23卒)」(2023年4月、n=142)

戦略④ 採用ホームページで「調べられる企業」になる

求人票以外の情報源として、52.5%の高校生が会社のホームページを確認しています。先生から紹介された会社名を、高校生はスマホで検索します。保護者も同じです。

出典: ジンジブ「高校生の就職活動に関するアンケート調査」(2020年9月、就職希望者 n=179)

このとき、採用に関する情報が何もなければ「よくわからない会社」という印象で終わります。しかし、先輩社員のインタビュー、1日の仕事の流れ、職場の写真が載っていれば、「ここで働く自分」をイメージできます。

大手は専門チームが採用サイトを運営していますが、中小企業でも高卒採用に特化したページを1つ作るだけで状況は大きく変わります。「検索しても何も出てこない」を「検索したら安心できた」に変える。それだけで候補に残れるかどうかが変わります。

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戦略⑤ 動画で「空気」を届ける

高校生が重視する「社風・職場の雰囲気」63.6%、「人間関係」74.3%。これらは文字情報では伝わりにくいものです。

動画であれば、職場の空気感、社員の話し方、仕事のリアルな様子をそのまま伝えることができます。特に中小企業は、大手の洗練された映像では出せない「飾らないリアルさ」が強みになります。

先輩社員が自分の言葉で仕事を語る動画、社長が想いを話す動画、休憩時間の雑談風景。こうした「人が見える」コンテンツは、高校生にとって求人票の数字よりもはるかに響きます。動画は採用ホームページに掲載するだけでなく、学校訪問時に見せる資料としても活用できます。

5つの戦略の共通点

すべて「御社の情報を、届くべき人に、届く形で届ける」ための手段です。どれか1つだけでも効果はありますが、組み合わせることで「知ってもらう → 調べてもらう → 見に来てもらう → 選んでもらう」という流れが生まれます。大手の知名度がなくても、この流れを持つ企業が高卒採用で成果を出しています

6. 「小さい会社だから無理」は、構造を知らないだけ

最後に、高卒採用の構造そのものが中小企業にとって有利な仕組みである、という点を確認しておきましょう。

一人一社制は中小企業の味方

大卒採用では内定辞退率が65.7%に達します。大手が何十人に内定を出し、中小企業は「滑り止め」にされます。しかし高卒採用の一人一社制では、高校生は一度に1社しか応募できません。つまり、1人に選ばれれば、その人は確実に入社します

大手企業には一度に何百人もの応募が殺到しますが、それは大手にしか応募が行かないということではありません。高校生は「自分に合った1社」を選びます。その選択肢に入るために必要なのは、会社の規模ではなく「知ってもらっているかどうか」です。

「顔が見える距離感」は、大手には真似できない

中小企業で働くことの最大の魅力は「人との距離の近さ」です。社長と直接話せる。自分の仕事が会社の成果に直結する。入社1年目から重要な仕事を任される。これらは1,000人規模の大手では得にくいものです。

高校生が「人間関係が良い」74.3%、「社風・職場の雰囲気」63.6%を重視しているという事実は、中小企業こそ高校生が求めている環境を提供できるということを意味しています。

成功している中小企業の共通点

厚生労働省は「地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集」として、採用・定着に成功した20社のヒアリング事例を公開しています。この事例集に掲載された企業に共通するのは、「大手にも負けない福利厚生」ではありませんでした。

出典: 厚生労働省「地域で活躍する中小企業の採用と定着 成功事例集」(2024年)

成功企業の4つの共通パターン

1

採用活動の工夫・多様化 — 学校訪問の充実、インターンシップの受入れ、地域イベントへの参加

2

環境整備 — 働きやすい環境づくり、社内コミュニケーションの活性化

3

業務の見直し — 若手が活躍できる業務設計、教育体制の整備

4

事業戦略の転換 — 自社の強みを再定義し、それを採用メッセージに反映

知名度がなくても、「知ってもらう仕組み」を持つ企業が勝つ

成功事例に共通するのは、会社の大きさではなく「自社の魅力を、届くべき相手に、届く形で届ける」仕組みを持っていたということです。紙媒体で学校に届ける。採用ホームページで調べられるようにする。動画で雰囲気を見せる。これらは大企業の専売特許ではありません。中小企業にこそ、取り組む価値があります。

7. よくある質問

Q. うちは従業員20人の会社ですが、高卒採用は可能ですか?

可能です。従業員規模に関係なく、ハローワークに求人票を提出すれば高卒採用を行えます。実際、厚労省の成功事例集には小規模事業者も複数掲載されています。高校生が重視するのは会社の規模ではなく「人間関係が良い」74.3%、「社風・職場の雰囲気」63.6%です。小さい会社だからこそ伝えやすいものがあります。

Q. 学校訪問に行く時間がないのですが、他にできることはありますか?

学校訪問は理想的ですが、それだけが手段ではありません。情報誌やパンフレットを学校に送付する、採用ホームページを充実させる、動画を制作して学校に共有する、といった方法で「直接行かなくても届く」状態を作ることができます。実際に、パンフレットの配布だけで採用計画を充足させた企業もあります。

Q. 給与面で大手に勝てないのですが、それでも高校生は来ますか?

給与は確かに重要な要素で、高校生の64.5%が重視しています。ただし、待遇面での完全な優位は必須条件ではありません。25卒で初任給を引き上げた企業は83.1%にのぼり、中小企業でも待遇改善の動きは広がっています。そのうえで、「職場の雰囲気」「人間関係」「成長できる環境」など、大手にはない魅力を具体的に伝えることが重要です。

出典: ジンジブ「26卒・25卒 高校新卒採用に関するアンケート速報」(2025年1〜2月、n=517)

Q. 高卒で採用しても、すぐ辞めてしまうのでは?

高卒の3年以内離職率は37.9%で、30〜99人規模では45.2%です。しかし、離職の主因は「思っていたのと違った」というミスマッチです。入社前に十分な情報を提供する(職場見学の実施、動画での仕事紹介、採用HPでの具体的な情報公開)ことで、ミスマッチを防ぎ、定着率を大幅に改善できます。詳しくは「高卒で採用した社員がすぐ辞める — 離職の構造と具体策」をご覧ください。

Q. 一人一社制が変わると聞きましたが、中小企業への影響はありますか?

一人一社制の見直し議論は続いていますが、2019年の調査では企業の78.9%が「変えた方が良い」と回答しています。仮に複数応募が可能になった場合、中小企業は「知名度で選ばれにくくなる」リスクがあります。だからこそ今のうちに「知ってもらう仕組み」を構築しておくことが重要です。一人一社制の現行ルールは中小企業にとって追い風であり、この制度が続いている今が行動のチャンスです。

出典: 人と未来グループ(現ジンジブ)調査(2019年3〜4月、企業460名回答)

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