1. まず数字を見る — 高卒採用市場の現実
「応募が来ない」と悩む前に、まずは高卒採用市場の構造を数字で把握しましょう。
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 高卒求人倍率(全国) | 3.98倍 | 厚生労働省(2024年3月卒) |
| 高卒求人倍率(愛知県) | 4.67倍 | 愛知労働局(令和7年3月卒) |
| 愛知県の求人数 | 38,700件 | 愛知労働局(令和7年3月卒) |
| ハローワーク求人の充足率 | 約10% | 厚生労働省 |
求人倍率4.67倍とは、4〜5社に1社しか採用できないということです。ハローワーク求人全体の充足率は約10%。つまり10社中9社は、求人を出しても1人も採用できていません。
これは「あなたの会社の問題」ではない
応募が来ないのは、企業の魅力が足りないからではありません。高卒採用には、企業と高校生の間に構造的な壁が存在します。この壁を理解し、一つずつ突破していくことが、採用成功への道です。
2. 壁①:埋もれる壁 — 求人票は届いているが、見られていない
高卒採用の求人票は、ハローワークを通じて各高校に届きます。公開求人であれば、原則として全国の高校から閲覧が可能です。
しかし、愛知県だけで38,700件の求人があります。進路指導の先生が1件1件すべての求人を確認し、生徒に紹介することは物理的に不可能です。
先生の現実
進路指導の先生は、授業・生徒指導・保護者対応をしながら就職指導も担っています。何百件もの求人票の中から「この生徒に合いそうな企業」を選ぶとき、過去に関わりのある企業や実際に訪問してくれた企業が自然と優先されます。一度も接点のない企業の求人票は、残念ながらそのまま棚に置かれることも少なくありません。
公開求人と指定校求人の違い
高卒求人には「公開求人」と「指定校求人」の2つがあります。
| 区分 | 公開求人 | 指定校求人 |
|---|---|---|
| 閲覧範囲 | 全国の高校 | 企業が指定した高校のみ |
| 埋もれやすさ | 非常に高い(大量の求人に紛れる) | 比較的低い(学校を絞って届く) |
| 先生の認知 | 届いても気づかれないことがある | 「うちの学校宛て」として認識されやすい |
指定校求人は学校を絞る分、先生に認知してもらいやすくなります。ただし、それだけで解決するわけではありません。指定校求人を送った上で、実際に学校を訪問して先生と話をすることで初めて「この企業は本気だ」と伝わります。
出典:厚生労働省「高卒就職情報WEB提供サービス」、ハローワーク名古屋中学卒部門「求人公開の方法」
3. 壁②:フォーマットの壁 — 求人票だけでは「働くイメージ」が湧かない
高卒採用の求人票は、文部科学省・厚生労働省・全国高等学校長協会が協議して作成した「全国高等学校統一応募書類」に基づいています。企業はこのフォーマットに沿って求人票を作成する必要があります。
このフォーマットの課題は、文字情報だけで構成されていることです。写真も動画も掲載できません。「どんな職場か」「どんな人が働いているか」「入社したら何ができるようになるか」といった、高校生が最も知りたい情報を伝えることが難しい構造になっています。
高校生の視点で考えてみる
高校生にとって、就職活動は初めての経験です。社会人経験がないため、求人票に書かれた「NC旋盤工」「ルート営業」「施工管理」といった職種名を見ても、実際に何をする仕事なのかイメージできません。
先生も全業界に詳しいわけではありません。特に製造業や建設業の現場については、先生自身がイメージを持ちにくく、生徒への補足説明が難しいのが実情です。
求人票の「外」で伝える工夫
フォーマットの制約は変えられません。しかし、求人票の「外」で情報を補うことはできます。
- 写真付きの補足資料 — 職場の様子、先輩社員の紹介、1日の仕事の流れなどを写真やイラストで伝える1枚のシートを求人票に添える
- 応募前職場見学の活用 — 高卒採用では選考前に職場見学が認められています。見せるだけでなく、簡単な作業体験や先輩社員との対話の時間を設けると、生徒の理解度が大きく変わります
- 動画の活用 — 短い職場紹介動画を作り、QRコードを補足資料に載せる方法もあります。実写が難しい場合はアニメーション動画という選択肢もあります。社員の顔出しが不要で、退職しても差し替える必要がないのが利点です
- 採用専用のWebサイト — コーポレートサイトとは別に、高校生や保護者が見ることを前提にした情報発信の場を持つ。キャリアパスや研修制度、若手社員の声などを掲載できます
出典:文部科学省・厚生労働省「全国高等学校統一応募書類の様式例」、ハローワーク名古屋中学卒部門「求人申込書(高卒)の書き方Q&A」
4. 壁③:先生の壁 — 知られていなければ推薦されない
高卒就職の約70%は「学校斡旋」、つまり学校経由で行われています(ジンジブ「高校新卒採用についての動向調査2021」)。生徒が自分で求人を探す「自己開拓」は約28%にとどまります。
つまり、先生に知られていない企業は、そもそも生徒の選択肢に入らないのです。
先生は何を見て企業を判断するか
進路指導の先生が生徒に企業を推薦する際の判断基準は、大きく以下の4つです。
1. 過去の採用実績
過去にその学校から採用した実績があるか。「あの卒業生が元気にやっている」という報告があれば、安心して推薦できます。
2. 離職していないか
送り出した生徒が早期に辞めていると、先生は責任を感じます。次にその企業を推薦しにくくなります。高卒の3年以内離職率は37.9%(厚生労働省、2022年3月卒)。この平均を下回っていることが、信頼の条件です。
3. 学校訪問の有無
実際に学校に足を運び、先生と話をしているか。求人票を郵送するだけの企業と、直接訪問して説明する企業では、先生の印象がまったく違います。
4. 職場見学の印象
応募前職場見学を受け入れている企業は、先生からの評価が高くなります。「あの企業の見学は生徒に好評だった」という情報は、先生同士でも共有されます。
採用実績がない企業はどうするか
「過去の実績がないと推薦されないなら、最初の1人をどう採ればいいのか」というジレンマがあります。ここを突破するには、学校訪問を先に行うことが鍵です。「まだ実績はないが、御校の生徒を採用したいと本気で考えている」と直接伝えることで、先生は「一度、職場見学に送ってみようか」と考えてくれます。大切なのは、求人票を送る前に顔を見せることです。
出典:ジンジブ「高校新卒採用についての動向調査2021」、厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」
5. 壁④:保護者の壁 — 「知らない会社」には送り出せない
高校生の就職は、保護者の意向が大きく影響します。大卒採用の調査では、47.9%の企業が「保護者の意向による内定辞退を経験したことがある」と回答しています(ネオキャリア調査)。
高卒採用は一人一社制のため、内定後の辞退率は構造的に低くなります。しかし、保護者の影響はもっと手前の段階 — 応募を決める場面で現れます。
保護者が検索する瞬間
子どもが「この会社に応募したい」と言ったとき、保護者はまずスマートフォンで会社名を検索します。そのとき表示されるのがBtoB向けのコーポレートサイトだけだと、「この会社、大丈夫なの?」という不安が生まれます。福利厚生、研修制度、キャリアパス、先輩社員の声 — 保護者が知りたい情報が見つからなければ、「もっと知っている会社にしなさい」と言われてしまいます。
「知っている会社」になるために
保護者の壁を突破する本質は、応募する前から「知っている会社」になることです。
- 採用専用Webサイトを持つ — 保護者は必ず検索します。高校生と保護者向けの情報に特化したサイトがあれば、安心感を与えられます
- 保護者向けの情報を明示する — 「保護者の方へ」というセクションを設け、給与体系、福利厚生、キャリアパス、研修制度を具体的に記載する
- 地域での接点を増やす — 学校に定期的に届く情報があれば、生徒だけでなく保護者の目にも触れる機会が生まれます。学校から持ち帰った冊子を家庭で見てもらうことで、自然に「知っている会社」になれます
- 入社後のフォロー体制を伝える — 「メンター制度がある」「半年間の研修がある」「困ったときの相談窓口がある」といった情報は、保護者の安心に直結します
出典:ネオキャリア「オヤカク対策調査」(大卒採用データとして引用)
6. 4つの壁を突破する具体策
ここまで見てきた4つの壁に対して、企業が今日から始められる具体策をまとめます。
突破策①:「届ける」仕組みを作る(埋もれる壁)
- • 指定校求人を活用する — 学校を絞って求人を送ることで、先生に認知されやすくなる
- • 学校訪問を年間計画に入れる — 5〜6月(求人解禁前)に訪問し、先生に顔を覚えてもらう
- • 応募前職場見学を積極的に受け入れる — 生徒が「行ってみたい」と思える情報を先に届ける
- • 紙の情報を活用する — デジタルはスクロールされるが、教室に物理的に置かれた情報は手に取られる
関連記事:指定校求人の完全ガイド
突破策②:求人票の「外」で伝える(フォーマットの壁)
- • 写真付き補足資料を添える — 職場の雰囲気、先輩社員、1日の流れを1枚にまとめる
- • 職場見学を「体験型」にする — 簡単な作業体験+先輩社員との対話の時間を設ける
- • 動画を活用する — 短い職場紹介動画をQRコードで補足資料に添付する
- • 求人票の記載を見直す — 専門用語を避け、高校生がわかる言葉で仕事内容を伝える
関連記事:高卒求人票の流通経路
突破策③:先生との信頼関係を築く(先生の壁)
- • 「採用したい」ではなく「育てたい」で訪問する — 先生は「安心して送り出せるか」を見ている
- • 入社後の状況を報告する — 「御校の卒業生が活躍しています」のフィードバックが最大の信頼構築
- • 離職させない体制を先に作る — メンター配置、研修制度、相談窓口の整備
- • キャリア教育への協力 — 進路指導の授業で業界の説明をする。先生の負担軽減にもなる
突破策④:保護者に「知ってもらう」(保護者の壁)
- • 採用専用Webサイトを作る — 保護者は必ず会社名を検索する。見つかった先に安心できる情報があるか(無料HP診断で現状を確認)
- • 保護者向け情報を用意する — 福利厚生、キャリアパス、研修制度を具体的に記載
- • 学校から家庭への接点を作る — 学校に届く冊子を通じて、家庭でも企業名に触れる機会を作る
- • 入社後フォロー体制を可視化する — メンター制度や相談窓口の存在を明示する
7. 突破した企業の事例
4つの壁は厚いですが、実際に突破して採用に成功している企業があります。
3年間採用ゼロ → 4名採用に成功
求人票を出し続けても応募がゼロだった鋳物製造の企業。転機となったのは、学校との接点を増やしたことと、職場の魅力をアニメーション動画で伝えたことでした。鋳物工場の実写撮影は安全面で制約がありましたが、アニメーションなら現場の「熱さ」と「やりがい」の両方を表現できました。
やったこと:学校訪問の開始、採用動画の制作、職場見学プログラムの整備
前年4名 → 7名採用(75%増)
採用はできていたものの「もっと多くの高校生に知ってもらいたい」と考えた企業。採用アプローチを見直し、複数の高校への情報発信を強化したことで、応募数が大幅に増加しました。
やったこと:情報発信チャネルの多角化、複数校への指定校求人、補足資料の充実
共通しているのは「企業の側から動いた」こと
どちらの事例も、求人票を出して待つだけではなく、企業の側から積極的に情報を届ける行動を起こしています。特に重要なのは「学校との接点を持つ」こと。これが全ての壁を突破する起点になっています。
8. 採用したら終わりではない — 定着と信頼の循環
高卒者の3年以内離職率は37.9%です(厚生労働省、2022年3月卒業者)。約3人に1人が3年以内に退職しています。
これは企業にとっての損失であると同時に、次の採用にも影響します。先生は「この企業に送った生徒が辞めた」という情報を把握しています。離職が続くと、先生はその企業を推薦しなくなります。
逆に、入社した生徒が定着し活躍していれば、先生は安心して次の生徒を送り出してくれます。つまり、定着 → 先生からの信頼 → 推薦 → 応募という好循環が生まれます。
定着支援の具体策
- 入社後の定期フォロー — 1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月・1年の節目で面談を行い、困りごとを早期に把握する
- メンター制度 — 年齢の近い先輩社員を相談相手として配置。技術指導だけでなく、精神的な支えになる
- 学校への報告 — 「御校の卒業生が○○の業務を任されるようになりました」という報告は、先生にとって最大の安心材料
- キャリアパスの提示 — 「3年後にはこのポジション」「5年後にはこの資格を取れる」という成長の道筋を入社時に示す
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」(2025年10月公表)
9. よくある質問
Q. 採用実績がない高校にも訪問していいですか?
はい。むしろ実績がないからこそ、直接訪問して「御校の生徒を採用したい」と伝えることが重要です。事前に電話でアポイントを取り、進路指導の先生に時間をいただきましょう。求人票と一緒に、会社案内や写真付きの補足資料を持参すると、先生に会社のイメージを伝えやすくなります。
Q. 学校訪問はいつ頃行くのが効果的ですか?
7月1日の求人票提出開始前の5〜6月が最適です。この時期に顔を見せておくことで、求人票が届いたときに「あの企業だ」と思い出してもらえます。また、9月の選考開始後に定員が埋まらない場合、10月以降の二次募集に向けた訪問も有効です。
Q. 指定校求人と公開求人、どちらがいいですか?
併用がおすすめです。指定校求人でターゲット校に確実に届けつつ、公開求人で幅広い高校からの応募も受け入れます。まずは地元の工業高校や商業高校など、自社の業種に関連する学科がある高校を指定校にするのが効果的です。詳しくは指定校求人の完全ガイドをご覧ください。
Q. 小さい会社でも高卒採用はできますか?
できます。高卒採用は大卒採用と比べて、企業規模による有利不利が小さい傾向があります。先生は「大企業か中小企業か」ではなく「生徒を安心して送り出せるか」で判断します。小さい会社だからこそ「社長との距離が近い」「幅広い業務を経験できる」「成長が目に見える」といった強みがあります。
Q. 応募前職場見学では何をすればいいですか?
基本は「会社説明 → 職場見学 → 質疑応答」の流れです。ポイントは、見せるだけでなく体験と対話の時間を設けること。簡単な作業を体験してもらったり、入社2〜3年目の若手社員と話す時間を作ると、高校生が「ここで働く自分」をイメージしやすくなります。先生が同行する場合もあるので、先生向けの説明資料も準備しておきましょう。
まとめ:応募が来ない時代に企業ができること
高卒採用で応募が来ないのは、4つの壁 — 埋もれる壁、フォーマットの壁、先生の壁、保護者の壁 — が企業と高校生の出会いを阻んでいるからです。
共通する根本原因は「知られていない」こと。求人票を出すだけの時代は終わりました。企業の側から「届ける」行動を起こす必要があります。
一度に全てをやる必要はありません。まずは1校でいいから、先生に会いに行くことから始めてみてください。その1歩が、採用の流れを変える起点になります。
データ出典
- • 厚生労働省「令和6年度 高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」
- • 愛知労働局「令和7年3月新規高等学校卒業予定者の職業紹介等状況」
- • 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」(2025年10月公表)
- • ジンジブ「高校新卒採用についての動向調査2021」
- • ネオキャリア「オヤカク対策調査」
- • 文部科学省・厚生労働省・全国高等学校長協会「全国高等学校統一応募書類」
- • ハローワーク名古屋中学卒部門「求人申込書(高卒)の書き方 よくある質問Q&A集」





