佐賀県の中小企業が
大手と福岡企業に負けない差別化戦略7選
SUMCO・久光製薬・トヨタ紡織九州、そして博多の福岡企業に取られないために
求人倍率2.37倍(令和7年3月卒、1月末時点)の佐賀県は、企業が高校生を取り合う売り手市場です。求人4,453人に対して就職希望者は1,880人しかいません。
しかし、それは「会社の名前さえ知ってもらえれば応募が来る」という意味ではありません。佐賀県の高卒採用市場には3つの構造的な壁があります。
- •県内大手の壁:SUMCO(伊万里・国内従業員約7,000人のうち約半数が佐賀勤務)、久光製薬(鳥栖・売上1,560億円)、トヨタ紡織九州(神埼・売上894億円)、小糸九州(佐賀市・売上643億円)、松尾建設(売上930億円)、ダイレックス(佐賀市・売上3,422億円)。佐賀工業・有田工業・鳥栖工業の進路指導室には、まずこれらの求人票が並びます
- •福岡の壁:就職希望者1,880人のうち県内希望は1,226人だけ。残りの約654人は最初から県外を志望しています。県外希望者の多くが向かう先は、新鳥栖から新幹線で約12分の福岡都市圏です
- •保護者の壁:オヤカク(親への確認)で「うちの子は福岡で就職させたい」と言う保護者が一定数います
3つの壁を同時に乗り越えるのに必要なのは、大手企業並みの採用予算ではありません。「中小企業にしかできないこと」を意識的に7つの行動に落とし込むことです。
佐賀県の採用競争の実態(県内大手・福岡企業 vs 中小)
| 比較項目 | 県内大手・福岡企業 | 中小企業 | 中小の戦い方 |
|---|---|---|---|
| 初任給 | 同条件でも社名で勝つ | 同水準でも知られない | 手取り・先輩実績・3年後年収を数字で出す |
| 知名度 | 世界シェア・全国展開で先行 | 県内でも認知が限定的 | 取引先・地元ブランドとの関係性を語る |
| 学校訪問 | 人事担当が網羅的に訪問 | 社長が1校に絞って3年通う | 顔と名前を覚えてもらう関係性で勝つ |
| 面接からの内定 | 本社稟議で2〜3週間 | 社長同席で当日決定可能 | スピードで一人一社制の最初の応募を獲得 |
| 保護者対策 | 集団説明会で対応 | 社長が直接挨拶できる | 個別の関係性で「うちの会社で良かった」を作る |
- 大手・福岡同条件でも社名で勝つ
- 中小同水準でも知られない
- •手取り・先輩実績・3年後年収を数字で出す
- 大手・福岡世界シェア・全国展開で先行
- 中小県内でも認知が限定的
- •取引先・地元ブランドとの関係性を語る
- 大手・福岡人事担当が網羅的に訪問
- 中小社長が1校に絞って3年通う
- •顔と名前を覚えてもらう関係性で勝つ
- 大手・福岡本社稟議で2〜3週間
- 中小社長同席で当日決定可能
- •スピードで一人一社制の最初の応募を獲得
- 大手・福岡集団説明会で対応
- 中小社長が直接挨拶できる
- •個別の関係性で「うちの会社で良かった」を作る
中小企業の構造的優位
大手企業の採用は組織のオペレーションです。中小企業の採用は社長の意思決定です。スピード・個別対応・3年通う継続性、いずれも「社長が直接動く」中小企業の方が、構造として優位に立てる領域があります。プロジェクト65+のような県の施策は、この優位を補強する仕組みとして使い倒すのが正解です。
戦略1.求人票を「数字で語る」設計に変える
SUMCO・久光製薬・トヨタ紡織九州は社名だけで応募が集まります。佐賀工業・有田工業・鳥栖工業の進路指導室に毎年大量の求人票が並ぶ中で、知名度のない中小企業は「具体的な数字で読み手の脳に残る」しかありません。「基本給○○円」「年間休日○日」だけでは差がつきません。手取り・先輩実績・有給取得率まで踏み込んでください。
- •「基本給17.5万円+皆勤手当1万円+住宅手当1.5万円=月収20万円」のように内訳と合算で書く
- •「年間休日115日(完全週休二日制+夏季5日+年末年始6日)」と内訳を出す
- •「入社3年目の手取り平均月収」「5年後の年収レンジ」を社内データで提示する
- •「有給取得率」「育休取得実績」「離職率」を隠さず開示する
- •「資格取得支援:受験料+テキスト代全額負担、合格報奨金あり」など投資額を明示
戦略2.4工業高校に「3年通う」前提で関係を作る
佐賀県の工業教育は4校(佐賀工業・有田工業・鳥栖工業・唐津工業)に集約されており、進路指導の先生は数年単位で異動します。7月1日の求人票解禁日にいきなり訪問しても、SUMCO・久光製薬・松尾建設の求人票の下に積まれます。先生に名前と顔を覚えてもらうには、最低3年の継続訪問が必要です。
- •7月1日の求人票解禁直後に訪問し、進路指導主事の顔をつなぐ
- •訪問には人事担当だけでなく社長または経営幹部が同行する
- •前年に入社したOB・OG社員(その高校卒)を母校訪問に同行させる
- •体育祭・文化祭・インターンシップ受入で接点を年4回以上に増やす
- •転勤シーズン(3月)に必ず挨拶し、新任の先生にも顔を売る
戦略3.保護者を「最初に味方につける」設計
内定辞退の主因は保護者の反対です。佐賀県の保護者は鳥栖から博多まで新鳥栖駅から新幹線で約12分、JR鹿児島本線快速でも約30分という距離感を知っているため、「うちの子は福岡で就職させたい」と考える層が必ず一定数います。この層に「福岡ではなく佐賀を選ぶ合理的な根拠」を渡すのが、中小企業のオヤカクの本質です。
- •内定通知書と同封で保護者宛の手紙(社長名義)を送る
- •土曜開催の保護者向け職場見学会を企画し、社長が直接挨拶する
- •可処分所得の福岡比較表を渡す(家賃・通勤・食費の差額を数字で)
- •OB・OG社員の保護者の声(実名は伏せた上で)を文書で配布する
- •佐賀県の保護者向け県内企業訪問バスツアーの受入企業に手を挙げる
戦略4.「佐賀ブランド」と自社の事業をつなげる
有田焼400年、佐賀牛、海苔生産日本一、SUMCOのシリコンウェーハ、サロンパス世界1位。佐賀県には全国的に通用するブランドが揃っています。中小企業の事業は単独では知名度がなくても、これらのブランドと自社事業の関係性を語ることで、高校生に「自分が地元の誇りに関わる仕事をする」感覚を持たせられます。
- •取引先や顧客に有名企業がある場合は具体名を出す(「○○のサプライチェーンの一部」)
- •地元の祭り(唐津くんち・佐賀インターナショナルバルーンフェスタ等)への協賛実績を示す
- •「佐賀で創業○年。地域の○○を支えてきた会社」と歴史を語る
- •有田焼・伝統工芸・農業など地域産業との取引があれば前面に出す
戦略5.SNS・動画で「働くリアル」を1分で見せる
高校生はInstagram・TikTokで「その会社で働く先輩」を調べます。佐賀県の中小企業の多くは採用専用アカウントを持っておらず、ここに参入するだけで同業他社との差別化が成立します。職場の写真1枚・先輩社員の1日密着の30秒動画から始めれば十分です。佐賀市の人材確保支援補助金(補助率1/2・上限30万円)を使えば、動画制作費の半額を補助してもらえます。
- •Instagramに週1回、職場・社員ランチ・新人の様子を投稿する
- •TikTokで「30秒でわかる○○の仕事」「高卒1年目の1日密着」を投稿する
- •採用ページ用に2〜3分の職場紹介動画をスマホ撮影・編集する
- •撮影・出演は若手社員本人にやってもらう(広告代理店風の作りは逆効果)
- •ハッシュタグ:#佐賀就活 #高卒採用 #佐賀で働く
戦略6.県・市の支援プラットフォームをフル活用する
佐賀県は「プロジェクト65+」として県内就職率65%以上の維持を目標に、合同企業説明会・保護者向けバスツアー・さがジョブナビ高校生サイト・SAGAミライシルプロジェクト・ジョブカフェSAGAなど、企業と高校生の接点を作るプラットフォームを揃えています。これらは大手企業も使えますが、知名度で劣る中小企業ほど積極的に活用するメリットが大きい施策です。
- •さがジョブナビ高校生向けサイト(hs.saga-job.jp)に企業情報を登録する
- •SAGAアリーナでの合同企業説明会に出展し、ブース演出で印象を残す
- •保護者向け県内企業訪問バスツアーの受入企業に登録する
- •SAGAミライシルプロジェクトに参加し、普通科高校との接点を作る
- •インターンシップ受入事業所一覧に登録し、学校からの紹介を受けやすくする
戦略7.「当日内定」のスピードで大手の稟議に勝つ
SUMCO・トヨタ紡織九州のような大手企業は本社稟議が必要で、面接から内定通知まで時間がかかります。一人一社制が適用される佐賀県では、選考のスピードが直接的に採用成功率を左右します。社長が面接に同席して、その場で「あなたと一緒に働きたい」と伝えられるのは、中小企業の最大の構造的優位です。
- •9月16日の選考開始日に面接を実施し、当日または翌日に内定を通知する
- •内定と同時に配属部署・担当業務・直属の先輩の紹介資料を渡す
- •内定者本人と保護者に社長から電話でお礼と歓迎の挨拶を行う
- •面接で良かった点を具体的にフィードバックし、入社意欲を高める
- •内定者懇親会を10月中に開催し「この会社で正解だった」体験を作る
7戦略のまとめ — どこから手をつけるか
7つの戦略を全て同時に走らせるのは現実的ではありません。「いま手元のリソースで明日から始められる」順に並べると、次のようになります。
- 戦略1(求人票を数字で語る)と戦略7(当日内定のスピード)はコストゼロ・社内決定だけで明日から実行できます。ここから始めてください。
- 次に戦略2(4工業高校に3年通う)。今年7月に間に合わなくても、来年・再来年の蓄積になります。社長の時間を確保してください。
- 同時に戦略6(県・市の支援プラットフォーム)に登録します。さがジョブナビ・インターンシップ受入登録は無料、当日完了します。
- 佐賀市内の企業であれば戦略5(SNS・動画)を佐賀市の人材確保支援補助金(補助率1/2・上限30万円)で実施します。
- 余裕が出てきたら戦略3(保護者を最初に味方につける)と戦略4(佐賀ブランドと自社をつなげる)を、内定通知のタイミングに合わせて整備します。
佐賀県の中小企業が高卒採用で大手に勝つために必要なのは、大企業並みの予算ではなく、社長が腹を据えて3年通うことです。1年目はおそらく応募は増えません。2年目に先生が名前を覚えてくれます。3年目に「○○さんの会社、推薦してもいいよ」と言ってもらえる関係になります。佐賀の採用は時間との勝負です。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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