一人一社制の基本ルール
定義
一人一社制とは、高卒採用の一次応募期間中に、1人の高校生が1社にしか応募できないルールです。応募先は学校の進路指導教員と相談のうえ決定し、学校推薦を通じて企業に応募書類を送付します。
1社に不合格になった場合、次の企業に応募することは可能です。同時に複数社へ応募することが制限されている点が、大卒採用との最大の違いです。
法律ではなく「申し合わせ」
一人一社制は、法律で定められた制度ではありません。各都道府県の「高等学校就職問題検討会議」(行政・学校・経済団体の三者で構成)による申し合わせとして運用されています。
法的な強制力はないものの、ハローワーク・高校・企業の三者がこのルールに従って採用活動を行うことが全国的な慣行となっています。
法的根拠
職業安定法第26条「公共職業安定所は学校の学生若しくは生徒の職業紹介については、学校と協力して行う」が、ハローワークと学校が連携する根拠です。この協力体制の運用ルールとして、一人一社制が位置づけられています。
全国統一スケジュール
高卒採用の選考スケジュールは、全国高等学校就職問題検討会議で毎年統一的に定められます。主要な日程は以下の通りです。
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 6月1日 | ハローワークが求人申込書の受付を開始 |
| 7月1日 | 求人票の公開・学校訪問・職場見学の解禁 |
| 9月5日 | 応募書類の提出開始(学校推薦の送付開始) |
| 9月16日 | 選考開始(面接・筆記試験など) |
| 10月以降 | 多くの県で複数社への応募が解禁(県により異なる) |
9月5日の応募開始から複数応募解禁日までが「一人一社制」の適用期間です。この期間は都道府県により異なり、10月1日に解禁する県と11月1日に解禁する県に大きく分かれます。
出典: 厚生労働省「新規高等学校卒業者の就職に係る採用選考期日等」 / TCRU「高卒採用とは」
【2026年最新】制度を変更した5府県
2026年3月時点で、一次応募の段階から複数社への応募を認めている府県は以下の5つです。
| 都道府県 | 制度 | 開始年度 | 上限社数 | 条件 |
|---|---|---|---|---|
| 秋田県 | 一人三社制 | 2003年度〜 | 3社 | 県内求人限定 |
| 沖縄県 | 一人三社制 | 以前から | 3社 | 応募開始8月30日 |
| 和歌山県 | 複数応募制(上限なし) | 2021年度〜 | 制限なし | 県内企業限定+企業承諾制 |
| 大阪府 | 一人二社制 | 2022年度〜 | 2社 | 公開求人限定+企業承諾制 |
| 茨城県 | 一人二社制 | 2024年度〜 | 2社 | 公開求人限定+企業承諾制 |
秋田県 ── 全国に先駆けた一人三社制
秋田県は2003年度から一人三社制を導入しており、全国で最も早くから複数応募を認めてきた県の一つです。対象は県内求人に限定されており、県外求人には適用されません。20年以上の運用実績があり、高校生が複数企業を比較できる環境が定着しています。
出典: 秋田採用サポートナビ「高卒採用の一人一社制」
沖縄県 ── 応募開始が最も早い県
沖縄県は以前から一人三社制を採用しており、応募開始日が全国統一の9月5日より早い8月30日に設定されています。求人倍率が他県と比べて低い沖縄県では、高校生の就職機会を広げるために複数応募が認められてきました。
出典: 高卒採用Lab「一人一社制とは」
和歌山県 ── 全国初の上限撤廃
和歌山県は2021年度から複数応募制を導入し、応募社数の上限を撤廃しました。全国で唯一、応募社数に制限を設けていない県です。ただし、対象は県内企業に限定されており、企業側が複数応募を承諾している求人のみが対象となる「企業承諾制」を採用しています。
出典: 紀伊民報AGARA「高校生就活、和歌山で複数応募可に」
大阪府 ── 導入2年目で利用者わずか6人
大阪府は2022年度から一人二社制を導入しました。公開求人に限定し、企業承諾制を採用しています。しかし日経新聞の報道によると、導入2年目(2023年度)の利用者はわずか6人にとどまっています。
利用が伸びない背景には、学校側の負担増(推薦状作成が2倍になる)や、従来通り1社で十分内定が取れている実態があると指摘されています。
出典: 高卒採用Lab「大阪府の一人二社制」 / 日経新聞「大阪府が高卒就活ルール変更」 / 日経新聞「一人二社制、利用者6人」
茨城県 ── 2024年度から新たに導入
茨城県は2024年度から一人二社制を導入しました。大阪府と同様に公開求人限定・企業承諾制を採用しています。選考開始日(9月16日)から複数応募が可能で、従来の一人一社制の期間を設けずにスタートする点が特徴です。
出典: 進路ナビ「茨城県が一人二社制導入」
47都道府県の複数応募解禁日一覧
以下は、47都道府県の一次応募ルールと複数応募解禁日の一覧です。制度変更済みの5府県は背景色でハイライトしています。
| 都道府県 | 一次応募 | 複数応募解禁日 | 上限社数 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 青森県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 岩手県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 宮城県 | 一人一社 | 10月1日 | 3社 |
| 秋田県 | 一人三社 | 9月(当初から) | 3社 |
| 山形県 | 一人一社 | 10月1日 | 3社 |
| 福島県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 茨城県 | 一人二社 | 9月16日(当初から) | 2社 |
| 栃木県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 群馬県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 埼玉県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 千葉県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 東京都 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 神奈川県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 新潟県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 富山県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 石川県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 福井県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 山梨県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 長野県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 岐阜県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 静岡県 | 一人一社 | 11月1日 | 3社 |
| 愛知県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 三重県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 滋賀県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 京都府 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 大阪府 | 一人二社 | 9月(当初から) | 2社 |
| 兵庫県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 奈良県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 和歌山県 | 複数応募制 | 9月(当初から) | 制限なし |
| 鳥取県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 島根県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 岡山県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 広島県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 山口県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 徳島県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 香川県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 愛媛県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 高知県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 福岡県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 佐賀県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 長崎県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 熊本県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 大分県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 宮崎県 | 一人一社 | 11月1日 | 2社 |
| 鹿児島県 | 一人一社 | 10月1日 | 2社 |
| 沖縄県 | 一人三社 | 8月30日(当初から) | 3社 |
背景がハイライトされている5府県は、一次応募の段階から複数応募が可能です。その他の42都道府県は一次応募期間中は一人一社制が適用され、表中の「複数応募解禁日」以降に2社目以降の応募が可能になります。
出典: 高卒採用Lab「一人一社制とは」 / カケハシplus「一人一社制の都道府県別ルール」
なぜ見直しが進んでいるのか
高卒者の早期離職率が4割
厚生労働省の調査によると、高卒就職者の3年以内離職率は約4割に達しています。「入社前にイメージしていた仕事と違った」というミスマッチが離職の主な原因の一つであり、一人一社制のもとでは複数企業を比較検討できないことが問題視されてきました。
厚労省・文科省の見直し要請
2020年、厚生労働省と文部科学省は「高等学校就職問題検討会議」において、一人一社制の見直しを含む検討を各都道府県に要請しました。「生徒が主体的に職業選択できる仕組み」の実現が求められています。
それでも42県が維持している理由
厚労省・文科省の見直し要請にもかかわらず、2026年時点で42都道府県が一人一社制を維持しています。日経新聞は「見直し進まず」と報じており、その背景には以下の事情があります。
- 1.学校の負担増: 複数応募を認めると、推薦状の作成・管理が倍増し、進路指導教員の業務負担が大きくなる
- 2.内定辞退への懸念: 企業側は「せっかく内定を出しても辞退されるのでは」という不安を抱えている
- 3.高い内定率への安心感: 高卒採用の内定率は例年98%前後と極めて高く、現行制度でも「ほぼ全員が就職できている」という実態がある
出典: 日経新聞「高卒就活「一人一社」見直し進まず」 / 厚生労働省(2020年報告書、日経経由)
企業への影響と対策
一次応募から複数応募可の県(5府県)
秋田県・沖縄県・和歌山県・大阪府・茨城県では、一次応募の段階から複数社への応募が可能です。これらの県で採用活動を行う企業は、内定辞退のリスクを織り込んだ採用計画が必要です。
ただし、大阪府の実績が示すように、実際の利用者は極めて少数にとどまっています。制度上のリスクは存在するものの、現時点で大きな混乱は発生していません。
従来の一人一社制の県(42都道府県)
一人一社制が維持されている県では、応募=ほぼ入社の意思表示であり、内定辞退率は極めて低い状況が続いています。ただし、将来的な制度変更の可能性は常にあるため、準備を進めておくことが重要です。
どちらの県でも共通: 「選ばれる企業」になることが最重要
一人一社制であっても、高校生は「どの1社に応募するか」を複数企業の中から選んでいます。複数応募制に移行すれば、比較検討がより明確に行われるようになります。
制度がどちらであっても、企業に求められるのは同じです。
- •求人票だけでは伝わらない「働くイメージ」を職場見学やWebで発信する
- •進路指導教員との信頼関係を構築し、推薦してもらえる企業になる
- •高校生・保護者が企業を調べたときに「ここで働きたい」と思える情報を整備する
よくある質問
Q1. 一人一社制は法律ですか?
A. いいえ。一人一社制は法律ではなく、各都道府県の高等学校就職問題検討会議による「申し合わせ」です。職業安定法第26条(学校とハローワークの協力体制)を根拠に、行政・学校・経済団体が合意した慣行として運用されています。
Q2. 一人一社制は来年から変わりますか?
A. 各都道府県の高等学校就職問題検討会議が毎年4月頃に開催され、翌年度の運用ルールを決定します。変更の有無は県ごとに異なるため、最新の情報は各県の教育委員会または労働局に確認する必要があります。2024年度時点で制度を変更済みなのは秋田県・沖縄県・和歌山県・大阪府・茨城県の5府県です。
Q3. 複数応募が可能な県で内定辞退は増えましたか?
A. 大阪府では2022年度に一人二社制を導入しましたが、2年目の利用者はわずか6人にとどまり、内定辞退の大幅な増加は確認されていません(日経新聞報道)。制度があっても実際の利用は限定的で、影響は小さいのが現状です。
Q4. 企業が複数応募を受け入れるにはどうすればいいですか?
A. 大阪府・茨城県では「企業承諾制」が採用されており、企業側が「複数応募可」の意思表示をした求人のみが対象になります。公開求人であることも条件です。企業は求人票提出時に複数応募を受け入れるかどうかを選択できます。
Q5. 一人一社制が廃止されたら何が変わりますか?
A. 一人一社制が廃止された場合、高校生が複数企業に同時応募できるようになり、大卒採用に近い選考形態に移行します。企業にとっては内定辞退リスクが発生する一方、高校生にとっては比較検討の機会が増えます。企業側は早期の情報発信や採用ブランディングがより重要になります。
関連記事
データ出典
- • 高卒採用Lab「一人一社制とは」
- • 秋田採用サポートナビ「高卒採用の一人一社制」
- • 紀伊民報AGARA「高校生就活、和歌山で複数応募可に」
- • 高卒採用Lab「大阪府の一人二社制」
- • 日経新聞「大阪府が高卒就活ルール変更」
- • 日経新聞「一人二社制、利用者6人」
- • 進路ナビ「茨城県が一人二社制導入」
- • TCRU「高卒採用とは」
- • 日経新聞「高卒就活「一人一社」見直し進まず」
- • 厚生労働省(2020年報告書、日経経由)
- • カケハシplus「一人一社制の都道府県別ルール」
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター





