1. 高卒採用に関する法的枠組み
高卒採用に関する法的枠組みは、複数の法律と行政機関の通達によって構成されています。以下、主要な法的根拠について詳しく解説します。
主要な法律
職業安定法第26条
「公共職業安定所は学校教育法第一条に規定する学校の学生若しくは生徒又は学校を卒業し、又は退学した者の職業紹介については、学校と協力して行う」と規定されています。
この条文が、ハローワークと学校が連携して高卒採用を実施する法的根拠となっています。
労働基準法
年少者(18歳未満)の保護に関する規定があり、労働時間や深夜労働の制限が定められています。
労働基準法第61条では、18歳未満の労働者を午後10時から午前5時までの深夜業に従事させることを原則禁止しています。また、時間外労働や休日労働も原則として認められていません。
学校教育法
学校の進路指導に関する規定があり、高等学校が生徒の就職支援を行う法的根拠となっています。
行政機関による統一ルール
全国高等学校就職問題検討会議(文部科学省、厚生労働省、全国高等学校校長協会、主要経済団体が参画)において、全国統一的なルールが定められています。
この会議での決定事項は、各都道府県の高等学校就職問題検討会において具体的な運用の申し合わせが行われます。
出典: 厚生労働省「高卒求人のルール」、文部科学省通達、リクルートワークス研究所「高校就職・採用に関する法令を整理する」
2. 一人一社制の法的根拠と運用ルール
一人一社制とは
一人一社制とは、「1人の求職者(高校生)が1つの企業にのみ応募できる」というルールです。
このルールは、高卒採用における応募・選考の混乱を防ぎ、生徒と企業双方の負担を軽減するために設けられています。
法的位置づけ
一人一社制は、各都道府県の高等学校就職問題検討会による「申し合わせ」で定められている慣行です。
重要な注意点
一人一社制は法律で規定されているわけではありません。職業安定法第26条の「学校とハローワークの協力体制」を根拠とし、行政・学校・経済団体による申し合わせとして運用されている制度です。
決定方法
一人一社制の運用ルールは、以下の3者による年次協議で決定されます。
- • 行政(文部科学省・厚生労働省)
- • 学校組織(全国高等学校長協会)
- • 主要経済団体
各都道府県では、これらの関係者による会議が開催され、地域ごとの具体的な運用ルールが決定されます。
都道府県別の運用
多くの都道府県では、以下のようなルールが採用されています。
| 期間 | 応募ルール |
|---|---|
| 9月5日〜9月末 | 一人一社制(1社のみ応募可能) |
| 10月以降 | 複数社への応募・推薦が可能 |
ただし、具体的な期間は都道府県により異なる場合があります。各地域の運用ルールについては、該当都道府県の労働局または高等学校にご確認ください。
出典: 厚生労働省・文部科学省「高卒求人のルール」、各都道府県労働局資料
3. 選考スケジュールの法的規制
高卒採用のスケジュールは、全国高等学校就職問題検討会議において全国統一的に定められています。2024年度(2025年3月卒業予定者)の主要日程は以下の通りです。
| 日付 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 6月1日 | ハローワークが求人申込書の受付を開始 | 企業 |
| 7月1日 | 採用活動解禁(求人票送付・学校訪問・職場見学開始) | 企業・高校生 |
| 9月5日 | 応募受付開始(学校から企業への推薦開始) | 学校・企業 |
| 9月16日 | 選考開始・内定開始 | 企業 |
| 10月以降 | 二次募集開始(複数社応募可能に) | 企業・高校生 |
7月1日:採用活動解禁の意味
7月1日は、高卒採用における「解禁日」です。この日以降、企業は以下の活動が可能になります。
- • 高校への求人票送付
- • 高校への訪問(求人内容の説明)
- • 高校生の職場見学受け入れ
- • 進路指導教員への企業説明
9月16日以降の選考
9月16日以降に実施する面接・筆記試験などは、すべて学校推薦を通じて応募してきた生徒のみが対象です。
企業が直接生徒と連絡を取ることは禁止されており、選考に関する連絡はすべて学校を経由して行われます。
出典: 厚生労働省「令和6年3月新規高等学校卒業者の就職に係る採用選考期日等を取りまとめました」、ジンジブ高卒採用スケジュール資料
4. 労働基準法による年少者保護規定
年少者の定義
労働基準法における「年少者」とは、18歳未満の労働者を指します。これは学校在籍の有無ではなく、年齢によって判断されます。
高等学校を卒業する生徒の多くは18歳ですが、3月時点でまだ18歳になっていない生徒については、年少者保護規定が適用されます。
深夜業の禁止(労働基準法第61条)
規定内容: 労働基準法第61条において、18歳未満の労働者を深夜業に従事させることは原則禁止されています。
深夜業の定義: 午後10時から午前5時までの時間帯
この規定により、18歳未満の高卒新入社員を午後10時以降に働かせることはできません。
時間外労働・休日労働の制限
18歳未満の労働者については、時間外労働や休日労働が原則として認められていません。
企業は、18歳未満の新入社員に対して残業や休日出勤を命じることができないため、勤務シフトや業務計画を作成する際に注意が必要です。
年齢証明書類の備え付け義務
年少者を使用する場合、使用者は、その年齢を証明する書類(氏名および出生年月日についての住民票記載事項証明書)を事業場に備え付けなければなりません。
企業が準備すべき書類
- • 住民票記載事項証明書(氏名・生年月日記載)
- • 年齢確認のための公的書類
違反した場合の罰則
労働基準法の年少者保護規定に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
出典: 労働基準法第61条、厚生労働省「年少者労働基準規則」、静岡労働局「高校生等を使用する事業主の皆さんへ」
5. 職業安定法による労働条件明示義務
2024年4月の法改正
2024年4月1日より、職業安定法施行規則の改正により、労働条件明示のルールが変更されました。
新たに明示が必要になった項目
- • 就業場所の変更範囲
- • 業務の変更範囲
- • 有期労働契約の更新基準(契約期間の上限または更新回数の上限を含む)
従来から必須の明示事項
企業は求人票において、以下の労働条件を明示する義務があります。
- • 業務内容
- • 契約期間
- • 就業場所
- • 就業時間
- • 休憩時間
- • 休日・休暇
- • 賃金
- • 加入保険
- • 募集者の氏名または名称
2024年4月改正の背景
厚生労働省は、「労働者が求人に応募する際に、将来的な配置転換や契約更新の可能性について予測できるようにする」ことを改正の目的としています。
特に高卒採用においては、生徒と保護者が将来のキャリアパスを理解した上で応募できるよう、変更範囲の明示が重要とされています。
企業が対応すべきこと
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 就業場所の変更範囲 | 「本社(愛知県)および全国の支店・営業所」 |
| 業務の変更範囲 | 「製造業務全般(組立・検査・梱包等)」 |
| 契約更新基準 | 「原則として正社員登用。契約期間は最長3年、更新回数の上限なし」 |
出典: 厚生労働省「職業安定法施行規則改正|労働条件明示等」(令和6年4月施行)
6. 学校推薦制度のルール
学校推薦制度とは
高卒採用は、学校を通じた推薦制度が基本となっています。これは、職業安定法第26条の「学校とハローワークの協力体制」に基づく運用です。
企業との直接連絡の禁止
高校生は、企業との直接連絡を禁止されています。原則として、企業情報を高校経由で得ることになります。
禁止されている行為
- • 生徒が企業に直接電話・メールで問い合わせること
- • 企業が生徒に直接連絡すること
- • 学校を経由せずに応募書類を送ること
推薦の流れ
- 1. 生徒の希望確認
進路指導教員が生徒の希望職種・業界・地域等を確認 - 2. 企業とのマッチング
教員が生徒の適性と企業の要件を照合し、推薦先を決定 - 3. 校内選考
複数の生徒が同じ企業を希望する場合、校内で選考を実施 - 4. 学校推薦
学校が企業に対して正式に推薦(9月5日以降) - 5. 企業による選考
企業が推薦された生徒を選考(9月16日以降)
指定校制度
企業が特定の高校を「指定校」として求人を出す制度も存在します。これは、過去に採用実績があり、良好な関係を築いている高校に対して、優先的に求人を出す方法です。
指定校制度は、企業と学校の長期的な信頼関係に基づく運用であり、法律で規定されているものではありません。
出典: 厚生労働省・文部科学省「高卒求人のルール」、リクルートワークス研究所資料
7. よくある質問
Q1. 一人一社制は法律で決まっていますか?
A. いいえ、一人一社制は法律で規定されているわけではありません。各都道府県の高等学校就職問題検討会による「申し合わせ」で定められている慣行です。職業安定法第26条の「学校とハローワークの協力体制」を根拠として運用されています。
Q2. 18歳の新入社員に残業を命じることはできますか?
A. 18歳未満の労働者については、時間外労働が原則として認められていません。高卒新入社員の多くは入社時18歳ですが、3月時点でまだ18歳になっていない場合は、18歳の誕生日まで残業を命じることができません。
Q3. 2024年4月の職業安定法改正で何が変わりましたか?
A. 2024年4月から、求人票に「就業場所の変更範囲」「業務の変更範囲」「有期労働契約の更新基準」の明示が義務化されました。高卒採用においても、これらの情報を求人票に記載する必要があります。
Q4. 深夜業の禁止はいつまで適用されますか?
A. 労働基準法第61条により、18歳未満の労働者は午後10時から午前5時までの深夜業が禁止されています。18歳の誕生日を迎えた翌日から、この制限は解除されます。
Q5. 一人一社制はいつまで続きますか?
A. 多くの都道府県では、9月5日から9月末まで一人一社制が適用され、10月以降は複数社への応募が可能になります。ただし、具体的な期間は都道府県により異なるため、該当地域の労働局または高等学校にご確認ください。
Q6. 高校生と直接連絡を取ることはできますか?
A. いいえ、高卒採用では企業と生徒の直接連絡は禁止されています。すべての連絡は学校を経由して行う必要があります。これは学校推薦制度の根幹をなすルールです。
Q7. 労働基準法違反の罰則は何ですか?
A. 労働基準法の年少者保護規定(深夜業禁止、時間外労働制限等)に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
データ出典
- • 厚生労働省「職業安定法施行規則改正|労働条件明示等」(令和6年4月施行)
- • 厚生労働省・文部科学省「高卒求人のルール」
- • 労働基準法第61条(年少者の深夜業禁止)
- • 職業安定法第26条(学校とハローワークの協力)
- • 厚生労働省「令和6年3月新規高等学校卒業者の就職に係る採用選考期日等を取りまとめました」
- • リクルートワークス研究所「高校就職・採用に関する法令を整理する」
- • 静岡労働局「高校生等を使用する事業主の皆さんへ」
- • 株式会社ジンジブ「高卒採用スケジュール」
