愛媛で採った高卒社員を3年もたせる
造船・紙パ・住友協力会社・南予・中小製造業の早期離職防止ガイド
求人倍率3.34倍の愛媛県で、苦労して1人採った高卒社員が GW 明けに辞めた。「三交代制が思ったよりきつい」と言われた。面接で「大丈夫か」と確認した。本人も「大丈夫です」と答えた。何が違ったのか。
この経験をした企業は、愛媛県では珍しくありません。全国データでは高卒就職者の3年以内離職率は37.9%(厚生労働省・令和4年3月卒)で、約4割が3年以内に辞めています。愛媛県は造船・紙パルプ・化学・繊維など24時間稼働の交代制工場が多く、また南予 9 市町から松山圏への通勤負担も離職の引き金になります。
この記事は、愛媛県の5タイプの産業別に「なぜ辞めるか」を整理し、従業員50人の会社で明日からできる対応を具体的に書いたものです。「メンター制度を導入しましょう」のような正論ではなく、メンターを置く人がいないときに何をするかから話します。
愛媛県の 5 タイプ別 離職要因
タイプ A:造船(今治・新来島どっく協力会社)
船 1 隻の建造には数ヶ月〜1年以上かかります。新入社員が担当するのは溶接や塗装の 1 工程の繰り返しで、自分の仕事の完成が見える日が来ません。「自分は何を作っているのか」が分からなくなる時期が、入社後 3〜6 ヶ月で訪れます。
対応:「あなたが担当した○○の部品は△△番船のここに使われている」と進捗を可視化する写真メールを月1で本人と保護者に送る。3ヶ月ごとに JIS 溶接技能者の試験を受けさせ、合格通知で「成長している」を見える形にする。
タイプ B:紙パルプ・化学(四国中央・新居浜・西条の 24 時間 3 交代)
大王製紙・ユニ・チャーム・住友化学・クラレなどの本体および協力会社で多い 3 交代制勤務。朝起きて夜寝ていた18歳にとって、生活リズムの激変は想像以上のストレスです。深夜手当で給与が増える前に、体調と気持ちが追いつきません。
対応:内定後〜入社前に、実際の夜勤の時間帯に1〜2日体験させる。深夜の作業環境を見て、それでもこの会社で働きたいかを本人に判断させる。この体験で辞退する生徒が出る可能性はあるが、入社後3ヶ月で辞められるよりはるかにマシ。GW明けは特に体調確認の頻度を上げる。
タイプ C:住友協力会社(新居浜・西条)
住友金属鉱山・住友重機械・住友化学のすぐ隣で働く協力会社の社員は、本体社員との給与・福利厚生・年間休日の差を毎日見ます。同じ食堂・同じ通勤路・同じ作業着、でも年収は数十万違う。これが3ヶ月目あたりから刺さってきます。
対応:入社時に「住友本体に行かなかった理由」を本人に言語化させる(実家から通えるから、規模が小さい方がいいから、など)。3ヶ月・半年・1年で「あの時の選択は今どう感じる?」と問い直す面談を設計する。差を埋められない部分は隠さず認め、住友本体にはない強み(社長との距離・幅広い経験)を具体的に示す。
タイプ D:南予の企業 + 南予→松山通勤者
宇和島・八幡浜・大洲から松山までは車で 1.5〜2 時間。バス・JR では片道 3 時間級。「地元で働きたいが、地元の求人はない」を抱える社員が、毎日の通勤で疲弊します。逆に松山圏から南予企業に赴任した場合は、地元コミュニティに溶け込めない孤立が離職を呼びます。
対応:通勤組にはガソリン代の全額支給+社員寮または借り上げ住宅を提供。週1〜2回の在宅可能業務がある場合は積極的に活用。南予赴任組には、社長や工場長が地元の祭り・消防団・PTA への参加を直接橋渡しする。
タイプ E:中小製造業(同期がいない孤立)
従業員 50 人の中小製造業で 1 人だけ採用した場合、入社初日から周囲は全員年上です。10 代と 50 代の間に 20 代・30 代がほとんどいない「年齢層の断裂」が起きている会社では、聞きたいことを聞ける相手がいません。
対応:社長 or 工場長が直接メンター役。週 1 回 15 分の対話を組み込む。「困ったことがあったら言ってね」ではなく「今週いちばん大変だったことは何?」と具体的に聞く。月 1 回は昼食を一緒に食べる。同年代がいない場合は、同業の他社の若手と引き合わせる場(地元商工会議所の青年部など)を社長が作る。
いつ辞めるか — 危険なタイミングと見逃せないサイン
離職は突然ではなく、必ず前兆があります
GW 明け(入社後1ヶ月)— 最も危険
4 月に必死で頑張った反動と、GW 中に高校時代の友人と会って「比較」してしまうこと。この 2 つが重なる GW 明けが、最も離職リスクの高い時期です。
「辞めたい」の前に出る行動変化
- 1.朝の挨拶が小さくなる
- 2.休憩時間にひとりでスマホを見ている時間が増える
- 3.質問しても「特にないです」が増える
- 4.欠勤ではなく遅刻が増える(辞めたいが朝起きられなくなるのが先行サイン)
- 5.先輩や上司との雑談を避けるようになる
これらのサインが 2 つ以上見えたら、すぐに 1 対 1 で話す機会を作ってください。「何かあった?」ではなく、「最近、仕事で一番しんどいことは何?」と具体的に聞くことが重要です。
3 ヶ月目 — 「成長していない」不安
試用期間が終わる頃。最初の緊張が解けて、逆に「自分は何もできるようになっていないのでは」という不安が芽生えます。特に造船や紙パの大規模工程では、3 ヶ月で一人前になれる仕事はありません。本人がそのことを理解していないと、「自分には向いていない」と結論づけてしまいます。
対応:3 ヶ月時点で「入社時にはできなかったけど今できるようになったこと」を一緒にリストアップ。本人は気づいていなくても、必ず成長している部分がある。それを言語化して見せること。
6 ヶ月目 — 友達との比較が深刻になる
手取り 14〜15 万円の生活に慣れた頃、大学進学した友人はバイトで同じくらい稼ぐ。他社に就職した友人が「ボーナス出た」と SNS に上げる。自分の夏のボーナスは寸志だった——という比較が始まります。
対応:半年間の昇給・賞与実績を見せたうえで、3 年後・5 年後の年収モデルを提示する。大卒が 22 歳でスタートするのに対し、高卒は 18 歳から 4 年分のキャリアを積んでいるという事実を、数字で見せることが効果的です。
1 年目の終わり — マンネリか、次のステージか
仕事に慣れてきた。しかし「慣れた」は「飽きた」に変わりやすい。1 年目の終わりに「次の担当」や「新しい工程」へのステップアップを用意するか、後輩指導の役割を与えること。「この会社で、来年は今年とは違うことができる」と思えるかが、2 年目を迎えられるかの分岐点です。
入社 1 年目 — 月別の定着アクション
先手を打つためのチェックリスト
| 時期 | リスク | 本人の状態 | やるべきこと |
|---|---|---|---|
| 内定〜入社前 | 中 | 期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」 | 月1回のニュースレター / 3交代制の夜勤体験(紙パ・化学・住友協力会社) / 給与明細の見方説明 / 先輩社員との座談会 |
| 入社〜2週間 | 高 | 環境激変。「居場所がない」 | 歓迎ランチ / 社長 or 工場長との初回面談 / 毎日の声かけ / 2 週間のスケジュールを事前提示 |
| 1ヶ月(GW明け) | 最高 | 五月病。「やっぱり合わないかも」 | 週1回の1対1対話 / 保護者への状況報告手紙 / GW明け翌日の特別フォロー / 小さな成功の承認 |
| 3ヶ月 | 高 | 「成長していない」不安 | 成長の棚卸し(入社時 → 今の比較) / 次の3ヶ月の目標設定 / 本採用決定の面談 |
| 6ヶ月 | 中 | 友達との比較。「あっちの方がよさそう」 | 昇給・賞与実績の提示 / 3年後の年収モデル提示 / 資格取得(JIS 溶接・玉掛け等)の提案 |
| 1年 | 中 | マンネリ。「このままでいいのか」 | 新しい工程・担当へのステップアップ / 後輩指導役の準備 / 1 年間の成果発表の機会 |
期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」
- •月1回のニュースレター
- •3交代制の夜勤体験(紙パ・化学・住友協力会社)
- •給与明細の見方説明
- •先輩社員との座談会
環境激変。「居場所がない」
- •歓迎ランチ
- •社長 or 工場長との初回面談
- •毎日の声かけ
- •2 週間のスケジュールを事前提示
五月病。「やっぱり合わないかも」
- •週1回の1対1対話
- •保護者への状況報告手紙
- •GW明け翌日の特別フォロー
- •小さな成功の承認
「成長していない」不安
- •成長の棚卸し(入社時 → 今の比較)
- •次の3ヶ月の目標設定
- •本採用決定の面談
友達との比較。「あっちの方がよさそう」
- •昇給・賞与実績の提示
- •3年後の年収モデル提示
- •資格取得(JIS 溶接・玉掛け等)の提案
マンネリ。「このままでいいのか」
- •新しい工程・担当へのステップアップ
- •後輩指導役の準備
- •1 年間の成果発表の機会
面談で使える問いかけ — 「大丈夫?」は聞いたことにならない
18 歳に本音を話してもらう聞き方
「困ってない?」「大丈夫?」と聞いても、18 歳は「大丈夫です」としか答えません。以下の問いかけに変えてください。
答えやすい問いかけの例
- Q.「先週、仕事で一番楽しかったことは何?」
- Q.「今、一番わからないことって何?」
- Q.「家に帰ってから何してる?」(生活リズムの異変をキャッチ)
- Q.「この会社に入って、思ってたのと違ったことってある?」
- Q.「もしうちの会社を友達に紹介するとしたら、何て言う?」
最後の質問で出てくる言葉が「別に...」なら危険サイン。ポジティブな言葉が出れば定着の兆し。
4 番目の質問をするときは、「違って当然だよ。自分もそうだった」と前置きしてください。「正直に答えていい」と思える空気がないと、本音は出てきません。
愛媛県で活用できる定着支援
ジョブカフェ愛 work(愛媛県若年者就職支援センター)
15 歳〜40 歳代前半の若年者の就職・定着支援を無料で提供。年間約 5,000 人が利用し、累計利用者数は約 83 万人、就職決定者は約 3.4 万人。松山本所のほか東予サテライト・南予サテライトでも対応。企業向けの若手育成セミナーも実施。
ジョブカフェ愛 work 公式(愛媛県庁)愛媛県中核産業人材確保のための奨学金返還支援制度(大卒・大学院卒向け)
登録企業に勤務する大学・大学院卒の正社員に対し、奨学金返還額のうち年間最大 16.8 万円を最大 7 年間助成。高卒社員は対象外。高卒採用の文脈で「奨学金返還支援が使える」と説明すると先生・保護者の信頼を失うため注意。大卒採用部門との併用時は活用。
愛媛県中核産業人材確保のための奨学金返還支援制度(愛媛県庁)定着のために自社で運用できる支援は愛媛県の採用支援・補助金ガイドで網羅しています。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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