高卒で採った社員を辞めさせない
徳島県の中小企業ができる定着の仕組み
求人倍率3.21倍の徳島県で、やっと1人採った高卒社員が半年で辞めた。「大阪の友達が稼いでて、俺もそっち行く」と言われた——徳島の中小企業ではよく聞く話です。
徳島県は大学進学時の県外転出率66.9%、20-24歳の転出超過は男性146人・女性215人。明石海峡大橋でバス2時間の関西圏(大阪・神戸)が「すぐ手の届く都会」として機能していて、入社後の若手社員もSNSで友人の生活と比較されながら働いています。
全国データでは高卒就職者の3年以内離職率は37.9%(厚生労働省・令和4年3月卒)。約4割が3年以内に辞めています。徳島県単独の高卒離職率データは公表されていませんが、関西への近接性と就職希望者797人の希少性を考えると、この問題は徳島県の企業にとって特に重い意味を持ちます。
この記事では、「なぜ辞めるのか」を徳島の現場から考え、「従業員30人の会社・3年目社員不在の状況でも明日からできること」を具体的に解説します。
徳島県の中小企業で、高卒社員が辞める理由
「大阪に行けばもっと稼げる」というSNSの圧力
徳島県は明石海峡大橋でバス2時間。大阪・神戸が「日帰り圏」に入っています。入社後数ヶ月、SNSを開くと——
- •大学に進学した同級生が梅田で楽しそうにしている
- •他社(特に関西の物流・小売)に就職した友人が「ボーナス出た」「土日完全休み」と投稿している
- •自分は手取り14〜15万円。「徳島にいる意味、ある?」
徳島県の高卒就職者にとって、関西圏は「すごく遠い場所」ではありません。お盆・年末年始に帰省で会った友人の話で、離職意志が固まるケースが頻発します。「関西流出」は採用時だけの問題ではなく、入社後も継続する圧力です。
3年目社員がいない孤立
日亜化学工業や大塚製薬工場のような大手は1度に数十人を採用します。同期がいる、3年目の先輩がいる、5年目の班長がいる。階段がある。
徳島県の中小企業は1人か2人の採用が多く、しかも前年度に高卒採用していない年もよくあります。入社初日から、周囲は40代・50代の親世代しかいない。「見て覚えろ」と言われても、何を見ればいいかわからない。質問できる相手が物理的にいないのが、徳島の中小製造業・建設業・福祉施設の現実です。
「ものづくり」のイメージと現場のギャップ
徳島県の製造品出荷額は2.3兆円。LED・医薬品・食品包装機械が基幹です。工業高校から製造業に就職する生徒にとって「ものづくり」は前向きなイメージで入社します。
しかし現場で待っているのは:
- •シフト勤務・交代制。高校まで朝起きて夜寝ていた18歳にとって、生活リズムの激変は想像以上のストレスです
- •同じ作業の反復。「ものを作る」イメージと「同じ動作を8時間繰り返す」現実のギャップ
- •工場の騒音・におい・夏場の暑さ。求人票の文字情報では伝わらない感覚的な環境
面接で「交代勤務は大丈夫ですか?」と聞けば、18歳は「大丈夫です」と答えます。やったことがないのだから、本当の意味で想像できていない。これはミスマッチではなく「体験の不足」です。
県西部・南部の山間部:友人すら通えない距離
三好市・つるぎ町・那賀町などの山間部では、生活インフラそのものが課題になります。通勤で車が必須、夜は店が閉まる、友人との集まりも片道1時間。「仕事は嫌じゃないけど、この土地での生活がつらい」——これは離職理由の統計には出てきませんが、徳島の山間部企業が直面している現実です。
いつ辞めるか — 危険なタイミングと見逃せないサイン
離職の多くは突然ではなく、予兆があります
GW明け(入社後1ヶ月)— 最も危険
4月に必死で頑張った反動と、GW中に高校時代の友人と会って「比較」してしまうこと。この2つが重なるGW明けが、最も離職リスクの高い時期です。徳島県では特に、関西の大学に進学した友人と神戸・大阪で会って帰ってくるケースが多発します。
「辞めたい」の前に出る行動変化
- 1.朝の挨拶が小さくなる
- 2.休憩時間にひとりでスマホを見ている時間が増える
- 3.質問しても「特にないです」が増える
- 4.欠勤ではなく遅刻が増える(辞めたいが朝起きられなくなるのが先行サイン)
- 5.先輩や上司との雑談を避けるようになる
これらのサインが2つ以上見えたら、すぐに1対1で話す機会を作ってください。「何かあった?」ではなく、「最近、仕事で一番しんどいことは何?」と具体的に聞くことが重要です。
3ヶ月目 — 「成長していない」不安
試用期間が終わる頃。最初の緊張が解けて、逆に「自分は何もできるようになっていないのでは」という不安が芽生えます。徳島の中小製造業では、3ヶ月で一人前になれる仕事はほぼありません。本人がそのことを理解していないと、「自分には向いていない」と結論づけてしまいます。
対応:3ヶ月時点で「入社時にはできなかったけど今できるようになったこと」を一緒にリストアップする。本人は気づいていなくても、必ず成長している部分がある。それを言語化して見せることです。
6ヶ月目 — 友達との比較が深刻になる
手取り14〜15万円の生活に慣れてきた頃、大学進学した友人はバイトで同じくらい稼いでいる。他社(特に関西)に就職した友人が「ボーナス出た」と投稿している。自分の夏のボーナスは寸志だった。
対応:半年間の昇給・賞与実績を見せたうえで、「3年後・5年後の年収モデル」と「徳島市 vs 大阪市の生活コスト比較」を提示する。大卒が22歳でスタートするのに対し、高卒は18歳からキャリアを積んでいるという事実を、数字で見せることが効果的です。
お盆・年末年始の帰省明け — 関西の友人と再会した直後
徳島県特有の離職タイミングです。明石海峡大橋経由で関西に出た友人と帰省で再会し、「うちの会社、土日完全休み」「梅田で飲みに行ける」という話を聞いて戻ってくる。1月初旬と8月下旬は離職意志が固まりやすい時期です。
対応:長期休暇明けの1週目に必ず短い1on1の時間を取る。「休みどうだった?」から始めて、関西で会った友人の話を本人から引き出せれば、対話のチャンスです。
1年目の終わり — マンネリか、次のステージか
仕事に慣れてきた。しかし「慣れた」は「飽きた」に変わりやすい。特に製造業のライン作業や検査業務では、同じ工程を1年間繰り返した後のマンネリ感は深刻です。
対応:1年目の終わりに「次の担当」や「新しい工程」へのステップアップを用意する。あるいは後輩指導の役割を与える。「この会社で、来年は今年とは違うことができる」と思えるかどうかが、2年目を迎えられるかの分岐点です。
従業員30人・3年目社員不在の会社で、現実的にできること
大企業向けの教科書ではなく、徳島県の中小企業の現実に合わせた対策
「メンター」がいないなら、社長がやる + 社外メンターで補う
「メンター制度を導入しましょう」は正論です。でも入社3年目がいない会社で、誰がメンターになるのか。徳島の中小企業の現実です。
答え:社長がやる + 社外で補う。
中小企業の最大の強みは、社長が社員の顔を全員知っていることです。大手企業では不可能な「社長が新入社員と週1回15分話す」が、中小企業ではできます。
- •月曜の朝、「週末何してた?」と声をかける
- •月1回、昼食を一緒に食べる
- •「困ったことがあったらいつでも言ってくれ」ではなく、「今月一番大変だったことは何?」と具体的に聞く
社内に同世代の仲間が作れない場合は、ジョブカフェとくしま(徳島県運営の若年者就職支援拠点)の若手社員向け研修・交流会への参加を許可しましょう。社内で完結させずに、社外の同世代との接点を持たせることで「同期不在の孤立」を緩和できます。
「困ったことがあったら言ってね」は機能しません。18歳が社長に「困ってます」とは言えない。聞き方を具体的にすることが全てです。
面談で使える問いかけ — 「大丈夫?」は聞いたことにならない
「困ってない?」「大丈夫?」と聞いても、18歳は「大丈夫です」としか答えません。以下の問いかけに変えてください。
答えやすい問いかけの例
- Q.「先週、仕事で一番楽しかったことは何?」
- Q.「今、一番わからないことって何?」
- Q.「家に帰ってから何してる?」(生活リズムの異変をキャッチ)
- Q.「この会社に入って、思ってたのと違ったことってある?」
- Q.「もしうちの会社を友達に紹介するとしたら、何て言う?」
最後の質問で出てくる言葉が「別に...」なら危険サイン。ポジティブな言葉が出れば定着の兆し。
4番目の質問をするときは、「違って当然だよ。自分もそうだった」と前置きしてください。「正直に答えていい」と思える空気がないと、本音は出てきません。
「大阪と比較するなら、生活コスト込みで」を入社時に示す
「大阪の友達が稼いでる」という比較を反論で潰すのは無理です。本人がSNSで見ている情報のほうが圧倒的に多い。代わりにやるのは、同じ土俵で比較し直す資料を渡すこと。
- •徳島市の1Kの家賃は4〜5万円、大阪市は7〜8万円。月3万円の差は年間36万円
- •実家暮らしができるなら、徳島の方が貯蓄に回せる金額は明らかに大きい
- •大阪市内の片道40分通勤と、徳島市内の車通勤15分の生活時間の差
- •自社の3年後・5年後・10年後の年収モデルを提示(昇給+資格手当の累積)
これは「説得」ではなく「比較情報の提供」です。「徳島が大阪より絶対いい」と主張する必要はない。選ぶ材料を本人に渡すこと——大半の徳島の高卒社員は、自分の手取り額と大阪の友人の額面しか比較していないので、可処分所得を出して見せるだけで多くの不安が和らぎます。
交代勤務のギャップを防ぐ — 入社前に体験させる
面接で「交代勤務は大丈夫ですか?」→「大丈夫です」。このやり取りは無意味です。やったことがないから「大丈夫」と言っている。
代わりにやること:内定後〜入社前の期間に、実際の交代勤務を1〜2日体験させる。夜勤の時間帯に来てもらい、実際の作業環境を見せる。そのうえで「それでもこの会社で働きたいか」を本人に判断させる。
この体験で辞退する生徒が出る可能性はあります。しかし、入社後3ヶ月で辞められるよりはるかにマシです。徳島の求人倍率3.21倍環境で1人採用するコストと、内定辞退1人分のコスト。どちらが重いかは明白です。
手取りのギャップを防ぐ — 初任給シミュレーション
基本給17万円。でも手取りは14万円台。この3万円の差に、初任給日に失望する高卒社員は少なくありません。
内定後の懇親会やオリエンテーションで:
- •給与明細の見方を教える(額面・控除・手取りの仕組み)
- •先輩社員の手取り推移を見せる(1年目→3年目→5年目)
- •「大卒は22歳スタート。あなたは18歳から4年分のキャリアを積める」という事実を伝える
- •徳島県の最低賃金1,046円(2026年1月適用)と比較し、自社の時給換算が上回ることを明示
「知らなかった」を「わかったうえで働く」に変える。それだけで、初任給日のショックは大幅に減ります。
保護者への「定着報告」— 辞める前のセーフティネット
高卒社員は18歳。「辞めたい」と最初に相談するのは、上司ではなく保護者です。そのとき保護者が「もう少し頑張ってみたら」と言えるか、「そんな会社辞めなさい」と言うかは、企業と保護者の関係がどれだけ構築されているかで決まります。徳島県は人口67.6万人の小さなコミュニティで口コミの影響が大きく、保護者の評判はそのまま次年度の採用力に直結します。
- •入社1ヶ月後に保護者へ「お子様の様子」を手紙で報告する
- •3ヶ月後に「できるようになったこと」を具体的に伝える
- •表彰やイベントの写真を保護者に共有する
詳しくはオヤカク完全マニュアルで解説しています。
入社1年目 — 時期別の定着アクション
先手を打つためのチェックリスト
| 時期 | リスク | 本人の状態 | やるべきこと |
|---|---|---|---|
| 内定〜入社前 | 中 | 期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」 | 月1回のニュースレター / 交代勤務の1〜2日体験 / 給与明細の見方説明 / 先輩社員との座談会 |
| 入社〜2週間 | 高 | 環境激変。「居場所がない」 | 歓迎ランチ / メンター(社長)初回面談 / 毎日の声かけ / 2週間のスケジュールを事前に提示 |
| 1ヶ月(GW明け) | 最高 | 五月病。関西の友人と比較 | 週1回の1対1対話 / 保護者への状況報告 / GW明け翌日の特別フォロー / 小さな成功の承認 |
| 3ヶ月 | 高 | 「成長していない」不安 | 成長の棚卸し(入社時→今の比較) / 次の3ヶ月の目標設定 / 本採用決定の面談 |
| 6ヶ月 | 中 | 夏ボーナスで関西と比較 | 昇給・賞与実績の提示 / 3年後の年収モデル+生活コスト比較 / 資格取得の提案 |
| お盆・年末年始 | 高 | 帰省で関西の友人と再会 | 長期休暇明けの1週目に1on1 / 「休みどうだった?」から本音を引き出す / 関西の友人の話に共感したうえで現状を整理 |
| 1年 | 中 | マンネリ。「このままでいいのか」 | 新しい工程・担当へのステップアップ / 後輩指導役 / 1年間の成果発表の機会 |
期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」
- •月1回のニュースレター
- •交代勤務の1〜2日体験
- •給与明細の見方説明
- •先輩社員との座談会
環境激変。「居場所がない」
- •歓迎ランチ
- •メンター(社長)初回面談
- •毎日の声かけ
- •2週間のスケジュールを事前に提示
五月病。関西の友人と比較
- •週1回の1対1対話
- •保護者への状況報告
- •GW明け翌日の特別フォロー
- •小さな成功の承認
「成長していない」不安
- •成長の棚卸し(入社時→今の比較)
- •次の3ヶ月の目標設定
- •本採用決定の面談
夏ボーナスで関西と比較
- •昇給・賞与実績の提示
- •3年後の年収モデル+生活コスト比較
- •資格取得の提案
帰省で関西の友人と再会
- •長期休暇明けの1週目に1on1
- •「休みどうだった?」から本音を引き出す
- •関西の友人の話に共感したうえで現状を整理
マンネリ。「このままでいいのか」
- •新しい工程・担当へのステップアップ
- •後輩指導役
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Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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