福島県浜通りエリアの高卒採用
震災15年・イノベーション・コースト構想下の採用戦略
浜通りは福島県の太平洋側に位置する細長いエリア。いわき市・南相馬市・相馬市・新地町・広野町・楢葉町・富岡町・大熊町・双葉町・浪江町・葛尾村・川内村・飯舘村などで構成されます。R8年3月卒・11月末時点の高卒求人倍率は2.41倍、求人数2,036人。県中の中通り(5,748人)より大幅に小さい労働市場です。
2011年3月の東日本大震災・原発事故から15年。このエリアは「復興」と「新産業創出」の両方が進行中の特殊な労働市場です。一方では建設業の復興需要が続き、もう一方では福島イノベーション・コースト構想下でロボット・ドローン・廃炉技術・再生可能エネルギー・航空宇宙の研究開発拠点が次々と整備されています。
浜通りで採用に取り組む企業が知っておくべきこと——震災後の人口動態、進学・就職に対する保護者の心理、F-REI・福島ロボットテストフィールド等の関連企業が増えるなかでの地場中小企業の戦い方を解説します。
浜通りは「3層」に分けて理解する
浜通りを一括りで語ると現実を見誤ります。労働市場・人口・産業の観点で3つの層に分けて理解する必要があります。
| エリア | 人口 | 主要雇用主 | 主要校 |
|---|---|---|---|
| いわき市(南部) | 約32万人 | 常磐興産(スパリゾートハワイアンズ)・小名浜港の物流・卸売・小売・観光・水産加工 | 平工業・勿来工業・いわき総合工業・磐城商業 |
| 南相馬市・相馬市(中部) | 南相馬約6万人/相馬約3.4万人 | 福島ロボットテストフィールド周辺企業・水産加工・建設・農業 | 小高産業技術・相馬東・相馬農業 |
| 双葉郡8町村(北部) | 住民帰還率は町村により差がある | F-REI(浪江町)・廃炉関連研究機関・新規企業立地が進む復興エリア | 小高産業技術が双葉郡の代替工業教育を担う |
雇用主:常磐興産(スパリゾートハワイアンズ)・小名浜港の物流・卸売・小売・観光・水産加工
主要校:平工業・勿来工業・いわき総合工業・磐城商業
震災後も人口が大きく減らなかった県南部の中核都市。北関東(茨城)への通勤・進学者も多い
雇用主:福島ロボットテストフィールド周辺企業・水産加工・建設・農業
主要校:小高産業技術・相馬東・相馬農業
震災後人口減を経験したが復興とイノベ構想で持ち直し中。新しいタイプの企業立地が進む
雇用主:F-REI(浪江町)・廃炉関連研究機関・新規企業立地が進む復興エリア
主要校:小高産業技術が双葉郡の代替工業教育を担う
帰還困難区域が一部残る。事業継続には独自の覚悟と判断が必要
いわき市 — 浜通り最大の労働市場
茨城県境にあり、北関東企業との競合エリア
県南部の独自労働市場
いわき市は人口約32万人で、福島県内で郡山市・福島市に次ぐ第3位。震災後も人口流出が比較的緩やかで、福島県浜通り最大の労働市場を維持しています。地形的に阿武隈高地で中通り・会津から隔てられ、南は茨城県と接する独自の経済圏を形成しています。
主要工業高校:平工業(市北部・中央)、勿来工業(市南部・茨城県境近く)、いわき総合工業。勿来工業の生徒は茨城県北・北関東の企業への就職も視野に入れるのが他のエリアと異なる特徴です。
主要企業と中小企業の戦い方
いわき市にはハニーズHD(売上565億円・SPAアパレル本社)、常磐興産(スパリゾートハワイアンズ等の観光事業)、小名浜港関連の物流・水産加工企業群があります。中小企業はこの主要企業と同じ高校で人材を奪い合います。
中小企業の戦略は差別化戦略7選を参照。特に「世界に届く技術の可視化」「3年継続訪問」「スピード採用」が、いわき市で効果を発揮します。
南相馬・相馬・双葉郡 — イノベーション・コースト構想下の採用
国家プロジェクトの恩恵を中小企業が取りに行く
福島ロボットテストフィールド(南相馬市)
2020年に全面開所した、世界最大級のロボット研究開発拠点。陸海空のロボットを実環境に近い条件で試験できる施設です。周辺で事業を行う中小企業にとって、「世界の最先端の研究機関と同じ地域で働ける」採用訴求材料になります。
実際に、ロボットテストフィールド周辺には部品加工・ソフトウェア開発・物流・保守の中小企業が立地を進めています。「テストフィールドに納入している」「テストフィールドの企業と仕事をしている」は、高校生・保護者へのストーリーになります。
福島国際研究教育機構(F-REI、浪江町)
2023年4月設立の国立研究開発法人。エネルギー・農林水産業・原子力災害に関する科学技術・ロボット・廃炉・放射線科学・データサイエンス等の研究開発を担います。F-REIへの納品・F-REI関連の事業は、浜通り北部の中小企業にとって最強の採用訴求になります。
双葉郡で事業を行う覚悟
双葉郡8町村(双葉・大熊・浪江・富岡・楢葉・川内・葛尾・広野)では避難指示が順次解除されてきましたが、住民帰還率は町村により差があります。事業を続ける覚悟と、新規立地する判断の両方で、ここは特別なエリアです。
採用面では、「双葉郡で働く人材を確保する」というよりも、「いわき・南相馬から通勤する人材」「県外からのUターン・移住者」を組み合わせるのが現実的です。住宅手当・通勤手当を厚くし、ふくしま生活・就職応援センターの東京拠点も活用して、首都圏在住の意欲ある人材にアクセスする戦略が有効です。
小高産業技術高校(南相馬市)の意味
福島県立小高産業技術高校は、震災・原発事故で休校した小高工業高校・小高商業高校等を再編して開校した経緯のある学校です。避難指示解除に合わせて立地した学校で、福島イノベーション・コースト構想エリアの人材育成を担います。「機械システム」「電気」「産業革新」「流通ビジネス」等の学科を持ち、ロボット・ドローン・廃炉関連の研究機関と連携した教育課程もあります。
双葉郡周辺で事業をする中小企業にとって、小高産業技術への訪問は欠かせません。
浜通り特有の定着配慮
震災15年を生きた若手社員に必要なサポート
浜通りで採用する高卒社員の中には、震災・原発事故を子供時代に経験した人がいます。仮設住宅生活、地元の小中学校が震災後に変わった経験、家族の避難・帰還の判断——こうした経験を持つ社員へのサポートには、内陸エリアとは異なる配慮が必要です。
浜通り企業の経営者・採用担当者が押さえるべきこと
- •震災・避難の経験について、本人から話してこない限りこちらから掘り下げない
- •家族構成・住居が複雑な場合がある。「実家は?」「ご両親は?」を不用意に聞かない
- •通勤ルートが内陸通勤・複雑な経路の場合あり。通勤手当を柔軟に対応
- •3月11日前後・震災関連の報道時期は、社員のメンタルに配慮した声かけを
同時に、浜通りで事業を続けることそのものが、社員にとって誇りになりえます。「この地域で働くことの意味」「自社が地域の復興・新産業創出にどう関わっているか」を経営者が言語化して伝えることが、定着率を上げる最大の要因です。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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