高卒で採った社員を辞めさせない
福島県の中小企業ができる定着の仕組み
求人倍率2.85倍の福島県で、やっと1人採った高卒社員が半年で辞めた。「やっぱり仙台に出たい」と言われた。何を言っても考えを変えてもらえなかった。
この経験をした企業は、福島県では珍しくありません。新幹線で30分の仙台が常に視界に入る県北、東京まで1時間20分の県南。福島県は東北で唯一、首都圏に新幹線で1〜2時間でアクセスできる県です。「立地」が若年層の県外志向を加速させる構造があります。
全国データでは高卒就職者の3年以内離職率は37.9%(厚生労働省・令和4年3月卒)。約4割が3年以内に辞めています。福島県単独の離職率データは公表されていませんが、福島県の産業構造——製造品出荷額の中核が医療機器・半導体・電子部品、中小企業が多数——を考えると、この問題は福島県の企業にとって特に重い意味を持ちます。
この記事では、「なぜ辞めるのか」を福島県の現場から考え、「従業員50人の会社でも明日からできること」を具体的に解説します。
福島県の中小企業で、高卒社員が辞める理由
「ものづくり」のイメージと現場のギャップ
福島県は医療機器部品の生産額11年連続日本一、半導体クラスターも県中心に集積する製造業県です。工業高校から製造業に就職する生徒にとって「ものづくり」は前向きなイメージです。
しかし現場で待っているのは:
- •3交代制のシフト勤務。高校まで朝起きて夜寝ていた18歳にとって、生活リズムの激変は想像以上のストレスです
- •医療機器部品・半導体ウェハの精密検査・組立の反復作業。「ものを作る」イメージと「同じ動作を8時間繰り返す」現実のギャップ
- •クリーンルーム作業の単調さ・防塵服の窮屈さ。求人票の文字情報では伝わらない感覚的な環境
面接で「交代勤務は大丈夫ですか?」と聞けば、18歳は「大丈夫です」と答えます。やったことがないのだから、本当の意味で想像できていない。これはミスマッチではなく「体験の不足」です。
同期がいない孤立
ヨークベニマル・ゼビオ・日東紡績・オン・セミコンダクター等の大手企業は1度に数十人を採用します。同期がいる。同じ年齢の仲間と愚痴を言い合える環境がある。
中小企業は1人か2人。入社初日から、周囲は全員年上です。「見て覚えろ」と言われても、何を見ればいいかわからない。わからないことを聞ける相手がいない。
福島県の中小製造業は平均年齢が高い傾向があり、10代と50代の間に20代・30代がほとんどいない「年齢層の断裂」が起きている会社も少なくありません。この環境で18歳が孤立しない方が不自然です。
SNSで見える仙台・首都圏の同級生
入社して数ヶ月。SNSを開くと、仙台の大学に進学した友人がサークルで楽しそうにしている。東京の会社に就職した友人が「今日は表参道でカフェ巡り」と投稿している。
自分は福島の地元工場で交代勤務。手取りは額面より3〜4万円少ない(税金・社会保険の天引きを知らなかった)。新幹線で30分の仙台が常に視界にある。「やっぱり自分も都会に出たい」という気持ちが膨らむのは自然なことです。
浜通り企業:震災15年後の生活環境
2011年の震災・原発事故から15年。避難指示は順次解除されてきましたが、双葉郡周辺で事業を行う企業の社員には、通勤ルート・住居・地域コミュニティが流動的な状態が続いている人もいます。震災後に入社した若手社員にとって、職場の人間関係と生活基盤の両方を新しく作る負担は大きいものです。
「仕事は嫌じゃないけど、この土地で生活すること自体に不安がある」——これは離職理由の統計には出てきませんが、浜通りの企業が直面している現実です。
いつ辞めるか — 危険なタイミングと見逃せないサイン
離職の多くは突然ではなく、予兆があります
GW明け(入社後1ヶ月)— 最も危険
4月に必死で頑張った反動と、GW中に高校時代の友人と会って「比較」してしまうこと。この2つが重なるGW明けが、最も離職リスクの高い時期です。福島県では特に「仙台に進学した友人」「東京の専門学校に行った友人」と再会することで、流出心理が刺激されやすいのが特徴です。
「辞めたい」の前に出る行動変化
- 1.朝の挨拶が小さくなる
- 2.休憩時間にひとりでスマホを見ている時間が増える
- 3.質問しても「特にないです」が増える
- 4.欠勤ではなく遅刻が増える(辞めたいが朝起きられなくなるのが先行サイン)
- 5.先輩や上司との雑談を避けるようになる
これらのサインが2つ以上見えたら、すぐに1対1で話す機会を作ってください。「何かあった?」ではなく、「最近、仕事で一番しんどいことは何?」と具体的に聞くことが重要です。
3ヶ月目 — 「成長していない」不安
試用期間が終わる頃。最初の緊張が解けて、逆に「自分は何もできるようになっていないのでは」という不安が芽生えます。特に医療機器部品の精密加工や半導体ウェハの製造では、3ヶ月で一人前になれる仕事はありません。本人がそのことを理解していないと、「自分には向いていない」と結論づけてしまいます。
対応:3ヶ月時点で「入社時にはできなかったけど今できるようになったこと」を一緒にリストアップする。本人は気づいていなくても、必ず成長している部分がある。それを言語化して見せることです。
6ヶ月目 — 友達との比較が深刻になる
手取り14〜15万円の生活に慣れてきた頃、大学進学した友人はバイトで同じくらい稼いでいる。仙台の大手企業に就職した友人が「ボーナス出た」と投稿している。自分の夏のボーナスは寸志だった。
対応:半年間の昇給・賞与実績を見せたうえで、「3年後・5年後の年収モデル」と「実家通勤の貯蓄額シミュレーション」を提示する。仙台で一人暮らしする同級生は家賃で月5万円消えるが、福島で実家通勤なら3年で300万円超の貯蓄差が生まれる事実を、数字で見せることが効果的です。
1年目の終わり — マンネリか、次のステージか
仕事に慣れてきた。しかし「慣れた」は「飽きた」に変わりやすい。特に医療機器・半導体の精密加工では、同じ工程を1年間繰り返した後のマンネリ感は深刻です。
対応:1年目の終わりに「次の担当」や「新しい工程」へのステップアップを用意する。あるいは後輩指導の役割を与える。「この会社で、来年は今年とは違うことができる」と思えるかどうかが、2年目を迎えられるかの分岐点です。
従業員50人の会社で、現実的にできること
大企業向けの教科書ではなく、福島県の中小企業の現実に合わせた対策
「メンター」がいないなら、社長がやる
「メンター制度を導入しましょう」は正論です。でも入社3年目がいない会社で、誰がメンターになるのか。
答え:社長がやる。
中小企業の最大の強みは、社長が社員の顔を全員知っていることです。大手企業では不可能な「社長が新入社員と週1回15分話す」が、中小企業ではできます。
- •月曜の朝、「週末何してた?」と声をかける
- •月1回、昼食を一緒に食べる
- •「困ったことがあったらいつでも言ってくれ」ではなく、「今月一番大変だったことは何?」と具体的に聞く
「困ったことがあったら言ってね」は機能しません。18歳が社長に「困ってます」とは言えない。聞き方を具体的にすることが全てです。
面談で使える問いかけ — 「大丈夫?」は聞いたことにならない
「困ってない?」「大丈夫?」と聞いても、18歳は「大丈夫です」としか答えません。以下の問いかけに変えてください。
答えやすい問いかけの例
- Q.「先週、仕事で一番楽しかったことは何?」
- Q.「今、一番わからないことって何?」
- Q.「家に帰ってから何してる?」(生活リズムの異変をキャッチ)
- Q.「この会社に入って、思ってたのと違ったことってある?」
- Q.「もしうちの会社を地元の後輩に紹介するとしたら、何て言う?」
最後の質問で出てくる言葉が「別に...」なら危険サイン。ポジティブな言葉が出れば定着の兆し。
4番目の質問をするときは、「違って当然だよ。自分もそうだった」と前置きしてください。「正直に答えていい」と思える空気がないと、本音は出てきません。
交代勤務のギャップを防ぐ — 入社前に体験させる
面接で「交代勤務は大丈夫ですか?」→「大丈夫です」。このやり取りは無意味です。やったことがないから「大丈夫」と言っている。
代わりにやること:内定後〜入社前の期間に、実際の交代勤務を1〜2日体験させる。夜勤の時間帯に来てもらい、実際の作業環境を見せる。そのうえで「それでもこの会社で働きたいか」を本人に判断させる。
この体験で辞退する生徒が出る可能性はあります。しかし、入社後3ヶ月で辞められるよりはるかにマシです。採用活動の1年分のコストが無駄になるのと、内定辞退1人分のコスト。どちらが重いかは明白です。
「仙台に出たい」と言われたときの会話設計
これは福島県の中小企業の現場で必ず起きる会話です。準備しておきます。
やってはいけない返し
- ×「うちで頑張れば3年後には主任になれる」と未来の話だけで引き留める
- ×「仙台に行ったって大変だぞ」と都会を否定する
- ×「親はどう言ってる?」と保護者の話で揺さぶる
代わりに使う問いかけ
- Q.「仙台に行ったら、具体的に何をしたい?」(憧れか具体的計画かを切り分ける)
- Q.「いまの仕事のどこが嫌?」(流出を理由にした逃避かを見極める)
- Q.「3年で300万円貯めて、その後仙台でも東京でも好きな場所に行く、というプランはどう思う?」(第3の選択肢を提示)
「都会の利便性を完全に諦める」のではなく、「平日は地元・週末は新幹線で都会」「3年地元で貯めて選択肢を広げる」という現実的な代案を本人と一緒に作る姿勢が、引き止め成功の確率を上げます。
保護者への「定着報告」— 辞める前のセーフティネット
高卒社員は18歳。「辞めたい」と最初に相談するのは、上司ではなく保護者です。そのとき保護者が「もう少し頑張ってみたら」と言えるか、「そんな会社辞めなさい、仙台に出なさい」と言うかは、企業と保護者の関係がどれだけ構築されているかで決まります。
- •入社1ヶ月後に保護者へ「お子様の様子」を手紙で報告する
- •3ヶ月後に「できるようになったこと」を具体的に伝える
- •福島県は地元の口コミが強い地域です。保護者が安心して周囲に「うちの子はいい会社に入った」と言える状態を作ることが、次年度の採用にも直結します
詳しくはオヤカク完全マニュアルで解説しています。
入社1年目 — 時期別の定着アクション
先手を打つためのチェックリスト
| 時期 | リスク | 本人の状態 | やるべきこと |
|---|---|---|---|
| 内定〜入社前 | 中 | 期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」 | 月1回のニュースレター / 交代勤務の体験 / 給与明細の見方説明 / 先輩社員との座談会 |
| 入社〜2週間 | 高 | 環境激変。「居場所がない」 | 歓迎ランチ / メンター(社長)初回面談 / 毎日の声かけ / 2週間のスケジュールを事前に提示 |
| 1ヶ月(GW明け) | 最高 | 五月病+仙台に出た同級生との比較。「やっぱり都会に出たい」 | 週1回の1対1対話 / 保護者への状況報告 / GW明け翌日の特別フォロー / 貯蓄額シミュレーション提示 |
| 3ヶ月 | 高 | 「成長していない」不安 | 成長の棚卸し(入社時→今の比較) / 次の3ヶ月の目標設定 / 本採用決定の面談 |
| 6ヶ月 | 中 | 友達との比較。「仙台の方がよさそう」 | 昇給・賞与実績の提示 / 3年後の年収モデル提示 / 実家通勤の貯蓄差シミュ / 資格取得の提案 |
| 1年 | 中 | マンネリ。「このままでいいのか」 | 新しい工程・担当へのステップアップ / 後輩指導役 / 1年間の成果発表の機会 |
期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」
- •月1回のニュースレター
- •交代勤務の体験
- •給与明細の見方説明
- •先輩社員との座談会
環境激変。「居場所がない」
- •歓迎ランチ
- •メンター(社長)初回面談
- •毎日の声かけ
- •2週間のスケジュールを事前に提示
五月病+仙台に出た同級生との比較。「やっぱり都会に出たい」
- •週1回の1対1対話
- •保護者への状況報告
- •GW明け翌日の特別フォロー
- •貯蓄額シミュレーション提示
「成長していない」不安
- •成長の棚卸し(入社時→今の比較)
- •次の3ヶ月の目標設定
- •本採用決定の面談
友達との比較。「仙台の方がよさそう」
- •昇給・賞与実績の提示
- •3年後の年収モデル提示
- •実家通勤の貯蓄差シミュ
- •資格取得の提案
マンネリ。「このままでいいのか」
- •新しい工程・担当へのステップアップ
- •後輩指導役
- •1年間の成果発表の機会
福島県で活用できる定着支援
ふくしま生活・就職応援センター
県内6か所(福島・郡山・いわき・会津若松・白河・南相馬)+ 東京に拠点を持つ就職支援窓口。離職者の再就職支援や、Uターン希望者のマッチングも行っています。離職前の相談先としても活用可能。
福島県:新規高卒者の就職支援補助金・助成金の詳細は福島県の採用支援・補助金ガイドをご覧ください。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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