1. 「初任給を上げたのに辞める」という経営者の悩み
2024年から2025年にかけて、大手企業の初任給引き上げが社会現象となりました。鉄鋼大手の高卒初任給は18万円台から21〜22万円台へ。中小企業の経営者にとって「うちも追随しないと、若者に選ばれない」という焦りが生まれた局面です。実際に追随し、初任給を引き上げた中小企業も多く存在します。しかし、現場で起きているのは別の現象です。
中小企業の経営者から聞かれる典型的な悩み
- 「大手に合わせて初任給を3万円上げた。それでも入社1年で辞めた」
- 「ベースアップもしている。賞与も出している。なのに『給料が安い』と退職届を出された」
- 「同業大手と同じ水準まで引き上げたら、今度は古参社員から『なら自分の給料は』と不満が出た」
大手の初任給引き上げ — 2024年春闘で何が起きたか
まず、大手側で起きた事実を一次ソースで確認します。中小企業が「追随プレッシャー」を感じる背景には、これらの公式発表があります。
| 企業(区分) | 変更前 | 変更後 | 引き上げ率 |
|---|---|---|---|
| 日本製鉄(高校卒・エリアグループ) | 180,000円 | 210,000円 | +16.7% |
| JFEスチール(現業系・高校卒) | 180,000円 | 220,000円 | +22.2% |
出典:日本製鉄株式会社 公式プレスリリース(2024年3月13日) / JFEスチール株式会社 公式プレスリリース(2024年3月21日)
鉄鋼大手2社で高卒初任給が3〜4万円も引き上げられた事実は、中小企業の経営者にとって衝撃でした。地域の工業高校を訪問する企業ほど、「同じ生徒を採りに行く以上、初任給で見劣りすると応募が来ない」という現実に直面します。
追随しても若手が辞める — 高卒3年以内離職率の現実
ところが、初任給を上げても若手は辞めます。厚生労働省の最新データを見れば、その傾向は明確です。
中小企業ほど離職率は高い — 規模別の構造
さらに事業所規模別で見ると、中小企業の若者がどれほど辞めているかが浮き彫りになります。
| 事業所規模 | 高卒3年以内離職率 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 63.2% | +0.7ポイント |
| 5〜29人 | 54.6% | +0.2ポイント |
| 30〜99人 | 45.2% | -0.1ポイント |
| 100〜499人 | 36.7% | -0.4ポイント |
| 500〜999人 | 29.9% | -1.6ポイント |
| 1,000人以上 | 26.3% | -1.0ポイント |
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」令和4年3月卒業者
中小企業(5〜29人)の54.6%と大企業(1,000人以上)の26.3%。離職率の差は2倍以上です。注目すべきは、500人以上の大規模事業所では前年度比で離職率が低下している(500〜999人 -1.6pt / 1,000人以上 -1.0pt)一方、5〜29人の中小では離職率が上昇している(+0.2pt)こと。大手と中小の定着力の差は、初任給の絶対額だけでは埋まらないのです。
この構造が示しているのは、若手の定着問題は「給料を大手に合わせれば解決する」という単純な話ではないという事実です。地域の中小企業を応援し、若者を育てる立場の経営者にとって、本当に向き合うべき問いは別のところにあります。
2. 「処遇への納得感」が定着の核心である構造
「初任給を上げても辞める」現象を構造的に説明する一次データが、厚生労働省の若年者雇用実態調査にあります。若年正社員(15〜34歳)が「今の会社を辞めて転職したい」と思っている割合と、その理由を見れば、若者が本当に何を求めているかが見えてきます。
およそ3人に1人の若年正社員が転職を考えている。しかも前回調査から増えています。では、なぜ転職したいのか。理由を見ると、若者の本音が見えてきます。
若年正社員の転職理由(複数回答)
| 転職理由 | 割合 |
|---|---|
| 賃金の条件がよい会社にかわりたい | 59.9% |
| 労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい | 50.0% |
出典:厚生労働省「令和5年 若年者雇用実態調査の概況」(調査基準日:令和5年10月1日/約17,000事業所、約23,000人 満15〜34歳)
「賃金の条件がよい会社にかわりたい」が59.9%。これだけ見ると「やはり給料か」と思えます。しかし重要なのは、ここで言う「賃金の条件」が単純な絶対額ではないということです。それは初職を辞めた理由を見ると分かります。
初職を辞めた理由(同じ調査)
| 離職理由 | 割合 |
|---|---|
| 労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった | 28.5% |
| 人間関係がよくなかった | 26.4% |
注目すべきは、初職離職理由の上位2つに「賃金の絶対額が低かった」という項目が入っていないことです。実際に辞めた理由のトップは「労働時間・休日・休暇の条件」と「人間関係」。つまり、若者が辞めるとき、彼らが見ているのは「給料の数字」だけではなく、「この会社で働き続けることの全体像」です。
構造の核心
初任給の引き上げに追随しても若手が辞める理由は、若者が「給料が安い」のではなく「この給料で、この会社で、自分がどうなっていくのかが見えない」と感じているからです。賃金の絶対額が大手より低くても、3年後・5年後・10年後の処遇の見通しと、その根拠が分かっていれば、若者は納得して働き続けます。
逆に、初任給だけ大手に合わせて、3年目以降の昇給ルールが不透明なら、若者は「大手のほうが先が見える」と感じて転職を選びます。これは中小企業の若者を育てる仕組みの本質的な課題です。
「3年後・5年後にどうなるか」が見える賃金カーブが必要
若手社員が「自分はこの会社で何年後に何ができるようになり、その時いくらもらえるのか」を想像できないまま働く状態は、納得感の欠如を直接的に生みます。
賃金カーブは、年齢や勤続年数の経過に伴って一定の傾きで上昇する構造として設計されますが、重要なのは「絶対額」ではなく「予見可能な形」を社員が見えること。20代前半・後半・30代と進むにつれてどの程度の賃金変化を期待できるかを、自社の等級・役職・賞与制度と紐付けて社員に説明できる状態にすることが、納得感の起点になります。
地域の若者が高卒で入社し、3年・5年・10年と育つ過程の賃金カーブを自社で設計し開示することは、中小企業応援の核心であり、ご家族にも安心して送り出してもらう説明責任でもあります。
賃金水準そのものを比較したい読者は 「高卒vs大卒の年収比較」も合わせて参照してください。本記事では「水準」ではなく「納得感」の構造に焦点を当てます。
3. 納得感を生む3要素 — 透明性・予見可能性・対話頻度
処遇への納得感は感覚の問題ではなく、3つの構成要素に分解できます。中小企業が「納得感の設計」に取り組むときの設計図として、この3要素を順に確認します。
要素1
透明性
賃金カーブの形・等級と賃金の対応・賞与の算定根拠が、若手社員から見える状態。「うちの会社は3年目でいくら、班長になるといくら」が明文化され、誰でも閲覧できる。
要素2
予見可能性
「自分は何ができるようになると、次の等級に上がれるのか」が分かる状態。等級要件・評価基準・昇給連動が明文化され、若手が自分のキャリアを会社の中で描ける。
要素3
対話頻度
評価結果や処遇の根拠について、上司や経営者と直接対話する機会が定期的にある状態。1on1・評価面談・キャリア面談で、若手の問いに会社が答える場が確保されている。
3要素の業界水準を一次データで確認する
3要素のうち「対話頻度」の業界水準は、厚生労働省の能力開発基本調査が一定の手がかりを提供します。
正社員のキャリアコンサルティング導入は半数程度。裏を返せば、半数の事業所では、若手社員が自分のキャリアや処遇について会社と公式に対話する場が制度化されていないということです。これは「対話頻度」の余地が極めて大きいことを示しています。
「賃金引上げ」と「納得感」は別物 — 令和5年実態調査
賃金そのものを上げる中小企業は確かに増えています。しかし、上げ方の透明性・予見可能性が伴っていなければ、若手の納得感には直結しません。
| 項目(令和5年実態) | 数値 | 前年比 |
|---|---|---|
| 賃金引上げを実施した企業の割合 | 89.1% | 前年85.7% |
| 1人平均賃金引上げ額 | 9,437円 | 前年5,534円 |
| 賃金改定率 | 3.2% | 前年1.9%(1999年以降の最高値) |
| 一般職 定期昇給実施 | 79.5% | 前年74.1% |
| 一般職 ベースアップ実施 | 49.5% | 前年29.9% |
出典:厚生労働省「令和5年 賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(調査対象:常用労働者100人以上の民間企業1,901社)
賃金改定率3.2%は1999年以降の最高値です。多くの企業が賃金を上げているにもかかわらず、若手の31.2%が転職希望を持ち続けている。「賃金は上がっているが、上げ方の根拠と将来見通しが見えない」という構造が、データから読み取れる現実です。
退職給付制度の低下 — 「将来の予見可能性」の崩れ
予見可能性に関わるもう一つの一次データが退職給付制度の採用率です。
特に30〜99人規模の中小企業で退職金制度が5年で7.5ポイントも縮小しています。「定年まで働けばまとまった退職金が出る」という長期予見可能性が崩れている中で、若者は「では何を信じて、この会社で働き続ければいいのか」という問いに答えを持てなくなります。
地域の若者を育てる中小企業が、家族の安心も含めて若者に選ばれ続けるためには、賃金の絶対額だけではなく、3要素(透明性・予見可能性・対話頻度)の設計に着手することが、伴走の起点になります。
4. 中小企業が今日から始められる5ステップ
3要素(透明性・予見可能性・対話頻度)を中小企業が実装するための5ステップを示します。新しい人事制度を一気に作る必要はありません。今ある仕組みを「若手から見える形」に変えていくだけで、納得感は大きく変わります。
ステップ1(透明性)
賃金カーブを可視化する
まず、自社の現在の賃金カーブを1枚の図にします。横軸に勤続年数(または年齢)、縦軸に月給または年収を取り、初任給→3年目→5年目→班長→主任の節目をプロットする。図を作るだけで、経営者自身が「うちの賃金カーブには根拠がない箇所がある」と気づくことが多いのが現実です。
若手社員には入社時のオリエンテーションで賃金カーブ図を共有し、「あなたが今いる場所はここ」「3年後はこの位置を目指す」と説明する。これだけで透明性は劇的に上がります。
ステップ2(予見可能性)
等級と処遇の連動を明文化する
「何ができるようになると、次の等級に上がれるのか」を1ページの文書にまとめます。等級ごとに「期待される業務範囲」「必要なスキル」「対応する月給レンジ」を3列で並べる。完璧な制度設計は不要です。「現状の運用を文章化する」だけで、若手から見た予見可能性は大きく改善します。
制度設計をゼロから整えたい読者は、姉妹記事 「高卒社員の評価制度・賃金カーブ設計 — 中小企業のための処遇設計ガイド」で5要素・6ヶ月ロードマップを解説しています。
ステップ3(対話頻度)
評価面談を「年2回・各60分」で固定化する
キャリアコンサルティング導入率49.4%という業界水準を踏まえれば、まず「評価面談を制度として固定する」だけで、半分の中小企業の上を行けます。賞与査定や昇給査定のタイミングに合わせて、年2回・各60分の評価面談を全社員に対して実施する。
面談では「今期の成果と評価結果」「次期の目標と必要なスキル」「将来のキャリアの希望」の3点を構造化して話す。若手は「自分の話を聞いてもらえている」「会社が自分の将来を一緒に考えてくれている」と感じることで、納得感を持ち続けます。
ステップ4(対話頻度)
月1回30分の1on1を入社後3年間は必須化する
評価面談だけでは、若手が抱える日々の不安や疑問は拾い切れません。直属上司との1on1を月1回30分、特に入社後3年間は必須化する。1on1では業務指示ではなく、若手社員からの問い・不安・希望を上司が聞く時間にします。
入社後の研修・OJTと連動した月次フォローの設計は 「高卒新入社員の入社後1年の育成ガイド」を参照してください。
ステップ5(透明性+予見可能性)
処遇ストーリーを社内外に発信する
入社5年目の社員が「私はこういうステップで班長になり、月給はこう変化した」と語る記事や動画を、社内報・採用HP・地域の媒体で発信する。抽象的な制度説明ではなく、実在する社員の処遇ストーリーが、若手にとっての「予見可能性」になるのです。
地域のご家族や先生にも処遇ストーリーが届けば、「あの会社に就職した子は、こうやってちゃんと育っている」という安心が広がります。これが翌年以降の応募にもつながる、地域に根ざした中小企業ならではの好循環の起点です。
5ステップの所要時間と着手難易度
| ステップ | 3要素対応 | 所要時間(初期) | 着手難易度 |
|---|---|---|---|
| 1. 賃金カーブ可視化 | 透明性 | 2〜4時間 | 低 |
| 2. 等級と処遇の連動明文化 | 予見可能性 | 8〜16時間 | 中 |
| 3. 評価面談 年2回・各60分固定化 | 対話頻度 | 運用設計2〜4時間 | 低 |
| 4. 月1回30分1on1の必須化 | 対話頻度 | 運用設計4〜8時間 | 中 |
| 5. 処遇ストーリーの発信 | 透明性+予見可能性 | 記事1本あたり3〜6時間 | 中 |
ステップ1と3は、極端な話、今週末から始められます。新規予算や新制度の稟議は不要。経営者・人事責任者が「やる」と決めるだけで動き出せるのが、納得感設計の起点です。
5. 処遇透明化を仕組みにする — ゆめスタ4サービスの自然接続
3要素(透明性・予見可能性・対話頻度)の設計と5ステップの実装は、社内リソースだけで進めることもできます。同時に、地域の中小企業を応援する弊社「ゆめスタ」の4サービスも、3要素の各局面に自然に接続できる設計になっています。読者が自社の状況に応じて選択できるよう、4サービスがどの要素にどう寄与するかを整理しました。
採用HP
賃金カーブを可視化して家族にも届ける
自社の賃金カーブ図・等級表・退職金制度を採用HPに掲載することで、求職者だけでなく、その若者のご家族や学校の先生にも処遇の透明性が届きます。地域の中小企業を応援する立場として、家族が安心して若者を送り出せる「見える化」の起点になります。
寄与する3要素:透明性
ゆめマガ
処遇ストーリーを地域メディアで発信する
入社5年目・10年目の先輩社員が「自分はこの会社でこう育ち、処遇はこう変わった」と語るストーリーを、地域の高校生・先生・ご家族に届く形で誌面化します。抽象的な制度説明ではなく、具体的な人生の軌跡が、若者にとっての「予見可能性」になるのです。
寄与する3要素:予見可能性
ゆめスタ(伴走支援)
評価面談・1on1の運用設計を伴走する
評価面談・1on1の制度を「いきなり全社展開する」のはハードルが高い。ゆめスタの伴走支援では、面談シートのテンプレート化・上司の聞き方の訓練・実施頻度の運用設計まで、中小企業の人事リソースに寄り添って対話頻度を仕組みにする支援を提供しています。
寄与する3要素:対話頻度
アニリク
先輩社員の納得感を映像で見せる
文章だけでは伝わらない「この会社で育ててもらえているという実感」を、先輩社員の表情・声・職場の空気として映像化する。ご家族や先生も、若者本人も、映像で見たほうが「この会社は信頼できる」と感じやすいのが現実です。透明性と予見可能性の両方を、感情レベルで補強します。
寄与する3要素:透明性+予見可能性
4サービス × 3要素の対応マトリクス
どのサービスがどの要素に寄与するか
| サービス | 透明性 | 予見可能性 | 対話頻度 |
|---|---|---|---|
| 採用HP | ◎ | ○ | — |
| ゆめマガ | ○ | ◎ | — |
| ゆめスタ(伴走支援) | ○ | ○ | ◎ |
| アニリク | ◎ | ◎ | — |
◎=主として寄与/○=補助的に寄与/—=直接寄与なし
4サービスは「どれかを選ばなければならない」ものではありません。経営者・人事責任者が今、3要素のどこに穴があるかを見極めた上で、必要な手段として選択していただく性質のものです。透明性が弱ければ採用HPから、予見可能性が弱ければゆめマガから、対話頻度が弱ければゆめスタの伴走支援から始める。読者の状況に合わせた選択肢として位置付けています。
地域の若者を育てるという中小企業応援の理念のもと、4サービスは独立しても、組み合わせても機能するように設計されています。賃金の絶対額で大手と勝負するのではなく、「この地域の、この会社で、自分は育てられている」という納得感を若者と家族に届けることが、定着の核心です。
出典・参考資料
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」令和6年10月25日公表
厚生労働省「令和5年 若年者雇用実態調査の概況」令和6年9月25日公表(調査基準日:令和5年10月1日/約17,000事業所、約23,000人 満15〜34歳)
厚生労働省「令和5年 賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(調査対象:常用労働者100人以上の民間企業1,901社)
日本製鉄株式会社 公式プレスリリース(2024年3月13日)
JFEスチール株式会社 公式プレスリリース(2024年3月21日)
※ 各種制度・税制は年度ごとに改正される可能性があります。実際の施策検討時は最新の公式情報をご確認ください。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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