辞めたら、もう代わりはいない
鳥取県の中小企業ができる定着の仕組み
せっかく採用した高校生が半年で辞めた。「思ったのと違った」と言われた。何が違ったのかを聞いても、はっきりとは答えてくれなかった。
全国最少人口53万人の鳥取県では、この1人の離職が致命的です。高卒就職率は20.2%——採用できる母数が極めて少ない。辞められたら、次の1人を見つけること自体が困難です。
高卒就職者の3年以内離職率は37.9%(厚生労働省・令和4年3月卒)。約4割が3年以内に辞めています。しかも鳥取県では、辞めた若者が大阪や広島に流出し、一度出てしまうと戻ってこない。「離職=人材の永久喪失」です。
だからこそ、「辞めさせない仕組み」を作ることは、採用すること以上に重要な経営課題です。この記事では、なぜ辞めるのか、いつ辞めるのか、どうすれば防げるのか、辞めてしまったときにどうするかを具体的に解説します。
鳥取県の中小企業で、高卒社員が辞める理由
同期がいない孤立
日本セラミックや新日本海新聞社のような大きい企業は1度に複数人を採用します。同期がいる。同じ年齢の仲間と愚痴を言い合える環境がある。
中小企業は1人か2人。入社初日から周囲は全員年上です。わからないことを聞ける相手がいない。「見て覚えろ」と言われても、何を見ればいいかわからない。
鳥取県の中小企業は平均年齢が高い傾向があり、10代と50代の間に20代・30代がほとんどいない「年齢層の断裂」が起きている会社も少なくありません。18歳がこの環境で孤立しない方が不自然です。
SNSで見える「別の人生」
入社して数ヶ月。SNSを開くと、大阪に出た友人がサークルで楽しそうにしている。広島で就職した友人が「うちの会社、土日完全休みで」と投稿している。
自分は鳥取の工場で交代勤務。手取りは額面より3〜4万円少ない(税金・社会保険の天引きを知らなかった)。「本当にこれでよかったのか」と思うのは自然なことです。
特にGWが危険です。帰省した高校時代の友人と会い、都会の話を聞いて「自分も出るべきだったか」と揺れる。GW明けに来なくなるケースが最も多い。
「思ったのと違う」——入社前情報の不足
求人票の文字情報だけで入社を決めた結果、現実とのギャップに苦しむケースです。「残業少ないと書いてあったのに毎日2時間」「きれいな工場だと思ったら別の現場だった」。
これは企業側の責任です。求人票に嘘を書いた、職場見学できれいな部分だけ見せた、仕事の大変な面を伝えなかった。入社前の情報提供の質が、入社後のギャップを決めます。
いつ辞めるか — 時期別の危険マップ
「気づいたら辞めていた」ではなく「この時期は危ないから、このフォローをする」と先手を打つ
内定〜入社前
期待と不安が混在。SNSで県外の友人の近況を見て揺れる
やるべきこと:内定者懇親会を開く / 職場を複数回見せる / 先輩社員と会わせる / 定期的に連絡する
入社〜2週間
環境が激変。「覚えることが多すぎる」「誰に聞けばいいかわからない」
やるべきこと:メンター(年齢近い先輩)を紹介 / 毎朝「困ってることある?」と声をかける / 最初の2週間のスケジュールを紙で渡す
1ヶ月(GW前後)
GW帰省で県外の友人と会い「自分も都会に出るべきだったか」と揺れる
やるべきこと:メンターとの面談を週1で継続 / 小さな成功を見つけて褒める / 保護者に「順調です」と報告する / GW明け初日は特に注意して声をかける
3ヶ月
試用期間の区切り。「自分は成長しているのか」「仕事がつまらない」
やるべきこと:本採用決定を伝えて安心させる / 3ヶ月間の成長を具体的にフィードバック / 次の3ヶ月の目標を一緒に決める
6ヶ月
SNSで県外の友人と比較。「鳥取にいても将来が見えない」
やるべきこと:昇給シミュレーション提示(鳥取の生活コストの低さも添えて)/ 資格取得の提案 / キャリアパス面談
1年
マンネリ化。「このままでいいのか」「他の仕事も見てみたい」
やるべきこと:新しい業務や役割を与える / 後輩指導役を任せる / 1年間の成果を振り返る場を作る / 2年目の目標を設定
入社後1ヶ月が全てを決める
この1ヶ月を乗り越えた社員は、3ヶ月、半年、1年と続く確率が格段に上がります。経営者として、この1ヶ月だけは何を差し置いても新人のフォローを最優先にしてください。
鳥取県の中小企業でもできる定着の仕組み
メンター制度——「一人にしない」
鳥取県の中小企業では同期がゼロのケースが大半。だからこそメンターの効果は大きい。
- • 入社3〜5年目の先輩が理想。年齢が近いほど話しやすい
- • 週1回15分の面談。業務の話ではなく「困ってることは?」「体調は?」
- • メンター役がいない場合は社長や上司が代わる。「定期的に声をかけてくれる人がいる」ことが大事
キャリアパスの見える化——「3年後の自分」を見せる
「鳥取にいても将来が見えない」が離職の引き金。逆に、見えれば辞めない。
- • 1年目→3年目→5年目→10年目の役職・スキル・年収モデルを紙に書いて渡す
- • 資格取得のロードマップを示す(費用は会社負担)
- • 鳥取県の中小企業は少人数組織だからこそ、昇進のスピードが速いことをアピール
「手取り額」と「鳥取の生活コスト」を教える
初任給の手取りを見て「少ない」とショックを受ける若手は多い。
「鳥取で手取り17万円+家賃3万円」vs「大阪で手取り22万円+家賃7万円」——可処分所得はほぼ同じ。車を持てる、通勤時間が短い、食べ物がうまい。鳥取で暮らす豊かさを、数字と生活実感で伝えてください。
保護者との連携——18歳の後ろには親がいる
「辞めたい」と最初に相談するのは上司ではなく親。鳥取県は親が近くにいるから、親の反応が離職の可否を左右する。
- • 入社1ヶ月で保護者に「順調に頑張っています」と報告(手紙が最も効果的)
- • 3ヶ月目で「こんなことができるようになりました」を写真付きで送る
辞めてしまったとき——学校への報告が次の採用を決める
どれだけ手を尽くしても、辞める人はいます。そのとき最も重要なのは学校への報告です。
絶対にやってはいけないこと
報告しないこと。先生は辞めた事実を知ります。鳥取県は53万人のコミュニティ。必ず伝わります。報告しなかった場合、先生は「隠した」と受け取り、二度と生徒を推薦してくれなくなります。
正しい報告の仕方
- • タイミング:退職が決まったら、できるだけ早く先生に電話する
- • 伝える内容:「○○さんが退職されました。原因は△△だと認識しています。今後は□□という改善を行います」
- • 自社の責任を認める:「本人に問題があった」とは言わない。先生にとって教え子を否定されることほど不快なことはない
- • 改善策を必ず伝える:「同じことが起きないよう、○○の体制を整えました」
誠実な報告が信頼を守る——場合によっては深める
「辞めたのに報告に来る会社」は、先生にとって珍しい存在です。多くの企業は気まずさから報告を避けます。だからこそ、正直に報告し改善策を伝える企業は「この会社は誠実だ」と先生の記憶に残ります。
よくある質問
Q. 高卒社員が「辞めたい」と言い出したらどうすればいいですか?
A. まず「話を聞く」ことです。「なぜ辞めたいのか」を責めずに聞いてください。理由が人間関係なら配置転換やメンター変更、労働条件なら改善可能か検討。すぐに引き留めようとせず、本人の声に真剣に耳を傾けることが第一歩です。
Q. メンター制度を導入したいが、社員が少なくてメンターになれる人がいません。
A. 入社3〜5年目の先輩がいない場合は、社長や上司がその役割を担ってください。重要なのは「定期的に声をかけて、話を聞いてくれる人がいる」ことです。週1回15分の面談を続けるだけでも効果があります。
Q. 鳥取県の生活コストの低さをどう伝えればいいですか?
A. 「鳥取で手取り17万円+家賃3万円」vs「大阪で手取り22万円+家賃7万円」——可処分所得はほぼ同じ、という具体的な比較を数字で見せてください。入社時の研修で生活費シミュレーションを提示するのが効果的です。
Q. 離職率を下げるために最も効果的な施策は何ですか?
A. 入社後1ヶ月間の「一人にしない」体制が最も効果的です。メンター配置、毎日の声かけ、週1の面談。この1ヶ月を乗り越えた社員はその後も続く確率が高い。まず1ヶ月間のフォローだけでも始めてください。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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データ出典:
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒・3年以内離職率37.9%)



