長崎県のオヤカク完全マニュアル
離島・半島の保護者の「島から出すな」を解く方法
「オヤカク」とは、内定後に高校生本人だけでなく保護者にも自社で働くことを納得してもらうプロセスです。長崎県では、特に五島・壱岐・対馬の離島と島原半島出身の高校生を採用する場合、保護者の納得度が内定承諾率を左右します。
島の保護者にとって「子どもが島を出る」ことは重大事です。自分も親もこの島で生まれ育った。本土に出した子どもが何かあっても、すぐに駆けつけられない。フェリーや飛行機の費用も馬鹿にならない。「もう少し近い場所で働けないのか」「島の漁協で働いた方がいいんじゃないか」という気持ちが、保護者の根底にあります。
これは「親が反対しているから」という単純な話ではありません。保護者の心配は具体的で現実的です。住む場所、帰省コスト、緊急時の対応、職場の安全性。これらに具体的な答えを用意できなければ、内定が出ても辞退されます。出ない方が良いことすらあります。
この記事では、離島・半島の保護者が実際に抱える不安と、それを解消する企業側の具体的な打ち手を解説します。
離島・半島の保護者が抱える4つの本音
本音1:住む場所への不安
「18歳の子が1人で本土でアパート暮らしできるのか」が最大の不安です。島では家族や近所が常に近くにいた。本土のアパートで何かあったら誰が助けるのか。社宅・寮の有無、家賃の負担、近隣の生活環境(スーパー・病院・銀行までの距離)、セキュリティが最初に聞かれます。
本音2:帰省のしやすさ
離島からはフェリーや飛行機でしか帰れません。年に何回帰れるのか、費用は誰が負担するのか、台風で欠航したらどうするのか。「盆と正月くらいしか帰れない」という現実を、入社前に共有しておく必要があります。年2回の帰省交通費補助は、離島出身者を採用する企業の最低条件です。
本音3:職場の安全性
造船所、半導体工場、建設現場など、製造現場で働く場合の事故への不安が大きい。「うちの子が怪我したら誰が島まで連絡してくれるのか」「労災の手続きはどうなるのか」。安全教育プログラム・事故防止の取り組み・緊急連絡網を具体的に説明する必要があります。
本音4:将来のキャリア・島への帰還可能性
「高卒で本土の中小企業に就職して、将来大丈夫か」「いつか島に帰る選択肢はあるのか」という不安。3年後・5年後の年収モデル、資格取得支援、そして「島の家業を継ぐために退職する場合の円満退職」までを含めた長期視点での話が、保護者には響きます。
オヤカクの具体策 — 内定通知から入社前までの5段階
段階1:内定通知と同時に「保護者向け資料」を同封
内定通知の封筒に、保護者向けの資料一式を同封します。本人だけでなく保護者が読むことを前提とした内容です。
- •会社概要(写真多め・現場の様子が分かるもの)
- •福利厚生一覧(社宅・帰省補助・社会保険・退職金)
- •社宅・寮の写真と所在地マップ(最寄りスーパー・病院・銀行の距離)
- •先輩社員の声(特に離島出身の先輩がいれば写真と一言)
- •緊急連絡先一覧(採用担当者の携帯・上司の連絡先)
段階2:採用担当者から保護者へ電話
内定通知から1週間以内に、採用担当者が保護者に直接電話します。「お子様に内定をお出ししました。何かご心配なことはありませんか」と切り出します。
電話で必ず伝える5項目
- 1.社宅の場所・家賃・周辺環境
- 2.帰省交通費補助の制度(年2回・補助上限)
- 3.緊急時の連絡体制(採用担当者の携帯番号を共有)
- 4.入社後のメンター・社長の関わり方
- 5.「ご質問はいつでもお電話ください」の一言
特に5番目が重要です。「いつでも電話していい」と明確に伝えることで、保護者は「困った時に頼れる相手がいる」と感じます。
段階3:保護者向け職場見学会の招待
可能であれば保護者を会社・社宅に招きます。離島の保護者には交通費補助も検討してください(盆・正月に本土に来る機会と合わせるのが現実的)。
見学会では:
- •社長が直接挨拶し、会社の方針を説明する
- •実際の社宅を見せる(外から見るだけでも安心感が違う)
- •同じ島・同じ高校出身の先輩社員がいれば紹介する
- •本人と保護者だけの時間も用意し、本音を引き出す
段階4:入社前の生活準備サポート
引越し、銀行口座の開設、携帯電話の契約、印鑑の準備、住民票の移動など、18歳が初めて1人暮らしを始める際の手続きをサポートします。
「うちで全部手伝うのは無理」という会社も、書類のリストと所要時間の目安を渡すだけで、保護者の安心感は変わります。
段階5:入社後の定期連絡
入社後の保護者への定期連絡を、入社前にコミットします。「入社1ヶ月後・3ヶ月後・1年後に、お子様の様子をお手紙でお伝えします」と。
これは退職リスクの低減にも直結します。本人が「辞めたい」と思った時、保護者が「もう少し頑張ってみたら」と言える状態を作るためです。
詳しくは早期離職防止ガイドで解説しています。
電話の話し方 — 文例集
採用担当者から保護者への初回電話で使える文例
冒頭の挨拶
「○○様、突然のお電話失礼いたします。株式会社□□の採用担当□□と申します。先日、お子様(□□様)に弊社から内定をお出しさせていただきました。お子様がここまで頑張られたこと、心からお祝い申し上げます。本日はお父様(お母様)にも、弊社のことを少しお話しさせていただきたくお電話いたしました。今、お話ししても大丈夫でしょうか?」
不安に寄り添う
「島から出てきて働くということで、ご家族としてもご心配なことがたくさんあると思います。よろしければ、何か気になっておられることがありましたら、何でも聞いてください。私の方から、社宅のことや帰省のことなど、具体的にご説明させていただきます。」
締めの一言
「お子様が入社された後も、私たちは家族の一員のような気持ちでお預かりさせていただきます。何かお気づきの点がありましたら、いつでも私の携帯にお電話ください。番号は090-xxxx-xxxxです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」
オヤカクのNG行動
「親は関係ない、本人が決めること」と言う
18歳の高卒採用では、保護者の意向は決定的です。本人がいくら入社を希望しても、保護者の反対で内定辞退になるケースは少なくありません。「本人が決めること」は形式論で、現実には通用しません。
電話を採用担当の若手だけに任せる
「採用担当の方からお電話いただきましたが、社長は会ったこともない」と保護者が感じると、会社全体の本気度を疑います。最低でも一度は社長や役員クラスが電話に出るか、見学会で直接顔を合わせるべきです。
島の文化を軽視する発言
「島の暮らしは確かに大変ですよね、本土の方が便利ですよ」のような発言は、保護者の人生を否定することになります。「島の良さを大切にされてきたお子様だからこそ、弊社で活躍してくれると信じています」のように、島の暮らしを尊重する姿勢を示してください。
福利厚生を「ある」とだけ言う
「社宅完備」「帰省支援あり」のような抽象的な説明では、保護者は具体的なイメージを持てません。「社宅は会社から徒歩10分、家賃の8割を会社が負担、お風呂・トイレ別の1Kです」のように、数字と具体性を込めて伝えてください。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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