高卒で採った社員を辞めさせない
香川県の中小企業ができる定着の仕組み
1 月末内定率 95.9% の香川県で、やっと 1 人採った高卒社員が半年で辞めた。「思ったのと違った」と言われた。何が違ったのかを聞いても、はっきりとは答えてくれなかった。
この経験をした企業は、香川県では珍しくありません。今治造船・タダノ・川崎重工業・三菱ケミカル・コスモ石油といった大手と同じ高校から数百人に 1 人を採れた中小企業にとって、確保できた人材を失うことの痛手は計り知れません。
全国データでは高卒就職者の3 年以内離職率は 37.9%(厚生労働省・令和 4 年 3 月卒)。約 4 割が 3 年以内に辞めています。香川県単独の離職率データは公表されていませんが、香川県の産業構造——造船・手袋・石化・食品加工が中心、中小企業が大半、平均年齢の高い職場——を考えると、この問題は香川県の企業にとって特に重い意味を持ちます。
この記事では、「なぜ辞めるのか」を香川県の現場から考え、「従業員 40 人の会社でも明日からできること」を具体的に解説します。
香川県の中小企業で、高卒社員が辞める理由
「ものづくり」のイメージと現場のギャップ
香川県は造船・手袋・石油化学・食品加工を中心とする「ものづくり県」です。工業高校から製造業に就職する生徒にとって「ものづくり」は前向きなイメージです。
しかし現場で待っているのは:
- •3 交代制のシフト勤務。造船・石油化学・食品加工ではプラントを止められないため 24 時間体制が一般的。高校まで朝起きて夜寝ていた 18 歳にとって、生活リズムの激変は想像以上のストレスです
- •精密部品の検査・組立の反復作業。「船を作る」「機械を作る」イメージと「同じ動作を 8 時間繰り返す」現実のギャップ
- •工場の騒音・油のにおい・夏の暑さ。瀬戸内の温暖な気候は外では快適ですが、屋内製造現場は冷暖房が限定的なケースも。求人票の文字情報では伝わらない感覚的な環境
面接で「交代勤務は大丈夫ですか?」と聞けば、18 歳は「大丈夫です」と答えます。やったことがないのだから、本当の意味で想像できていない。これはミスマッチではなく「体験の不足」です。
同期がいない孤立 — 中小製造業の「年齢断裂」
タダノ・今治造船・川崎重工業など大手企業は一度に数十人を採用します。同期がいる。同じ年齢の仲間と愚痴を言い合える環境がある。
中小企業は 1 人か 2 人。入社初日から、周囲は全員年上です。「見て覚えろ」と言われても、何を見ればいいかわからない。わからないことを聞ける相手がいない。
香川県の中小製造業は平均年齢が高い傾向があり、10 代と 50 代の間に 20 代・30 代がほとんどいない「年齢層の断裂」が起きている会社も少なくありません。特に東讃の手袋産業や西讃の食品加工は、地域全体で若手の流出が続いた結果、職場の年齢構成が著しく偏っているケースが多い。この環境で 18 歳が孤立しない方が不自然です。
SNS で見える「別の人生」
入社して数ヶ月。SNS を開くと、大学に進学した友人がサークルで楽しそうにしている。他の会社に就職した友人が「うちの会社、土日完全休みで」と投稿している。香川県では大学進学者の県内大学進学率が約 17%。同級生の多くは関西圏・首都圏に出ているため、SNS で見える「都会の生活」とのコントラストが特に強くなります。
自分は交代勤務で土曜も出勤。手取りは額面より 3 〜 4 万円少ない(税金・社会保険の天引きを知らなかった)。「本当にこれでよかったのか」という気持ちが膨らむのは自然なことです。
東讃・西讃の若手:「地元にいる理由」が見えない
東かがわ市や三豊市で入社した 18 歳にとって、地元には同世代がほとんど残っていません。地元の中学校の同級生は高松市・岡山市・大阪に出てしまった。職場でも先輩は年が離れている。地元のお祭りや集まりに行っても、自分と同世代がいない。
「仕事は嫌じゃないけど、この地域にいること自体がつらい」——これは離職理由の統計には出てきませんが、東讃・西讃の企業が直面している現実です。
いつ辞めるか — 危険なタイミングと見逃せないサイン
離職の多くは突然ではなく、予兆があります
GW 明け(入社後 1 ヶ月)— 最も危険
4 月に必死で頑張った反動と、GW 中に高校時代の友人と会って「比較」してしまうこと。この 2 つが重なる GW 明けが、最も離職リスクの高い時期です。
「辞めたい」の前に出る行動変化
- 1.朝の挨拶が小さくなる
- 2.休憩時間にひとりでスマホを見ている時間が増える
- 3.質問しても「特にないです」が増える
- 4.欠勤ではなく遅刻が増える(辞めたいが朝起きられなくなるのが先行サイン)
- 5.先輩や上司との雑談を避けるようになる
これらのサインが 2 つ以上見えたら、すぐに 1 対 1 で話す機会を作ってください。「何かあった?」ではなく、「最近、仕事で一番しんどいことは何?」と具体的に聞くことが重要です。
3 ヶ月目 — 「成長していない」不安
試用期間が終わる頃。最初の緊張が解けて、逆に「自分は何もできるようになっていないのでは」という不安が芽生えます。特に造船・石油化学のプラント業務では、3 ヶ月で一人前になれる仕事はほぼありません。手袋製造の縫製・検品も、習熟までに半年以上かかります。本人がそのことを理解していないと、「自分には向いていない」と結論づけてしまいます。
対応:3 ヶ月時点で「入社時にはできなかったけど今できるようになったこと」を一緒にリストアップする。本人は気づいていなくても、必ず成長している部分がある。それを言語化して見せることです。
6 ヶ月目 — 友達との比較が深刻になる
手取り 14 〜 15 万円の生活に慣れてきた頃、大学進学した友人はバイトで同じくらい稼いでいる。他社に就職した友人が「ボーナス出た」と投稿している。自分の夏のボーナスは寸志だった。
対応:半年間の昇給・賞与実績を見せたうえで、「3 年後・5 年後の年収モデル」を提示する。大卒が 22 歳でスタートするのに対し、高卒は 18 歳からキャリアを積んでいるという事実を、数字で見せることが効果的です。
1 年目の終わり — マンネリか、次のステージか
仕事に慣れてきた。しかし「慣れた」は「飽きた」に変わりやすい。特に造船・食品加工のライン作業では、同じ工程を 1 年間繰り返した後のマンネリ感は深刻です。
対応:1 年目の終わりに「次の担当」や「新しい工程」へのステップアップを用意する。あるいは後輩指導の役割を与える。「この会社で、来年は今年とは違うことができる」と思えるかどうかが、2 年目を迎えられるかの分岐点です。
従業員 40 人の会社で、現実的にできること
大企業向けの教科書ではなく、香川県の中小企業の現実に合わせた対策
「メンター」がいないなら、社長がやる
「メンター制度を導入しましょう」は正論です。でも入社 3 年目がいない会社で、誰がメンターになるのか。香川県の中小製造業で、特に東讃・西讃の事業所では、20 代社員自体が存在しないケースも珍しくありません。
答え:社長がやる。
中小企業の最大の強みは、社長が社員の顔を全員知っていることです。タダノや今治造船では不可能な「社長が新入社員と週 1 回 15 分話す」が、中小企業ではできます。
- •月曜の朝、「週末何してた?」と声をかける
- •月 1 回、昼食を一緒に食べる(讃岐うどん屋で OK)
- •「困ったことがあったらいつでも言ってくれ」ではなく、「今月一番大変だったことは何?」と具体的に聞く
「困ったことがあったら言ってね」は機能しません。18 歳が社長に「困ってます」とは言えない。聞き方を具体的にすることが全てです。
面談で使える問いかけ — 「大丈夫?」は聞いたことにならない
「困ってない?」「大丈夫?」と聞いても、18 歳は「大丈夫です」としか答えません。以下の問いかけに変えてください。
答えやすい問いかけの例
- Q.「先週、仕事で一番楽しかったことは何?」
- Q.「今、一番わからないことって何?」
- Q.「家に帰ってから何してる?」(生活リズムの異変をキャッチ)
- Q.「この会社に入って、思ってたのと違ったことってある?」
- Q.「もしうちの会社を友達に紹介するとしたら、何て言う?」
最後の質問で出てくる言葉が「別に...」なら危険サイン。ポジティブな言葉が出れば定着の兆し。
4 番目の質問をするときは、「違って当然だよ。自分もそうだった」と前置きしてください。「正直に答えていい」と思える空気がないと、本音は出てきません。
3 交代制のギャップを防ぐ — 入社前に体験させる
面接で「交代勤務は大丈夫ですか?」→「大丈夫です」。このやり取りは無意味です。やったことがないから「大丈夫」と言っている。
代わりにやること:内定後 〜 入社前の期間に、実際の交代勤務を 1 〜 2 日体験させる。夜勤の時間帯に来てもらい、実際の作業環境を見せる。番の州工業団地の石油化学プラントや、丸亀の今治造船下請けの夜勤工程は、想像と現実が大きく違います。そのうえで「それでもこの会社で働きたいか」を本人に判断させる。
この体験で辞退する生徒が出る可能性はあります。しかし、入社後 3 ヶ月で辞められるよりはるかにマシです。採用活動の 1 年分のコストが無駄になるのと、内定辞退 1 人分のコスト。どちらが重いかは明白です。
手取りのギャップを防ぐ — 初任給シミュレーション
基本給 17 万円。でも手取りは 14 万円台。この 3 万円の差に、初任給日に失望する高卒社員は少なくありません。
内定後の懇親会やオリエンテーションで:
- •給与明細の見方を教える(額面・控除・手取りの仕組み)
- •先輩社員の手取り推移を見せる(1 年目 → 3 年目 → 5 年目)
- •「大卒は 22 歳スタート。あなたは 18 歳から 4 年分のキャリアを積める」という事実を伝える
「知らなかった」を「わかったうえで働く」に変える。それだけで、初任給日のショックは大幅に減ります。
保護者への「定着報告」— 辞める前のセーフティネット
高卒社員は 18 歳。「辞めたい」と最初に相談するのは、上司ではなく保護者です。そのとき保護者が「もう少し頑張ってみたら」と言えるか、「そんな会社辞めなさい」と言うかは、企業と保護者の関係がどれだけ構築されているかで決まります。
- •入社 1 ヶ月後に保護者へ「お子様の様子」を手紙で報告する
- •3 ヶ月後に「できるようになったこと」を具体的に伝える
- •香川県は地元の口コミが強い地域です。保護者が安心して周囲に「うちの子はいい会社に入った」と言える状態を作ることが、次年度の採用にも直結します
詳しくはオヤカク完全マニュアルで解説しています。
入社 1 年目 — 時期別の定着アクション
先手を打つためのチェックリスト
| 時期 | リスク | 本人の状態 | やるべきこと |
|---|---|---|---|
| 内定 〜 入社前 | 中 | 期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」 | 月 1 回のニュースレター / 3 交代勤務の体験 / 給与明細の見方説明 / 先輩社員との座談会 |
| 入社 〜 2 週間 | 高 | 環境激変。「居場所がない」 | 歓迎ランチ / メンター(社長)初回面談 / 毎日の声かけ / 2 週間のスケジュールを事前に提示 |
| 1 ヶ月(GW 明け) | 最高 | 五月病。「やっぱり合わないかも」 | 週 1 回の 1 対 1 対話 / 保護者への状況報告 / GW 明け翌日の特別フォロー / 小さな成功の承認 |
| 3 ヶ月 | 高 | 「成長していない」不安 | 成長の棚卸し(入社時 → 今の比較) / 次の 3 ヶ月の目標設定 / 本採用決定の面談 |
| 6 ヶ月 | 中 | 友達との比較。「あっちの方がよさそう」 | 昇給・賞与実績の提示 / 3 年後の年収モデル提示 / 資格取得の提案 |
| 1 年 | 中 | マンネリ。「このままでいいのか」 | 新しい工程・担当へのステップアップ / 後輩指導役 / 1 年間の成果発表の機会 |
期待と不安。「本当にこの会社でいいのか」
- •月 1 回のニュースレター
- •3 交代勤務の体験
- •給与明細の見方説明
- •先輩社員との座談会
環境激変。「居場所がない」
- •歓迎ランチ
- •メンター(社長)初回面談
- •毎日の声かけ
- •2 週間のスケジュールを事前に提示
五月病。「やっぱり合わないかも」
- •週 1 回の 1 対 1 対話
- •保護者への状況報告
- •GW 明け翌日の特別フォロー
- •小さな成功の承認
「成長していない」不安
- •成長の棚卸し(入社時 → 今の比較)
- •次の 3 ヶ月の目標設定
- •本採用決定の面談
友達との比較。「あっちの方がよさそう」
- •昇給・賞与実績の提示
- •3 年後の年収モデル提示
- •資格取得の提案
マンネリ。「このままでいいのか」
- •新しい工程・担当へのステップアップ
- •後輩指導役
- •1 年間の成果発表の機会
香川県で活用できる定着支援
ワークサポートかがわ(ワクサポかがわ)
高松市サンポート 2-1 マリタイムプラザ高松 2 階。就職・移住支援、インターンシップマッチング、企業の人材確保サポートをワンストップで提供。若手社員の定着支援についても相談可能。
ワクサポかがわ 公式サイト高松新卒応援ハローワーク
高松市サンポート 3 番 33 号 高松サンポート合同庁舎 3 階。新卒者(高校生・大学生)への就職支援専門窓口。離職予兆や定着支援についても相談ルートあり。
高松新卒応援ハローワーク補助金・助成金の詳細は香川県の採用支援・補助金ガイドをご覧ください。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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