1. 高卒の内定辞退は、大学生のそれと別物です
結論からお伝えします。高校生の内定辞退は、大学生の内定辞退と仕組みがまったく違います。 大学生の感覚で動くと、自分の進路だけでなく、学校と企業の信頼関係まで揺らがせてしまうことがあります。
根拠は採用のしくみそのものです。大学生は自分で複数の企業に応募し、自分の判断で内定を選ぶことができます。 一方、高校生の就職は「一人一社制」と「学校推薦」という独自のルールの上で動いています。 学校が生徒の名前で企業に応募書類を出し、企業はそれを信頼して受け取り、選考し、内定を出します。 つまり高校生の内定は、生徒個人と企業の間だけで成立しているのではなく、「学校 ー 生徒 ー 企業」の3者の信頼関係の上に成り立っているということです。
この前提を共有したうえで、ネット上の「内定辞退の電話のかけ方」「メール例文」を見ても、それは大学生向けの話で、高校生がそのまま真似して使えるものではありません。 高校生は、企業に連絡する前にやることが先にあります。
この記事で伝えたいこと
高校生の内定辞退は「個人で連絡を入れて終わり」ではありません。 学校・先生・企業の順番で、誠実に伝えることがすべての出発点になります。 この記事では、その順番と、それぞれの段階で何を伝えるべきかを具体的にお伝えします。
2. 一人一社制と学校推薦のしくみ
結論からお伝えします。高校生の就職活動には、全国レベルで定められた応募ルールがあります。 これを知らないと、なぜ内定辞退が大事な話になるのかが見えてきません。
2-1. 採用選考のスケジュール
高校新卒の採用選考は、毎年、厚生労働省・文部科学省・主要経済団体・全国高等学校長協会の話し合いで日程が決められています。 厚生労働省が令和8年2月に公表した「令和9年3月新規高等学校等卒業者の就職に係る採用選考期日」によると、ハローワークでの求人申込みの受付は6月1日、企業から学校への求人申込み・学校訪問の開始は7月1日、学校から企業への応募書類提出は9月5日(沖縄県は8月30日)、企業の選考開始および採用内定の開始は9月16日となっています。
出典:厚生労働省「令和9年3月新規高等学校等卒業者の就職に係る採用選考期日等を取りまとめました」(令和8年2月公表)
2-2. 一人一社制 — 同時に応募できるのは1社まで
高校新卒の応募ルールは、原則として「一人一社制」と呼ばれています。 これは、同時に応募できる企業を1社に限定するという考え方です。 生徒は校内選考で推薦企業が決まると、その1社に学校経由で応募書類を提出します。 選考が終わって結果が出るまで、ほかの企業に並行して応募することはできません。 これが大学生の自由応募制との一番大きな違いです。
2-3. 複数応募が解禁される時期
ただし、一人一社制が一年中続くわけではありません。 東京労働局が公表している応募ルールでは、ある一定の時期(多くの都道府県で10月以降)から、2社まで複数応募ができるように切り替わるしくみが用意されています。 これは、最初の応募で不採用になった生徒が次の機会を持てるようにするための制度です。 具体的な解禁日と上限社数は都道府県ごとに違うため、必ず自分の学校の先生に「うちの県のルール」を確認してください。
出典:東京労働局「新規学校卒業者の採用について」
2-4. なぜこのしくみがあるのか
一人一社制と学校推薦のしくみは、勉強と部活と就職活動を両立させるための制度です。 大学生のように長い期間をかけて何十社も受けるのではなく、夏休みのあいだに学校が応募先を絞り込み、1社にしっかり向き合って選考を受ける形にすることで、生徒の負担を抑えるのが目的です。 同時に、企業側にとっても、学校が推薦した生徒が選考途中で消えてしまわない安心感があり、採用予定を立てやすくなっています。
押さえておきたいポイント
高校生の就職活動の応募ルールは、生徒・学校・企業の3者を守るしくみとして設計されています。 この前提があるからこそ、「内定が出たあとに自分の都合だけで辞退する」という行動は、自分以外の人にも影響が及ぶ重みを持ちます。
3. 法律で見たときの内定辞退の位置づけ
結論からお伝えします。法律のうえで、内定辞退そのものは禁止されていません。 ただし、「法律で認められている」ことと、「高校生としてどう振る舞うべきか」は別の話です。
内定は、法律的に見ると「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれる労働契約の予約に近い状態です。 内定通知を受け取り、生徒側がそれを承諾した段階で、入社日を始まりとする雇用契約がすでに結ばれていると考えるのが、現在の判例の整理です。
その契約をあとから取り消すこと、すなわち内定辞退ができるかどうかについては、厚生労働省所管の京都新卒応援ハローワークが、次のように説明しています。 すなわち、職業選択の自由(憲法22条)と、民法627条が定める退職の予告(2週間前の申し入れ)の考え方に準じて、内定辞退の申し入れをすることは法的に問題はないと考えられるという立場です。
出典:京都新卒応援ハローワーク「内定後のこと」(厚生労働省所管)
ここで大事なのは、ハローワークの説明文も「法的に問題はない」と書いたうえで、「企業は受け入れ準備を進めている。誠実な対応を」と続けている点です。 法律のうえで認められているということと、誠実に振る舞うことは、別の軸として両方とも大切にされています。
高校生にとっての法律論
「法律的にできるから自由にやっていい」という結論には、高校生の就職の場合はなりません。 学校推薦という仕組みで成り立っている以上、自分一人の判断で動くと、先生や後輩、ほかの生徒の進路にまで影響が及びます。 法律論だけを根拠に動かないでください。
4. 辞退が認められやすいケースと、認められにくいケース
結論からお伝えします。「やむを得ない事情」がある場合と、「気が変わった」だけの場合では、学校も企業も対応がまったく違います。 自分の状況がどちらに近いかを、まずは正直に考えてみてください。
4-1. 辞退が認められやすい主なケース
以下のような事情は、学校や企業も「やむを得ない」と判断するケースが多いです。ただし、いずれの場合も、独断で動かず、学校に相談することが前提です。
- ・進路を就職から進学に切り替える決断をした場合
- ・家業を継ぐことが家族の事情で急に決まった場合
- ・自分または家族の病気・介護など、健康・家庭上の理由で内定先で働くことが難しくなった場合
- ・公務員試験など、別の正規ルートで合格した場合(学校や自治体のルールに従って対応)
4-2. 認められにくい主なケース
以下のような理由は、学校が同意せず、企業との関係も悪くなりやすいです。
- ・「友だちが大手に内定したので、自分ももっといいところに行きたくなった」
- ・「ネットで会社の悪口を見て不安になった」(事実確認なし)
- ・「面接のときの雰囲気が思っていたのと違った」(応募前に確認できたはずの事項)
- ・「自分から応募したのに、内定が出てから気が変わった」
認められにくい理由で辞退を進めようとした場合、学校が間に入って「もう一度よく話を聞こう」「企業に直接質問してみよう」と提案してくる可能性があります。 これは先生が引き留めているのではなく、本当にその選択でいいのかを一緒に確認しているということです。
迷ったらまず先生に相談
自分の状況がどちらのケースなのか、一人では判断しきれないことも多いです。 「こんなことで相談していいのかな」と思っても、先生に話してみてください。 ネットで匿名で相談するより、自分の状況を一番よくわかっている進路指導の先生に話す方が、現実的な答えにたどり着きやすくなります。
5. 正しい手順 — 必ずこの順番で動いてください
結論からお伝えします。高校生の内定辞退には、守るべき順番があります。 順番を間違えると、せっかくの誠実な意思も伝わらなくなります。
手順1. まずは家族と話す
先生に相談する前に、家族と話してください。 辞退の理由が進路変更・家庭の事情である場合は特に、家族の理解と協力が出発点になります。 「自分はこう考えている」「家族はこう思っている」を整理してから、先生に伝えにいくと、話がスムーズに進みます。
手順2. 進路指導の先生に直接相談する
次は学校です。担任の先生または進路指導の先生のところに、自分から相談しにいってください。 LINEやメールで「辞退したいです」と伝えるのではなく、対面で話す方がいいです。 理由・経緯・家族の意向を、自分の口で話します。 先生は、これまで企業との関係を築いてきた立場から、いまできる現実的な選択肢を一緒に考えてくれます。
手順3. 学校と方針を決める
先生と話したうえで、本当に辞退するかどうかを決めます。 辞退する方向で固まった場合は、誰が企業にどう伝えるかも、ここで決めます。 高校生の場合、企業への連絡は、基本的に学校(進路指導の先生または校長)を通して行うのが原則です。 生徒が一人で企業に電話をかけたりメールを送ったりするのは、避けるべきです。
手順4. 学校を通じて企業に連絡する
方針が決まったら、できるだけ早く企業に連絡を入れます。 判断が遅れるほど、企業の入社準備は進み、影響が大きくなります。 ハローワークも「内定辞退の申し入れは、進路が決まったら直ちに行うこと」と説明しています。 連絡は文書(学校長名の書面)と電話を組み合わせて行われるのが一般的です。 どの形式を使うかは学校が判断するので、生徒はその方針に従ってください。
手順5. 必要に応じて生徒からも一言伝える
学校を通じて辞退が伝わったあと、企業側から「本人と話したい」と求められる場合があります。 その際は、学校に同席してもらいながら、自分の言葉で辞退の理由とお詫びを伝えます。 企業の人事の方は、選考のために時間を使ってくれた人たちです。 電話やメールで一方的に終わらせるのではなく、自分から声を届けることで、関係を最後まで誠実に締めくくれます。
やってはいけない順番
先に企業に「辞退します」と連絡してしまい、あとから学校に報告するのは、最もまずい順番です。 企業は学校から推薦された生徒として選考しているため、生徒から直接の連絡が来ると、学校との関係そのものを疑い始めます。 必ず家族 ー 学校 ー 企業の順番で動いてください。
6. 必ず守るべき3つのこと
結論からお伝えします。辞退の連絡そのものよりも、その前後の振る舞いの方が大事です。3つだけお伝えします。
6-1. 連絡を一日でも遅らせない
辞退の意思が固まったら、一日でも早く先生に伝えてください。 内定をもらった企業は、その日からあなたを前提に研修計画や配属計画を組んでいます。 先延ばしにすればするほど、企業の損害は大きくなり、学校への信頼も下がります。 言いにくいからこそ、早く動くことが、自分のための一番の誠実さです。
6-2. 嘘の理由をつけない
辞退の理由は、正直に伝えてください。 「進学に切り替えた」「家業を継ぐ」「公務員試験に合格した」など、その時点の事実をそのまま伝えるのがベストです。 嘘の理由をつけると、あとで事実が違うことが発覚したときに、学校と企業の信頼関係が長く尾を引いて壊れます。 それは自分の後輩の進路にまで影響します。
6-3. SNSに書かない
辞退した企業の名前・選考で感じたこと・社員の人の発言などを、SNSやインターネット掲示板に書き込まないでください。 「もうやめる会社だから」と思っても、書き込みは残り、企業にも学校にも届きます。 辞退は、自分と学校と企業の3者の中で完結させる話です。第三者に向けて発信するべきことではありません。
3つに共通している考え方
早く・正直に・静かに。 この3つを守れば、辞退という決断は、あなたの今後にとってマイナスにはなりません。 「ちゃんと向き合ってくれた生徒」として、先生も企業も覚えていてくれます。
7. 辞退したあとに待っていること
結論からお伝えします。辞退したあとも、自分の進路を決める作業は続きます。むしろ、ここからが本番です。
7-1. 進学に切り替える場合
進学先がまだ決まっていない場合、これからの数ヶ月で出願先を絞り込む必要があります。 高校3年生の秋以降から動き始める進路変更は時間との戦いになるため、進路指導の先生と一緒に、現実的に間に合う選択肢を整理してください。
7-2. 別の就職先を探す場合
就職を続ける選択をした場合、一人一社制の中で次にどの企業に応募できるかは、学校と都道府県のルールで決まります。 辞退をした生徒に対する取り扱いは、学校ごと・都道府県ごとに違うため、必ず先生と確認してください。 自分一人で「もう一回応募できる」と思い込んで動くのは禁物です。
7-3. 二次募集や次の応募機会を待つ場合
高校生の就職活動には、二次募集と呼ばれる次の応募機会があります。 厚生労働省が毎月発表している「高校・中学新卒者の就職内定状況」を見ると、年明け以降も求人が継続的に出ていることがわかります。 焦って次の応募先を決めるよりも、二次募集で改めて自分に合う企業を探す方が、結果として落ち着いた選び方ができることもあります。 焦らないでください。
出典:厚生労働省「高校・中学新卒者の就職内定状況」(毎月公表)
辞退は終わりではなく区切り
内定辞退は、その企業との関係の終わりであって、自分の人生の終わりではありません。 正しい順序で誠実に動けば、次の進路に進むための時間と選択肢は、ちゃんと残されています。
8. まとめ
高校生の内定辞退は、大学生のそれと別物です。 一人一社制と学校推薦のしくみがあるからこそ、家族 ー 学校 ー 企業の順番で動くことが必須になります。
法律のうえでは、内定辞退の申し入れ自体は禁止されていません。 それでも、自分一人の判断で企業に直接連絡してしまうと、学校と企業の信頼関係を揺らがせ、後輩の進路にまで影響することがあります。
やむを得ない事情がある場合は、まず家族と話し、進路指導の先生に相談してください。 辞退の方針が固まったら、できるだけ早く、学校を通じて企業に伝えます。 守ることは3つだけ。早く動くこと、嘘の理由をつけないこと、SNSに書かないこと。 この3つを守れば、辞退という決断は、あなたの次の進路にちゃんとつながっていきます。
迷ったときは、ネット記事よりも、自分の学校の進路指導の先生に話してみてください。 先生は、あなたの状況も学校の方針も都道府県のルールも、誰よりも正確に知っている存在です。
出典一覧
- 厚生労働省「令和9年3月新規高等学校等卒業者の就職に係る採用選考期日等を取りまとめました」(令和8年2月16日報道発表)
- 東京労働局「新規学校卒業者の採用について」(高校新卒者の応募ルール解説)
- 京都新卒応援ハローワーク「内定後のこと」(内定辞退の法的位置づけ・厚生労働省所管)
- 厚生労働省「高校・中学新卒者の就職内定状況」(毎月公表・統計一覧)
取得日:2026年5月23日
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター


