山梨県の若者流出とUターン採用戦略

東京圏1.5時間の距離が生む課題と、地元定着を実現する具体策

山梨県の高卒採用市場では、県内就職率87〜88%と比較的高い地元定着率を維持しています。しかし山梨県には他県にはない特殊な事情があります。中央線特急で東京まで約1.5時間という地理的な近さが、若者にとって東京圏を「手の届く選択肢」にしているのです。

さらに深刻なのは、就職希望者が全体のわずか16.2%(約770人)しかいないという現実です。残りの83.8%は進学を選択しており、県外大学への進学時に山梨を離れる若者が多いのが実態です。求人倍率3.92倍の超売り手市場で、限られた高卒人材をいかに確保し、大学卒のUターン人材をいかに呼び戻すか。本記事では山梨県特有の若者流出パターンと、やまなし奨学金返還支援制度・移住支援金の活用を含む具体的な対策を解説します。

87〜88%
高卒県内就職率
地元志向は比較的高い
3.92倍
高卒求人倍率
過去最高水準
16.2%
就職希望者比率
残りは進学(770人)
801,056人
総人口
減少傾向

1. 山梨県の若者流出の実態データ

山梨県は製造業従業者割合が全国1位で、ファナック(CNC世界シェア50%)、東京エレクトロンTS(半導体装置)、シチズンファインデバイス(精密デバイス)など世界的企業が立地しています。しかし、東京圏との物理的な近さが「いつでも東京に出られる」という心理を生み、若者の流出リスクを常態化させています。

東京圏への距離がもたらす「心理的ハードルの低さ」

甲府駅から新宿駅まで特急あずさで約1時間30分。中央自動車道を使えば車でも約2時間。この距離は、地方移住ではなく「通勤圏の延長」として認識される水準です。高校生にとって「東京で働く」ことへの心理的ハードルが極めて低く、保護者も「東京なら何かあってもすぐ帰れる」と考える傾向があります。

就職希望者は全体の16.2%だけ

山梨県の高校卒業者のうち就職を希望するのは約770人、全体の16.2%にすぎません。残りの83.8%は大学・短大・専門学校などに進学します。進学時に県外へ出た若者がそのまま東京圏で就職するケースが多く、高卒採用市場のパイ自体が非常に小さいのが山梨県の構造的課題です。

山梨県高卒者の就職動向
項目数値備考
県内就職率87〜88%高卒者の地元志向は比較的高い
県外就職率約11.4%東京圏が大半を占める
求人倍率3.92倍過去最高水準(求人3,074人/求職780人)
内定率98.1%就職希望者はほぼ全員が内定
就職希望者比率16.2%約770人(残りは進学)
20-39歳女性割合9.2%全国平均10.3%を下回る

ポイント:山梨県の「2つの構造的課題」

山梨県の採用市場には2つの構造的課題があります。(1) 就職希望者がわずか16.2%で高卒採用のパイが極めて小さいこと、(2) 東京圏への物理的・心理的距離が近く、大学進学時の県外流出が恒常化していること。高卒採用の戦略と、大卒Uターン人材の獲得戦略を並行して進める必要があります。

2. 山梨県の人口移動パターン:東京圏への流出と県内偏在

山梨県の若者流出は、東京圏への直接流出だけではありません。県内でも甲府市圏への人口集中が進んでおり、郡内地域(大月・都留・富士吉田方面)や峡南地域(身延・南部方面)の企業は二重の流出圧力に直面しています。

山梨県の主な人口移動パターン
流出元エリア流出先主な要因影響を受ける業種
郡内(大月・都留・富士吉田)東京圏・甲府市圏中央線で東京にアクセスしやすい観光・製造業・中小サービス業
峡南(身延・南部・市川三郷)甲府市圏・静岡県交通の不便さ・商業施設不足農林業・中小製造業
峡北(北杜・韮崎)甲府市圏生活利便性を求めて精密機器・農業関連
県全域(大学進学時)東京圏大学の選択肢・都市への憧れ全業種(Uターン採用の対象)

人口減少の将来予測

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、山梨県の総人口は2025年の801,056人から2050年には約3/4に減少すると見込まれています。15〜19歳の人口は、2025年の33,669人から2045年には22,268人へと約34%減少する見通しです。高卒採用のパイはさらに縮小していくことが確実であり、今から対策を打つことが急務です。

企業への影響:「東京に出るか残るか」の二択を変える

山梨県の高校生にとって就職は「山梨に残るか、東京に出るか」の二択になりがちです。中小企業が採用を成功させるには、この二択を「山梨で働く方が得だ」と思わせる具体的な材料(生活コスト比較・転勤なし・奨学金返還支援など)を提示する必要があります。

3. Uターン採用戦略:支援制度を活用して若者を呼び戻す

高卒者の県内就職率は87〜88%と高いものの、大学進学時に県外へ出る若者が非常に多いのが山梨県の特徴です。東京の大学に進学した山梨県出身者を卒業後にUターンで呼び戻すことは、人材確保の重要な戦略になります。

ステップ1:Uターン希望者の発掘

山梨県は東京から近い分、「地元に帰りたい」と思ったときにすぐ行動に移せる距離です。東京・神奈川の大学に進学した山梨県出身者をターゲットに、ジョブカフェやまなしや、やまなし就職応援ナビ(AI診断マッチング機能搭載)を活用しましょう。帰省シーズン(お盆・年末年始)に合わせたWeb広告出稿も有効です。

ステップ2:オンライン選考フローの整備

東京からは近いとはいえ、何度も往復するのは負担です。一次面接はオンライン、最終面接のみ対面とするなど柔軟な選考フローを整備しましょう。「土日面接可」「オンライン完結可」を求人票に明記することで応募のハードルを大きく下げられます。

ステップ3:東京との生活コスト比較で「手取りの価値」を可視化

山梨県の最大の武器は「東京圏に近いのに生活コストが大幅に安い」こと。家賃・食費・通勤ストレスの違いを数字で提示し、「額面は東京の方が高くても、可処分所得は山梨の方が多い」という事実を伝えましょう。

ステップ4:充実した支援制度の活用

山梨県はUIターン支援制度が充実しています。これらを求人情報に組み込み、Uターンの経済的ハードルを下げましょう。

支援制度内容対象
やまなし奨学金返還支援制度県と参加中小企業が1/2ずつ負担山梨県にUIターン就職する方
移住支援金18歳未満の子供1人につき100万円加算東京23区在住者が山梨に移住
ジョブカフェやまなし無料キャリア相談・セミナー15〜39歳(甲府市飯田1-1-20)
やまなし就職応援ナビAI診断マッチング山梨県で就職を希望する方

成功事例:精密機器メーカーC社(韮崎市)の取り組み

課題:韮崎市で技術職の採用が年々困難に。東京エレクトロンTSとの採用競争に加え、県外への人材流出が続いていた。

対策:東京の大学に進学した地元出身者をターゲットに、お盆の帰省時期に合わせた工場見学会を実施。オンライン面接を導入し、借り上げ社宅制度とやまなし奨学金返還支援制度を新設。生活コスト比較表(東京vs韮崎)を求人資料に同封。

結果:県外大学卒のUターン採用2名に成功。「東京で手取り22万円+家賃8万円より、韮崎で手取り19万円+社宅1万円の方が手元に残る」と評価された。

4. 地元定着のための企業施策5選

高卒で地元就職した若者を長期的に定着させるためには、入社後の施策が重要です。求人倍率3.92倍の山梨県では、「入社してもらう」だけでなく「辞めずに続けてもらう」ことが企業の生命線です。東京への転職が物理的に容易な山梨県ならではの定着策を講じましょう。

1

東京との「リアルな生活比較」を入社時に共有する

「東京に出た方がよかったかも」という迷いを先回りで解消します。東京での家賃・通勤時間・生活コストと山梨での暮らしを具体的な数字で比較した資料を入社時に共有し、「地元で働く合理的な理由」を言語化しましょう。

2

待遇の継続的な改善と昇給カーブの見える化

初任給だけでなく、昇給カーブや賞与実績を入社時から開示しましょう。「3年後にはこのくらい」「5年後にはこのポジション」という具体的なキャリアパスを提示することで、「今は東京より低くても将来は追いつく」というビジョンが離職防止に効きます。

3

地域コミュニティとの接点づくり

信玄公祭り、吉田の火祭りなど山梨の祭事やスポーツイベント(ヴァンフォーレ甲府の応援など)への参加支援を行いましょう。「この地域で暮らす理由」を仕事以外にも作ることで、東京への転職意欲を抑制できます。

4

資格取得支援・スキルアップ制度

「ここにいても成長できる」という実感は離職防止の最大の武器です。資格取得費用の全額負担、外部研修への派遣、ジョブカフェやまなしのセミナー活用など、成長機会を積極的に提供しましょう。

5

住居支援・通勤支援の充実

社宅や借り上げ住宅の提供、家賃補助、マイカー通勤の駐車場無料提供は定着に直結します。山梨県は車社会であるため通勤支援は必須。実家から通勤する社員へも通勤手当の充実で「地元に残るメリット」を感じてもらいましょう。

定着率向上の詳細はこちら

早期離職防止と定着率向上の具体的な施策については「山梨県の早期離職防止・定着率向上ガイド」で詳しく解説しています。

5. よくある質問

Q. 山梨県の高卒者の県内就職率はどのくらいですか?

A. 山梨県の高卒県内就職率は87〜88%で、約11.4%が県外就職です。高卒人材の地元志向は比較的高いですが、東京圏への近さから流出リスクは常に存在します。

Q. 山梨県の若者流出の特徴は何ですか?

A. 東京圏まで中央線特急で約1.5時間と近く、大学進学時の県外流出が深刻です。就職希望者は全体の16.2%にとどまり、高卒採用のパイ自体が非常に小さいのが構造的課題です。

Q. 山梨県のUIターン支援にはどのようなものがありますか?

A. やまなし奨学金返還支援制度(県と企業が1/2ずつ負担)、移住支援金(18歳未満1人100万円加算)、ジョブカフェやまなし(無料)、やまなし就職応援ナビ(AI診断)などが充実しています。

Q. 山梨県の求人倍率はどのくらいですか?

A. 山梨県の高卒求人倍率は3.92倍(過去最高水準)で、求人数3,074人に対し求職者数780人と、企業間の人材獲得競争が非常に激しい状況です。

6. まとめ:山梨県の地理的優位性を「武器」に変える

山梨県は高卒県内就職率87〜88%という地元定着基盤を持ちつつ、東京圏との近さから常に若者流出のリスクにさらされています。就職希望者が全体の16.2%しかいないという現実を踏まえ、限られた高卒人材の確保とUターン人材の獲得を並行して進めることが不可欠です。

押さえるべきポイント:

  1. 東京との比較を「強み」に転換:生活コストの安さ・転勤なし・通勤の快適さを数字で示し、「東京に出るよりも山梨の方が得」という合理的な判断材料を提供する。
  2. 高卒採用のパイが小さい現実を直視:就職希望者770人を全企業で奪い合う市場。学校との信頼関係構築と差別化戦略を早期に始める。
  3. Uターン採用への投資:やまなし奨学金返還支援制度・移住支援金をフル活用し、東京の大学に進学した山梨出身者を呼び戻す。
  4. 定着施策の強化:東京への転職が容易な山梨では、「辞めない理由」を入社直後から丁寧に作り続けることが重要。

東京圏への近さは流出リスクであると同時に、「東京に近い地方暮らし」という唯一無二の魅力でもあります。この地理的優位性を採用の武器に変えましょう。

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データ出典:

  • 山梨労働局「高校新卒者の求人・求職・内定状況」
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」
  • 総務省「住民基本台帳に基づく人口・人口動態及び世帯数」
  • 山梨県「やまなし奨学金返還支援制度」
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