福島県の高校訪問完全マニュアル
先生に信頼される訪問の進め方——工業高校10校・5エリア別
7月1日の朝、郡山北工業高校の進路指導室には数百枚の求人票が積み上がります。日東紡績・ヨークベニマル・ゼビオ・オン・セミコンダクター・信越半導体——県内本社の有名企業に加え、首都圏・仙台の大手も求人を出します。その中で、従業員50人の中小企業の求人票がどう見られるか。これが福島県の高校訪問の出発点です。
先生は1学年200人の生徒の人生を預かっています。「知らない会社」に生徒を送り出すことはできません。求人票を郵送するだけの企業と、訪問した企業では、生徒に紹介される確率が大きく変わります。
この記事は、福島県の中小企業が進路指導の先生に「この会社なら任せられる」と思ってもらうための実務マニュアルです。県土が広い福島県では、5エリアごとに訪問戦略が変わります。
訪問前に決めること — 5エリアで全く違う訪問戦略
「県内全校」を回るのは現実的ではない
福島県の県立工業系高校は10校。県土13,784㎢に分散し、福島市〜白河市は車で2時間、郡山市〜いわき市も2時間以上。1日に2校以上を回ろうとすると移動時間で1日が終わります。
最初に決めるべきは「自社の事業所から通える範囲はどこか」。通勤可能圏内の高校に絞り込み、年間2〜3回継続して訪問する方が、薄く広く回るより遥かに効果的です。
エリア別・自社事業所から通えるか
| エリア | 主要都市 | 主要工業高校 | 通勤可能圏 |
|---|---|---|---|
| 県北 | 福島・伊達・二本松・本宮 | 福島工業(福島)・二本松実業(二本松) | 福島市内・伊達・二本松→福島市の事業所(公共交通あり) |
| 県中 | 郡山・須賀川・田村・三春 | 郡山北工業(郡山)・清陵情報(須賀川) | 郡山市内・須賀川→郡山市の事業所(東北本線・東北自動車道) |
| 県南 | 白河・西郷・矢吹 | 白河実業(白河) | 白河市内・西郷・矢吹→白河市の事業所(東北本線) |
| 会津 | 会津若松・喜多方・猪苗代 | 会津工業(会津若松)・喜多方桐桜(喜多方) | 会津若松・喜多方→会津若松市の事業所(磐越西線) |
| 浜通り | いわき・南相馬・相馬・双葉郡 | 平工業(いわき)・勿来工業(いわき)・小高産業技術(南相馬) | いわき市内・常磐線沿線→いわき市の事業所(常磐線) |
主要校:福島工業(福島)・二本松実業(二本松)
福島市内・伊達・二本松→福島市の事業所(公共交通あり)
主要校:郡山北工業(郡山)・清陵情報(須賀川)
郡山市内・須賀川→郡山市の事業所(東北本線・東北自動車道)
主要校:白河実業(白河)
白河市内・西郷・矢吹→白河市の事業所(東北本線)
主要校:会津工業(会津若松)・喜多方桐桜(喜多方)
会津若松・喜多方→会津若松市の事業所(磐越西線)
主要校:平工業(いわき)・勿来工業(いわき)・小高産業技術(南相馬)
いわき市内・常磐線沿線→いわき市の事業所(常磐線)
郡山北工業の特殊性
福島県立郡山北工業高校は6学科(機械・電気・電子・情報技術・化学工学・建築)を擁する県内最大規模の工業高校。県中の中小製造業はもちろん、首都圏・仙台の大手メーカーも一斉に求人を出します。
ここで「中小企業の名前を覚えてもらう」のは難易度が高い。学科を絞り込み、その学科の主任に的を絞った訪問を3年継続する戦略が有効です。「機械科の○○先生に毎年訪問している会社」と覚えてもらえれば、生徒紹介の確率が大きく変わります。
小高産業技術高校(南相馬)の意味
福島県立小高産業技術高校は、震災・原発事故で休校した小高工業高校・小高商業高校等を再編し、2017年に再開校した経緯のある学校です。避難指示解除に合わせて立地した学校で、福島イノベーション・コースト構想エリアの人材育成を担います。
浜通り北部で事業をしている企業にとって、小高産業技術への訪問は欠かせません。ロボット・ドローン・廃炉関連の研究機関と連携した教育課程もあり、「最先端の現場で働ける」訴求が刺さる生徒が集まります。
訪問のタイミング — 7月1日の朝が勝負
時期を間違えると、どれだけ良い会社でも先生の記憶に残らない
| 時期 | 目的 | やること | ポイント |
|---|---|---|---|
| 4〜5月(採用準備期) | 挨拶訪問 | 前年度のお礼と「今年も求人を出します」の予告。すでに関係がある学校への顔つなぎ。新規開拓もこの時期から | 夏休み前で先生も比較的時間がある |
| 6月(求人申込期) | ハローワーク準備期 | この時期の学校訪問は控える。求人票を仕上げ、ハローワークでの確認を済ませる | 6月の訪問は印象を悪くする |
| 7月1日〜上旬 | 本番訪問 | 求人票公開直後に訪問。社長または採用責任者が訪問し、求人票を手渡しで説明 | 工業高校には数百社が訪問。10時前か15時以降を狙う |
| 7月中旬〜8月 | 職場見学誘致 | 夏休みに入る前後で、職場見学のお誘いを出す。先生に来てもらえれば信頼度が大きく変わる | 先生は8月上旬の三者面談に向けて情報を集めている |
| 9月以降 | 応募・選考 | 9月5日応募開始・9月16日選考開始。学校訪問より応募者対応に集中 | 不採用通知は丁寧に。来年につながる |
| 11〜3月 | 二次募集とお礼訪問 | 内定者が出た学校にお礼訪問。出なかった学校にも訪問して関係を継続 | 「来年もお願いします」を必ず伝える |
前年度のお礼と「今年も求人を出します」の予告。すでに関係がある学校への顔つなぎ。新規開拓もこの時期から
夏休み前で先生も比較的時間がある
この時期の学校訪問は控える。求人票を仕上げ、ハローワークでの確認を済ませる
6月の訪問は印象を悪くする
求人票公開直後に訪問。社長または採用責任者が訪問し、求人票を手渡しで説明
工業高校には数百社が訪問。10時前か15時以降を狙う
夏休みに入る前後で、職場見学のお誘いを出す。先生に来てもらえれば信頼度が大きく変わる
先生は8月上旬の三者面談に向けて情報を集めている
9月5日応募開始・9月16日選考開始。学校訪問より応募者対応に集中
不採用通知は丁寧に。来年につながる
内定者が出た学校にお礼訪問。出なかった学校にも訪問して関係を継続
「来年もお願いします」を必ず伝える
7月1日の朝、何時に行くか
9時開門と同時に大手企業の担当者が押し寄せます。中小企業が「順番待ちで30分」を経験するのが7月1日の現実です。
対策:10時前後に行く(朝のピークを外す)、または15時以降に行く(午前の対応が落ち着く時間帯)。先生に「ゆっくり話を聞いてもらえる時間」を選ぶことが、求人票の説明の質を決めます。
訪問時の進め方 — 先生は「会社の中身」を見ている
求人票を渡すだけでは何も伝わらない
アポイントの取り方
- •初回は電話で進路指導主事に直接連絡。「7月○日に貴校を訪問したい」と日時を明確に伝える
- •メールでアポを取る場合は、件名に「【訪問アポイント】株式会社○○・採用担当」と明示
- •当日の訪問所要時間は20分以内と告げる。先生は1日10〜20社の対応で疲弊している
- •「資料は事前送付しますので、見ていただいてからの面談で構いません」と一言添える
持参するもの
- 1.求人票(ハローワーク発行のものと自社で作った要約版)
- 2.会社案内(最新版)
- 3.先輩社員(高卒OB/OG)のインタビュー資料 — 顔写真と職場での働く姿が伝わるもの
- 4.職場見学の案内パンフレット(夏休み中の見学日程)
- 5.給与モデル(1年目・3年目・5年目の手取りと月の控除内訳)
- 6.離職率データ(過去3年の高卒入社者の在籍状況を正直に開示)
6番目の離職率を「正直に開示する」ことが、先生からの信頼に直結します。「過去3年で4名採用、現在3名在籍」と数字で見せる。離職した1名がいるならその理由も含めて伝える。隠さない姿勢が、生徒紹介の判断材料になります。
先生から聞かれる質問 ベスト10
福島県の進路指導の先生が中小企業の採用担当者に聞く質問は、ある程度パターンがあります。事前に答えを用意しておくことが、20分の面談の質を決めます。
Q1. 昨年の高卒採用人数と在籍状況は?
→ 「3年前2名→現2名在籍、2年前1名→離職、1年前1名→在籍」のように、正直な数字で答える
Q2. 初任給と3年後・5年後の昇給モデルは?
→ 基本給・諸手当・控除を分けて月単位で。「1年目手取り14.5万円→3年目16.8万円→5年目18.5万円」など
Q3. 残業時間と休日は?
→ 直近の月平均残業時間と年間休日数。「月平均10時間・年間休日118日」など具体的に
Q4. 高卒社員のキャリアパスは?
→ 5年後・10年後にどんなポジションがあるか。「入社5年目で○○のリーダー」など実在社員の事例
Q5. 工場の安全管理体制は?
→ 労災発生件数の過去3年実績、安全教育の頻度、ヘルメット・安全靴等の支給
Q6. 寮や住宅手当は?
→ 通勤圏外からの採用を想定しているか。広い福島県では重要な質問
Q7. 取引先・主要納品先は?
→ 中小製造業なら大手取引先を開示。「カテーテルを世界数十カ国に供給」など最終用途まで説明
Q8. 社長はどんな人?
→ 社長自身が訪問するのが最良。代理なら「次回は社長と一緒に伺います」と約束
Q9. 保護者向けの説明機会は?
→ 県主催の保護者同伴オンライン企業説明会への参加状況、自社主催の見学会の開催予定
Q10. ハラスメント対策は?
→ 相談窓口の設置状況、入社後の面談頻度、過去のトラブル対応
やってはいけないこと
- ×「優秀な生徒さんを紹介してください」と曖昧に依頼する(先生は何をもって優秀と判断すればいいか分からない)
- ×離職率の質問に「あまり辞めません」と曖昧に答える(数字で答えないと信頼されない)
- ×競合他社の悪口を言う(仙台の大手企業を批判する等。先生は「うちの生徒を仙台に行かせている学校」でもある)
- ×20分の枠を超えて居座る(次の企業が待っている)
- ×応募者がいないと連絡を絶やす(来年につながる関係を切る行為)
3年継続戦略 — 1年で結果が出なくても普通
初年度から応募ゼロは想定内。継続が信頼を作る
県内本社の大手と毎年競合する中小企業が、初年度から工業高校の生徒を採用できる確率は決して高くありません。先生は「3年訪問し続けた会社」を信頼します。
年次別アクション
| 年次 | 目標 | アクション |
|---|---|---|
| 1年目 | 顔を覚えてもらう | 7月1日訪問 / 夏の職場見学誘致 / 11月のお礼訪問 / 2月の挨拶 |
| 2年目 | 会社を理解してもらう | 年4回訪問(4月・7月・11月・2月) / OB社員を母校訪問に同行 / 進路指導以外の先生(学年主任・担任)にも会う / 学校行事への協賛検討 |
| 3年目 | 生徒を紹介してもらう | 先生から「今年いい生徒がいる」と声がかかる関係 / 内定者が出たら必ず3ヶ月後・6ヶ月後の状況報告 / 次の世代の先生にも顔をつなぐ |
- •7月1日訪問
- •夏の職場見学誘致
- •11月のお礼訪問
- •2月の挨拶
- •年4回訪問(4月・7月・11月・2月)
- •OB社員を母校訪問に同行
- •進路指導以外の先生(学年主任・担任)にも会う
- •学校行事への協賛検討
- •先生から「今年いい生徒がいる」と声がかかる関係
- •内定者が出たら必ず3ヶ月後・6ヶ月後の状況報告
- •次の世代の先生にも顔をつなぐ
「3年訪問しても応募ゼロ」なら何が間違っているか
- •求人票の給与・休日条件が、他社と比べて明らかに低い
- •会社案内が「自社が何を作っているか」を高校生に伝わる言葉で書けていない
- •職場見学を1度も実施していない(先生は「写真と現実が違うかも」と疑う)
- •過去の高卒社員が早期離職しており、先生が紹介をためらっている
該当する項目があれば、訪問回数より先に求人票・職場・定着の見直しを優先してください。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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採用コスト
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607万円 → 300万円607万円 → 300万円
内定辞退率
ほぼ0%
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採用満足度
81.1%
大卒採用より+3.5pt大卒採用より+3.5pt
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