若者流出とUターン採用
本当の流出は高校卒業時ではなく、大学進学後の段階で起きている
福井県の高卒の89.8%は県内に就職します。全国でも上位の地元定着率です。「福井は若者が流出して採れない」というイメージは、高校卒業のタイミングだけを見れば正しくありません。高校卒業時点では人材は県内に残っているのです。
では、なぜ「若者が減った」と感じるのか。本当の流出は大学進学後・大学卒業時のUターン段階で起きます。県内高校→県外大学→県外就職、または県内高校→県外大学→Uターン断念。ここで人材が県外に抜けていきます。本記事は、この構造を踏まえたうえで「高卒採用での地元定着」と「大学卒業時のUターン採用」の両輪を扱います。
1. 「県内就職率89.8%」の正しい読み方
文部科学省「令和7年3月高等学校卒業者の就職状況」および福井県教育庁の進路実態調査によると、福井県の高卒就職者の89.8%が県内企業に就職しています(令和5年3月卒)。残りの10.2%が県外就職です。
ただしこれは「高卒で就職を選んだ生徒」だけの数字です。高校卒業後、進学を選ぶ生徒のうち相当数が県外大学に進学し、そのうち多くが県外で就職します。福井県の大学進学率は全国平均と同水準ですが、県内大学(福井大学・福井県立大学・仁愛大学等)の収容力は限定的で、進学者の多くが京阪神・首都圏に流出しています。
2段階で考える
- •段階1:高校卒業時――就職組の89.8%は県内に残る。ここで採れる人材は確実に確保する
- •段階2:大学卒業時――県外進学者のUターンが本当の勝負どころ。ここで取り戻す導線を作る
出典: 福井県教育庁「進路実態調査」 / 文部科学省
2. 嶺北と嶺南で流出構造は違う
「福井県の若者流出」と一括りにすると失敗します。嶺北(福井市・坂井・丹南・奥越)と嶺南(敦賀・若狭)では、流出先も理由も対策も別物です。
| 地域 | 主な流出先 | 流出の動機 | Uターン導線で効くもの |
|---|---|---|---|
| 嶺北全般 | 名古屋・東京・大阪 | 進学・「都会に出たい」 | UIターン奨学金返還支援・北陸新幹線アクセス訴求 |
| 丹南(鯖江・越前) | 名古屋・首都圏 | 眼鏡業界キャリアの天井感 | 3年後・5年後のキャリアパス可視化 |
| 奥越(大野・勝山) | 福井市・名古屋 | 職種の選択肢不足 | 移住支援金(世帯100万円)・社宅整備 |
| 敦賀 | 京都・大阪(新幹線で関西) | 原発関連以外の選択肢 | 新幹線敦賀延伸の物流・観光業の成長性 |
| 若狭(小浜) | 京都・大阪(文化的関西圏) | 関西への憧れ・職種不足 | 京阪へのアクセス + 御食国食文化 |
流出先:名古屋・東京・大阪
動機:進学・「都会に出たい」
効く打ち手:UIターン奨学金返還支援・新幹線アクセス訴求
流出先:名古屋・首都圏
動機:眼鏡業界キャリア天井感
効く打ち手:3年後・5年後のキャリアパス可視化
流出先:福井市・名古屋
動機:職種の選択肢不足
効く打ち手:移住支援金(世帯100万円)・社宅整備
流出先:京都・大阪
動機:原発関連以外の選択肢
効く打ち手:新幹線敦賀延伸の物流・観光業の成長
流出先:京都・大阪
動機:関西への憧れ
効く打ち手:京阪アクセス + 御食国食文化
3. 福井県のUターン支援制度――求人票で必ず明示する
福井県には大学卒業後のUターン就職を後押しする公的制度が複数あります。これらを求人票・会社案内・採用ページで明示するだけで、県外大学進学者のUターン志向に直接働きかけられます。
| 支援制度 | 金額・内容 | 対象 |
|---|---|---|
| UIターン奨学金返還支援事業 | 最大100万円(大学院卒150万円) | 県外大卒で県内の製造業・建設業・IT等に正規就職する者 |
| 移住支援金 | 世帯100万円・単身60万円 | 東京23区からの移住者 |
| F-Square交通費補助 | 最大1.5万円×4回 | 県外からの就職活動者 |
| 291JOBS(公式就職ポータル) | 福井県の求人を一元掲載 | 福井県で就職を希望する全員 |
県外大卒で県内製造業・建設業・IT等に正規就職
東京23区からの移住者
県外からの就職活動者
福井県で就職を希望する全員
出典: UIターン奨学金返還支援事業 / 福井県UIターン関連サイト・291JOBS
4. 企業ができる地元定着策5つ
県の制度に乗るだけでは不十分です。企業側で「県内に残る理由」「Uターンする価値」を作らなければ、若者は出ていきます。以下は中小でも今日から動ける5つです。
昇給ロードマップを社内で明文化する
「3年後の月収」「5年後の役割」「10年後の年収レンジ」を社員に提示できる企業は少ない。これを言語化し、求人票・社内説明・1on1に組み込むだけで、若手の県外転職意欲は大きく下がります。
社宅・寮を整備する(特に奥越・嶺南)
奥越・嶺南の中山間地域では住居の選択肢が少ない。「社宅あり:月額1.5万円で新築アパート入居可」が求人票に書ければ、若者の地元定着力が大きく上がります。
OB・OG社員を「同じ高校出身」で見える化する
「あの先輩がいる会社」は地元定着の最強の理由。同じ高校出身の社員一覧を社内報・採用ページに載せる。年1回、高校で出身者社員による職場説明会を開く。
保護者向け説明会を年1回開く
高卒の地元定着は本人だけでなく保護者の影響が大きい。土曜日に保護者向け工場見学会を実施。保護者の「うちの子の会社」感覚を作ることが県外転職を抑制します。
大学進学者にも「Uターン名簿」を残しておく
高校時代に職場体験に来た子・インターン参加者の連絡先を、進学先に出てからも維持する。3年・4年経って「就職どうしよう」となったときに最初に思い出してもらえる関係を残す。
5. よくある質問
Q. 「県内就職率89.8%」と聞くと「人材は県内にいる」と感じますが、実際は採れません。なぜですか?
A. 89.8%は「高卒で就職を選んだ生徒」の中の県内率です。高校卒業者全体で見ると、進学組が県外大学に出てそのまま県外就職するケースが多く、20代前半の人口純流出があります。さらに、県内に残った高卒層も、本社級の上場大手(セーレン・熊谷組・日華化学)に集中するため、中小はその下の層を取り合う構造です。
Q. UIターン奨学金返還支援は応募者にどう伝えればいいですか?
A. 求人票・会社案内・採用ページに「県のUIターン奨学金返還支援(最大100万円)併用可」と1行明記してください。「東京で手取り22万円より、福井で手取り19万円+奨学金返還100万円のほうが可処分所得が多い」という計算ができる人ほどUターンを選びます。県の制度を活用できるかどうかの個別判断は県UIターンチームに確認できます。
Q. 高卒採用と大卒Uターン採用、どちらに力を入れるべきですか?
A. 事業段階によります。事務職・営業職の補充なら大卒Uターンが現実的(給与レンジに合う)。製造現場・建設現場・小売の補充なら高卒採用が圧倒的に現実的(給与レンジ・地元定着率の両面で)。両方の導線を並行で持つのが理想ですが、片方しか動けないなら自社の主力職種に合わせて選んでください。
Q. 嶺南(敦賀・若狭)から関西への流出をどう食い止めますか?
A. 「京阪関西の文化的近さ」を打ち消すのは不可能です。むしろ「京阪へ近い暮らし」を活かすほうが現実的です。「平日は地元、休日は京都・大阪」を肯定する求人票・社風にする。新幹線敦賀延伸で東京方面のアクセスも改善したことを併せて伝える。否定ではなく取り込みです。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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