福井県の高卒早期離職防止ガイド
「思ったのと違った」を入社前後の仕組みで防ぐ
福井県の企業がせっかく採用した高卒人材を半年・1年で失う原因はほとんどの場合、入社前のイメージと入社後の現実のギャップにあります。本記事は、福井県の主力産業である製造業(就職者の46.4%)、鯖江の眼鏡業界、嶺南の原発協力会社に共通する離職リスクと、入社前後で打てる具体策をまとめたものです。
1. 高卒就職者の3年以内離職率――現状を正しく把握する
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和4年3月卒)によると、高卒就職者の3年以内離職率は全国平均で37.9%です。3人に1人以上が3年以内に辞めている計算です。
福井県単独の3年以内離職率は厚生労働省から公表されていません。福井県は製造業比率が高く(高卒就職者の46.4%)、製造業の3年以内離職率は全業種の中では比較的低い水準(後述の業種別データ参照)です。ただし、これをもって「福井県は全国平均より低い」と断言はできません。県単独データが公表されていない以上、全国平均37.9%と同等以上に注意して定着策を打つのが現実的な前提です。
経年離職率(時期別)
| 時期 | 累積離職率(全国) | この時期の主な離職理由 |
|---|---|---|
| 入社1年以内 | 15.1% | 職場のミスマッチ(5月病・3ヶ月目)・人間関係 |
| 入社2年以内 | 26.8% | 業務内容・労働条件(残業・休日・賃金)への不満 |
| 入社3年以内 | 37.9% | キャリアの停滞感・将来不安 |
職場のミスマッチ・人間関係
業務内容・労働条件への不満
キャリアの停滞感・将来不安
出典: 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」令和4年3月卒
2. 業種別の3年以内離職率――福井県の産業構造から読み解く
業種によって離職率は大きく異なります。福井県の高卒就職者の業種別構成(製造業46.4%・建設業10.1%・卸売小売8.6%・公務7.9%・医療福祉5.8%)に照らして、自社の業種の離職傾向を把握しましょう。
| 業種 | 3年以内離職率(全国) | 福井での該当例 |
|---|---|---|
| 宿泊・飲食サービス | 64.7% | あわら温泉・敦賀観光関連 |
| 生活関連サービス | 61.5% | 理美容・冠婚葬祭 |
| 教育・学習支援 | 53.6% | 塾・学童保育 |
| 医療・福祉 | 49.2% | 介護・福祉施設 |
| 小売業 | 48.3% | 県内スーパー・量販店 |
| 建設業 | 42.7% | 熊谷組系・地元建設会社 |
| 製造業 | 28.2% | セーレン・日華化学・鯖江眼鏡・敦賀協力会社 |
あわら温泉・敦賀観光関連
理美容・冠婚葬祭
塾・学童保育
介護・福祉施設
県内スーパー・量販店
熊谷組系・地元建設会社
セーレン・日華化学・鯖江眼鏡・敦賀協力会社
出典: 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」令和4年3月卒データ(全国・業種別)
読み方のポイント
製造業の離職率28.2%は全業種で最も低い水準です。ただし「製造業だから安心」ではありません。製造業の中でも、鯖江眼鏡のような精密加工と、原発協力会社の現場作業、自動車部品の3交代制ラインでは離職要因が全く違います。自社の業務実態に即した手当が必要です。
3. 福井県固有の離職要因――産業別の落とし穴
A. 製造業の3交代制ギャップ
福井県の高卒就職者の46.4%が製造業に進みます。製造業の中で離職リスクが特に高いのが、24時間稼働ラインの3交代制工場です。高校生活は朝7時起床・夜10時就寝のリズム。これが入社後すぐに深夜0時~朝8時のローテーションに切り替わります。
- •入社後1ヶ月のGW明けに「夜勤がきつい」「日中の睡眠が取れない」と訴えるケースが集中
- •体調を崩しやすい時期は5~7月。地元高校の同級生がSNSで「楽しそう」な写真をあげる時期と重なる
- •保護者から「うちの子、こんなはずじゃなかった」と電話が入る
B. 鯖江眼鏡業界の「世界ブランド vs 部品下請け」ギャップ
鯖江メガネは国内シェア90%超の世界三大眼鏡産地です。学校での企業紹介では「世界に通用するブランド」「精密加工技術」と説明されます。しかし入社後の現実は、フレーム1点の研磨や穴あけ・組み立てを繰り返す作業です。「世界ブランド」の宣伝と「単純作業」の現場のギャップが、6ヶ月~1年の離職要因になります。
- •「やりがい」を抽象的に語らず、1年目/3年目/5年目で任される範囲を明示する
- •職場見学で1年目社員の実作業を見せる(ベテランの匠技ではなく)
C. 原発協力会社の「定期検査波動」ギャップ
敦賀・若狭の原発協力会社では、原発の定期検査(停止・点検・再起動)に合わせて業務量が大きく波打ちます。定期検査期は連日深夜まで作業、その後は閑散期が来る、というリズムです。これを入社前に説明しないと「聞いていた話と違う」になります。
- •定期検査の年間スケジュールをカレンダー形式で求人票・会社案内に明示
- •放射線業務従事者の登録・教育(特別教育8時間)の意義と受講タイミングを事前説明
4. 定着率を上げる5つの仕組み――入社前から1年目まで
RJP(現実的職務予告)――入社前にギャップを潰す
いいことだけ伝える求人票・会社説明をやめる。「3交代制で慣れるまで3ヶ月かかる」「定期検査期は深夜まで作業」「眼鏡の組み立ては1人で20種類のパーツを覚える」と、ネガティブな現実も先に伝える。これをやらない企業から人が辞めていく。
メンター制度――入社1年目に必ず1人の先輩を割り当てる
入社2~3年目の先輩を専属メンターに。直属の上司ではない人を1人つける。「上司に言えない悩み」を聞く相手を作る。週1回30分の1on1から始める。福井県の中小では、社員数が少なくて「年齢が近い先輩がいない」場合がある。その場合は社長・工場長が月1回必ず話を聞く時間を確保する。
入社1ヶ月/3ヶ月/6ヶ月/1年の重点フォロー
1ヶ月:GW明けの5月病ピーク。保護者にも「困っていたら連絡を」と伝える。3ヶ月:試用期間終了。給与・配属の見直しを本人と話す。6ヶ月:同期との比較・SNS焦り。「同級生はどんな仕事?」を聞いてあげる。1年:1年目の振り返り。何ができるようになったか可視化する。
資格取得支援――1年目に1つ資格を取らせる
高校卒業時点では資格を持たない子が多い。1年目に必ず1つ資格を取らせる仕組みを作る。フォークリフト、玉掛け、危険物乙4、放射線取扱主任者など、業種に合った国家資格や技能講習。「自分は成長している」実感が定着の最大要因。
保護者との定期接点――内定後・入社後の手紙・電話
内定時に保護者宛の手紙を送る。入社後3ヶ月で「お子さんの仕事ぶり」を保護者に伝える。福井県は地元定着率89.8%。保護者の安心は子の安心。保護者から「もう辞めなさい」が出ると即離職につながる。
5. 入社1年目の時期別チェックリスト
| 時期 | この時期に起きる典型的なこと | 企業側の手当 |
|---|---|---|
| 4月(入社直後) | 挨拶・職場ツアー・先輩との顔合わせ | メンター指名・初日に「困ったら誰に言うか」明示 |
| 5月(GW明け) | 3交代制疲労ピーク・五月病・無断欠勤の最初の兆候 | 体調確認・GW明け1on1必須・保護者にも声かけ |
| 6~7月(試用期間後半) | 配属業務の単調さに気づく・SNSで同級生比較 | 3年後・5年後のキャリアパスを言語化して見せる |
| 9月(試用期間終了) | 給与・配属の確定。本採用が決まる時期 | 給与改定の理由・今後の昇給ロードマップを面談で説明 |
| 10~12月(半年経過) | 同級生の進学生が「楽しそう」に見える時期 | 資格取得の機会を必ず1つ提供。「自分は伸びている」体感を作る |
| 1~3月(1年目終盤) | 後輩配属を意識し始める・1年目の振り返り | 「1年で何ができるようになったか」を可視化。新人受け入れの先輩役を任せる |
この時期に起きる:挨拶・職場ツアー・先輩との顔合わせ
企業側の手当:メンター指名・初日に「困ったら誰に」明示
この時期に起きる:3交代制疲労ピーク・五月病
企業側の手当:体調確認・1on1必須・保護者にも声かけ
この時期に起きる:配属業務の単調さに気づく・SNS比較
企業側の手当:3年後・5年後のキャリアパスを見せる
この時期に起きる:給与・配属の確定
企業側の手当:給与改定・昇給ロードマップを面談で説明
この時期に起きる:進学した同級生が「楽しそう」に見える
企業側の手当:資格取得を1つ。「伸びている」体感を作る
この時期に起きる:後輩配属を意識・1年目振り返り
企業側の手当:できるようになったことを可視化・先輩役へ
6. 定着支援に使える福井県の制度
「人への投資」支援事業補助金(福井県)
従業員への短期教育訓練の講師謝金・受講料等を補助。補助率1/2(賃上げ要件時2/3)、上限10万円(同15万円)。1年目社員の資格取得・スキル研修にも使えます。詳細
ふくいジョブステーション
福井県人材確保支援センター。新入社員の定着支援・若手社員のキャリア相談・企業の人事相談に対応。福井本店(福井商工会議所ビル1F)+敦賀・小浜にミニステーション。詳細
7. よくある質問
Q. 高卒就職者の3年以内離職率はどれくらいですか?
A. 厚生労働省の発表(令和4年3月卒)によると全国平均で37.9%です。福井県単独データは厚労省から公表されていません。県単独データがない以上、全国平均と同等以上に注意して定着策を打つのが現実的です。
Q. 福井県で離職率が高い業種はどこですか?
A. 全国データでは宿泊・飲食サービス業が64.7%、生活関連61.5%、教育53.6%、医療・福祉49.2%、小売48.3%の順です。福井県のあわら温泉・敦賀観光の旅館・飲食、介護福祉施設では、入社1年目のフォローを特に手厚くする必要があります。
Q. 入社1年目で最も離職リスクが高い時期はいつですか?
A. GW明けの5月(3交代制疲労・五月病)、6~7月(業務の単調さ気づき)、9月(試用期間終了)の3つの山があります。この3つの時期に必ず1on1を実施し、保護者にも声をかけるのが効果的です。
Q. 中小企業で社員数が少なく、メンター制度を組めません
A. 社員数が少ない場合は、年齢の近い先輩がいないことが多いです。その場合は社長・工場長が月1回必ず1on1の時間を取ること。福井県の中小では、社長との距離の近さ自体が大手にない強みです。
Q. 製造業の3交代制で人を辞めさせない方法は?
A. まず入社前に「夜勤の体験」を職場見学に組み込む。その上で入社後1ヶ月のGW明けに必ず体調確認の1on1を行う。さらに3ヶ月間は休日に同期同士で集まる機会を会社側でつくる。「眠れない」「家族と時間が合わない」を放置しないことです。
Written & Edited by
漆畑 智哉
株式会社ゆめスタ CCO / 教育コーディネーター
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