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お金は「収入」だけじゃない — 5つの軸で経済価値をとらえ直す

家計の話になると、つい「いくら稼ぐか」に意識が向きます。けれどお金は、入ってくる量だけで決まるものではありません。出ていく量、備えるべきリスク、増やしていける場所、戻ってくる仕組み。複数の軸が絡み合って、最終的な家計の姿になります。この記事では、お金にまつわる5つの軸を、公的統計と国の制度に沿って整理していきます。

ゆめスタ編集部
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1. 軸1 — 収入: 出発点としての平均給与

最初の軸は、もっとも目に入りやすい「収入」です。国税庁「民間給与実態統計調査」(令和5年分・2024年9月公表)によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は460万円。男性は569万円、女性は316万円です。

雇用形態別に見ると、正社員530万円、正社員以外202万円。同じ「給与所得者」のなかで、両者の差は約328万円、倍率にしておよそ2.6倍にひらいています。

この460万円は額面です。財務省の公表によれば、令和7年度の国民負担率は46.2%(潜在的国民負担率48.8%)。租税と社会保障の負担を合わせると、国民所得のおよそ半分が公的負担に充てられる構造です。「収入」の数字はそのまま手取りにはならず、半分前後は税と社会保障に変換されてから、生活に回ります。

収入を増やす努力は、たしかに家計改善の王道です。ただし、増やした分の半分は構造的に圧縮されることも、出発点として確認しておく必要があります。

出典: 国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査結果」・財務省「国民負担率」

2. 軸2 — 支出減: 家計のキャッシュフローを設計し直す

総務省「家計調査年報(家計収支編)2024年」によれば、二人以上の世帯の1か月当たり消費支出は平均300,243円。年額にしておよそ360万円です。物価変動の影響を除いた実質では1.1%の減少で、2年連続の実質減少という流れにあります。

家計の支出のなかで大型のものは、住居・教育・保険です。

住居: 国土交通省「令和6年度 住宅市場動向調査」では、注文住宅の取得資金の平均が6,188万円(中央値5,030万円)、分譲マンションが平均4,679万円になっています。住宅は人生で最も大きな買い物のひとつであり、ローンの組み方一つで生涯支出は数百万円単位で変わります。

教育: 文部科学省「令和3年度 子供の学習費調査」(令和5年度版は2024年12月25日に公表済)によると、年間学習費総額の平均は次のようになります。

学校種別公立私立
小学校約35.3万円約166.7万円
中学校約53.9万円約143.6万円
高等学校(全日制)約51.3万円約105.4万円

子ども1人を幼稚園から高校まで公立で通わせた場合と、小中高すべて私立で通わせた場合では、累計の教育費に1,000万円以上の差が出ます。これは家計の支出構造を大きく規定する要素です。

「収入を増やす」より「支出を制御する」ほうが、相対的には確実性が高い場面もあります。住居費・教育費・固定費の見直しは、増やす努力と並行して取り組める軸です。

出典: 総務省統計局「家計調査年報 2024年」・国土交通省「令和6年度 住宅市場動向調査」・文部科学省「子供の学習費調査」

3. 軸3 — 保障増: 公的保障と自助保障を二段構えで設計する

3つめの軸は「保障」です。日本の社会保障制度は、医療・年金・介護・労災などを公的にカバーしますが、すべてをまかなえるわけではありません。「足りない部分」を自分で埋める発想が、自助保障です。

公的年金の標準的な姿を見てみます。日本年金機構の公表(令和6年4月分から)によると、

  • 老齢基礎年金 満額(40年加入): 月額67,808円
  • 厚生年金 標準モデル(夫:標準報酬月額439,000円・40年加入): 老齢厚生年金 月額 約96,060円
  • 標準モデル夫婦合計: 月額 約231,676円 (年額 約278万円)

平均像としては、厚生年金の平均年金月額が147,360円、国民年金のみの平均が57,700円(厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。

公的保障で足りない部分は、金融庁の試算で見えやすくなります。金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日)では、夫65歳以上・妻60歳以上の高齢夫婦無職世帯で月約5万円の赤字が試算され、残存余命20-30年で1,300〜2,000万円の不足になるとされています。

公的保障を「もらえる金額」、自助保障を「足りない部分への備え」として二段構えで設計すると、家計の保障軸はより立体的になります。

出典: 日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」・厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」・金融庁「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日)

4. 軸4 — 資産増: 制度を活用して「働かずに増やす」

4つめは「資産」の軸です。働いて稼ぐ以外に、制度を使って資産を増やす道筋が、現在の日本にはふたつ大きな枠で用意されています。

NISA(少額投資非課税制度): 国税庁の「No.1535 NISA制度」では、非課税口座で取得した上場株式等にかかる配当・譲渡益が非課税になることが説明されています。2024年から始まった新NISAでは、年間投資枠が360万円(つみたて投資枠120万円 + 成長投資枠240万円)、生涯非課税限度額が1,800万円まで拡大されました。

iDeCo(個人型確定拠出年金): 国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、iDeCoの加入者掛金が「小規模企業共済等掛金控除」として全額所得控除できることが案内されています。さらに運用益は非課税、受取時にも公的年金等控除や退職所得控除が使えるという、3段階の税優遇があります。

NISAは投資で出た利益への課税(通常20.315%)が0%になる仕組み、iDeCoは拠出時から所得税・住民税が軽減される仕組み。働いて稼ぐ以外に、制度を活用して家計の総額を増やす経路が、ここに用意されています。

出典: 国税庁「No.1535 NISA制度」・国税庁「確定申告書等作成コーナー: iDeCoの掛金を支払った場合」

5. 軸5 — 税控除: 知っているかどうかで手取りが変わる

5つめは「税控除」の軸です。同じ収入の人でも、利用できる控除を申告するかどうかで、最終的な手取り額に差が出ます。

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除): 国税庁の「No.1211-1」によれば、令和4年1月1日から令和7年12月31日までの間に住宅を新築・取得・増改築して自分の居住用に供した場合、一定の要件のもとで、住宅ローンの年末残高をベースに計算した金額を所得税から控除できます。控除期間は条件により最大13年。長期にわたって所得税の負担を軽減できる制度です。

iDeCoの所得控除: 軸4でも触れたとおり、iDeCoの掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象になります。年収・拠出額・自治体によって金額は変わりますが、所得税と住民税の両方で軽減効果が出ます。

NISAの非課税効果: 通常の特定口座・一般口座で投資した場合、譲渡益や配当には20.315%の税金がかかります。NISA口座で取得したものについては、この課税が0%になります。

税控除は「知っているかどうか」で結果が変わる軸です。国民負担率46.2%の世界では、制度を使って戻ってくる金額は決して小さくありません。控除を確実に申告することは、収入を増やすのと同じくらい家計に効きます。

出典: 国税庁「No.1211-1 住宅ローン控除」・国税庁「No.1535 NISA制度」・国税庁「iDeCoの掛金を支払った場合」

6. 補論 — もうひとつの軸: 収入源を分散する

ここまで、収入・支出減・保障増・資産増・税控除という5つの軸を見てきました。もうひとつ、5つの軸の外側に置けるかもしれない軸として、「収入源の分散」という考え方があります。

中小企業庁・公正取引委員会・厚生労働省・内閣官房が共同実施した「令和4年度フリーランス実態調査」、および「フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査」(令和5年度・1,200名)では、業務委託で技能を提供して収入を得ている人々の規模と実態が把握されています。内閣府「政策課題分析シリーズ17 日本のフリーランスについて」(2019年7月)では、副業を含むフリーランスの人数は306〜341万人と推計されました。

副業・業務委託・兼業は、本業の給与に加えてもうひとつの収入の入り口を持つ選択肢です。1本の収入源が止まったときのリスク分散になり、一方で本業以外の場所で得たスキルや関係が、生涯の選択肢を広げる側面も持ちます。

ただし、収入源を分散すれば自動的に総額が増えるわけではありません。本業との時間配分、税務申告(確定申告)の手間、社会保険料の取り扱いなど、設計上の論点も生まれます。「分散すること」自体ではなく、自分の家計と暮らしのなかで何を分散させるのかを設計するところに意味があります。

出典: 中小企業庁ほか「令和4年度フリーランス実態調査結果」・厚生労働省・公正取引委員会「フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査」(令和5年度)・内閣府「政策課題分析シリーズ17 日本のフリーランスについて」(2019年7月)

7. 5つの軸を、自分の家計に当てはめてみる

5つの軸は、すべての家計に同じ重みでかかるわけではありません。

  • まだ若くて貯蓄が少ない時期は、軸4(資産増)の制度活用が長期的に効きやすい
  • 子どもの教育費が重なる時期は、軸2(支出減)の見直しが家計を直接ラクにする
  • 住宅取得を検討している時期は、軸5(税控除)の住宅ローン控除を踏まえた資金計画が変数になる
  • 老後が近づいてきたら、軸3(保障増)の公的年金 + 自助の組み合わせを再点検する

公的統計の数字は、あくまで「平均像」です。460万円という平均給与も、月30万円の家計支出も、1,300〜2,000万円の老後不足も、すべて誰か一人ぴったりの家計を表しているわけではありません。「自分の場合はどうか」を、これらの数字を出発点にして書き出してみる ── それが、「お金は収入だけじゃない」という言葉を、自分の家計に翻訳する作業になります。

このカテゴリでは、関連する数字を別の角度からも整理しています。会社員として働き続けた場合の生涯収支、独立した人々が公的統計のなかで描いている平均像については、ぜひあわせてご覧ください。

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