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会社員のままだと、生涯収入はどうなる?
「いまの働き方を続けたら、自分はいくら稼ぐのだろう」。そう考えたことはないでしょうか。会社員として働き続けることは、安定の代名詞のように語られてきました。けれど、その「安定」を金額で見たことのある人は、意外と少ないのかもしれません。この記事では、給与・国民負担率・退職金・公的年金・老後の不足額を、すべて公的統計の数字でたどっていきます。

1. 会社員の現役収入 — 平均給与は460万円
まずは出発点となる数字から見ていきます。国税庁「民間給与実態統計調査」(令和5年分・2024年9月公表)によると、1年を通じて勤務した給与所得者は5,076万人。その平均給与は460万円でした。前年より0.4%、金額にして約1.9万円の増加です。
平均はあくまで全体を均した数字です。内訳を見ると、男性の平均は569万円、女性は316万円。雇用形態で見ると、正社員は530万円、正社員以外は202万円。同じ「給与所得者」という言葉でも、立ち位置によって受け取る金額は大きく違います。正社員と正社員以外の差は約328万円、倍率にして約2.6倍です。
460万円という数字は、額面の話です。実際に手元に残る金額は、ここから税金と社会保険料が差し引かれた後のものになります。「いくら稼いでいるか」と「いくら使えるか」のあいだには、もうひとつの数字が挟まっています。
出典: 国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査結果」(nta.go.jp)
2. 「変わらないこと」のコスト — 国民負担率は46.2%
その「もうひとつの数字」が、国民負担率です。財務省は、租税負担と社会保障負担を合算した負担を「国民負担率」と呼び、毎年その推移を公表しています。
財務省の公表によれば、令和6年度の国民負担率は45.1%(実績見込み)。令和7年度の見通しは46.2%です。さらに、これに財政赤字を加えた「潜在的国民負担率」は令和6年度で50.9%、令和7年度で48.8%になります。
これが意味するところは、簡潔に言えば「国民所得のおよそ半分が、税と社会保障に充てられている」ということです。給与460万円の人がそのまま460万円を使えるわけではありません。額面に対しておおよそ半分が国家全体としての負担に変換され、残った部分から個人の生活費や貯蓄が差し引かれていきます。
「変わらないこと」は、ゼロコストの選択ではありません。制度が今のかたちで続くかぎり、手取りは構造的に圧迫され続けます。会社員として働き続けることの「定期的な目減り」は、自分の意志ではなく、制度設計のなかで起きていることです。
出典: 財務省「国民負担率」(mof.go.jp)
3. 退職時に手にするもの — 退職金は会社員のフィナーレ
会社員生活の終わりに受け取る退職金は、長年のキャリアの蓄積でもあり、老後生活の起点でもあります。厚生労働省「就労条件総合調査」(令和3年実施分)によると、定年退職の場合の平均退職給付額は、大学卒(管理・事務・技術職)で1,896万円、月数換算で36.0月分になります。
退職給付の制度は3種類に分かれています。退職一時金のみ、退職年金のみ、両方を併用する形式です。学歴別・制度別の平均支給額を見ると、次のようになります。
| 学歴 | 退職一時金のみ | 退職年金のみ | 併用 |
|---|---|---|---|
| 大学卒 | 1,623万円 | 1,801万円 | 2,261万円 |
| 高校卒 | 1,378万円 | 1,613万円 | 2,145万円 |
ここで見落としがちなのが、そもそも「退職給付制度のある企業」で働いていることが前提だという点です。退職給付制度のある企業の割合は、近年7-8割で推移し、緩やかな減少傾向にあります。制度のない企業に勤続した場合、定年時に受け取る退職金は0円になります。
長年の会社員生活の最後に手にする金額は、勤続先の制度設計と、自分が選んだ受け取り方によって、数百万円単位で変わります。
出典: 厚生労働省「令和3年就労条件総合調査 結果の概況」(mhlw.go.jp)
4. 公的年金の受給額 — 標準モデル夫婦は月23万円
退職後の収入の核は、公的年金です。日本年金機構の公表(令和6年4月分から)によると、老齢基礎年金の満額(40年加入)は月額67,808円。年額にして約81.4万円です。
厚生労働省が示す標準モデルは、夫が標準報酬月額439,000円で40年厚生年金に加入し、妻が専業主婦として40年国民年金に加入したケースです。このモデルでの公的年金は、次のようになります。
- 夫の老齢厚生年金: 月額 約96,060円
- 夫の老齢基礎年金: 月額 67,808円
- 妻の老齢基礎年金: 月額 67,808円
- 夫婦合計: 月額 約231,676円 (年額 約278万円)
平均像はもう少し低く出ます。厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、厚生年金(第1号)の平均年金月額は147,360円、国民年金のみの平均年金月額は57,700円(男59,965円・女55,777円)です。標準モデルは「40年フルに会社員として加入した夫婦」を前提にしているため、現実の平均はこれを下回ります。
加えて、公的年金は将来にわたって今と同じ水準が保たれる前提ではありません。厚生労働省年金局「令和6(2024)年 財政検証結果」(2024年7月3日)では、複数の経済シナリオごとに将来見通しが示されており、マクロ経済スライド調整が継続するなかで所得代替率は将来低下していく見通しになっています。
出典: 日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」(nenkin.go.jp)・厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」・厚生労働省年金局「令和6(2024)年 財政検証結果」
5. 老後資金 — 年金だけでは1,300〜2,000万円足りない
「年金だけでは足りない」という言葉は、いまや日常的に耳にします。その金額の根拠が、金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日)です。
この報告書では、夫65歳以上・妻60歳以上の高齢夫婦無職世帯において、月次の収支に約5万円の赤字が生じているという当時の家計調査結果が示されています。残存余命を20-30年と仮定すると、
- 20年で約1,300万円の不足
- 30年で約2,000万円の不足
になる、という単純計算が示されました。これがいわゆる「老後2,000万円問題」と呼ばれた数字です。
ここで先ほどの退職金と組み合わせてみます。大卒・退職一時金と年金の併用で受け取る平均額は2,261万円。これは老後30年分の不足額(約2,000万円)とほぼ同等です。「平均的な大卒で、退職給付制度の整った企業に40年勤続した人」であれば、退職金で老後の不足分をカバーできる計算にはなります。
逆に言えば、退職給付制度のない企業に勤めた場合、あるいは平均値より低い退職金しか受け取れなかった場合、老後の生活費の不足分はそのまま自分で備える必要があります。
出典: 金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日)(fsa.go.jp)
6. 生涯収支のシミュレーション — 大卒男性で約2.8億円
ここまでの数字をひとつにまとめると、会社員として働き続けた場合の「総額」が見えてきます。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が公表している「ユースフル労働統計2024」第21章「生涯賃金など生涯に関する指標」では、新規学卒就職から60歳定年までフルタイム正社員として同一企業に勤続した場合の生涯賃金(退職金除く)が、性別・学歴別に推計されています。概数で見ると、
- 大卒男性: 約 2.6 億円
- 高卒男性: 約 2.1 億円
- 大卒女性: 約 2.1 億円
- 高卒女性: 約 1.5 億円
大卒男性と高卒男性の差はおよそ5,000万円。会社員人生のスタート地点で、すでにこれだけの差が「平均像」のなかに織り込まれています。
これに退職金を加えてみます。大卒男性で退職給付制度の併用型(平均2,261万円)を受け取れた場合、生涯賃金 + 退職金は約2.8億円超になります。
ただしこれは額面です。国民負担率(令和7年度46.2%)で機械的に圧縮すると、実質的な手取りベースの生涯収入はおよそ1.4億円前後まで下がります。同じ「2.8億円稼いだ会社員」でも、自由に使えるお金は半分強です。
そこに、65歳以降の公的年金が乗ります。標準モデル夫婦の月額23.2万円を65歳から85歳までの20年間で受け取ると、累計は約5,568万円。ここから老後の生活費(月平均30万円)を差し引いていくと、退職金や貯蓄から取り崩す必要が出てきます。
「会社員として40年働き、平均的な退職金を受け取り、標準的な公的年金を受給する」というシナリオは、平均値のうえでは老後を一応カバーできる設計になっています。けれど、その「平均」に届かないケースは少なくありません。退職金制度のない企業、平均より低い給与水準、夫婦のどちらかが厚生年金に加入していないケース ── そのいずれかに該当した時点で、シミュレーションの帳尻は合わなくなります。
出典: 労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2024」第21章 生涯賃金(jil.go.jp)
7. 「変わらないこと」のコストを、自分の数字で見直す
ここまで見てきた数字は、すべて「平均像」です。
- 給与460万円
- 国民負担率46.2%
- 退職金1,896万円(大卒・併用平均2,261万円)
- 公的年金 標準モデル夫婦 月23.2万円
- 老後不足 1,300〜2,000万円
- 生涯賃金 大卒男性 約2.6億円(退職金込みで約2.8億円・手取りベース約1.4億円)
これらは「会社員として40年働き続けた場合に、平均的にはこうなる」という構造像です。煽るための数字ではありません。けれど、「変わらないこと」も静かにコストを発生させているという事実を、定量的に確認するための材料にはなります。
ここで、別の選択肢の存在にも触れておきます。中小企業庁・公正取引委員会・厚生労働省・内閣官房が共同実施した「令和4年度フリーランス実態調査」では、フリーランスとして働く人々の収入実態や課題が調査されています。会社員と業務委託・フリーランスでは、収入の構造そのものが違います。同じ年齢・経験でも、稼ぎ方を変えると、生涯トータルの数字も変わってきます。
それぞれの選択肢が「どちらが優れているか」を断じる記事ではありません。ただ、いまの自分の延長線上にある数字を一度直視したうえで、「このままでよいのか」「別の道もあるのか」を考える材料を、ご自身の手元に置いていただければと思います。関連する数字は、同じ「お金と暮らし」カテゴリの他の記事でも整理しています。
出典: 中小企業庁ほか「令和4年度フリーランス実態調査結果」(chusho.meti.go.jp)
