実践と知恵

「動いた人」と「動けなかった人」を分けたもの

ゆめスタ編集部
「動いた人」と「動けなかった人」を分けたもの

「動こうと思っているのに、動けない」。そう感じた経験のある方は少なくありません。同じように悩んでいた人たちのうち、行動に移せた方とそうでなかった方。両者を分けたものは、性格や能力の差ではなく、構造的な 4 つの差異でした。

中小企業庁「2024 年版中小企業白書」によると、起業者数は 2012 年の約 514 万人から 2022 年の約 466 万人へと減少しています。一方で、女性の起業者数は約 12 万人増加しています[1]。総務省統計局「令和 4 年就業構造基本調査」では、副業希望者 493 万人のうち、実施者は 305 万人。差し引き 188 万人が「希望はあるが未実施」の層です[2]

本記事では、心理学・行動経済学の研究と公的統計をもとに、「動いた人」と「動けなかった人」を分けた 4 つの構造的差異を整理します。読者自身が、自分がどちら寄りかを自己診断できるチェックリストも含めて構成しました。

1. なぜ「動けない」状態が多数派なのか — 心理学的構造

先延ばし(procrastination)に関する研究では、大学生を対象とした調査で 80〜95 % が先延ばし行動を経験しているという結果が報告されています[3]。先延ばしは特殊な性格特性ではなく、人間に広く共通する行動パターンです。

先延ばしを説明する代表的な理論として、次のようなものがあります。

  • インテンション・アクション・ギャップ:意図と行動の間に生じる構造的な隔たり。「やるべきだとわかっている」と「実際にやる」の間には、橋渡しの仕掛けが必要
  • 現在志向バイアス:将来の利益よりも目先の選好を過大評価する傾向。「今のままが楽」という感覚が、長期的合理性を覆す
  • 感情回避:不快な感情(不安・恥・自己否定)を避けるために、行動そのものを先送りする
  • 自己効力感の不足:「自分にはできない」という感覚が、行動の出発点を奪う

「動けない」状態は、性格の問題ではなく、これらの心理メカニズムが組み合わさって生じる構造的な反応です。逆に言えば、構造に対しては構造で対処できます。

2. 動いた人と動けなかった人を分けた 4 つの軸

研究と公的統計から見えてくるのは、両者を分けた 4 つの構造的な差異です。各軸は独立しているのではなく、組み合わさって作用します。

軸 1. 自己効力感の有無

心理学では、「自分にはできる」という感覚——自己効力感——が行動の引き金になることが、繰り返し示されてきました。動いた人は「失敗しても回復できる」という感覚を持っており、動けなかった人は「失敗したら終わり」という思考に縛られています。副業実施者 305 万人は、すでに行動して回復経路を確認した層です。

軸 2. 撤退条件の事前設定

動いた人は、「6 ヶ月赤字なら撤退」「月の所得が一定額を下回ったら本業に集中」のような、具体的な数値で撤退条件を事前に設定しています。動けなかった人は失敗の定義そのものが曖昧で、リスクの総量を実態以上に大きく見積もります。事前のコミットメントは、後の意思決定の感情的な負荷を下げる仕掛けです。

軸 3. 第三者との共有

動いた人は、配偶者・信頼できる先輩・メンターなど、計画を共有する第三者を持っています。共有することで、意図と行動のギャップが第三者の視線によって縮まります。動けなかった人は一人で考え続け、頭の中で計画と不安が循環するうちに、ギャップだけが拡大していきます。家族との対話を整える具体的な方法は、別記事「家族にどう切り出すか」で取り上げています。

軸 4. 最小実行可能単位の設計

動いた人は、最初の一歩を月単位の小さな実行に分解しています。「月 5 万円」「1 名のクライアント」「週末の 2 時間」など、具体的で達成可能な単位です。動けなかった人は完璧な計画を待ち続け、結果として何も始まりません。最初の一歩を小さくするほど、現在志向バイアスと感情回避を回避しやすくなります。

3. 「動いた失敗」と「動かなかった失敗」の構造的差異

「動いた」結果として失敗することと、「動かなかった」結果として機会を逃すことは、同じ「失敗」という言葉でも構造が違います。

区別動いた失敗動かなかった失敗
学習経験から修正可能経験そのものが発生しない
可視性失敗が見える(修正対象になる)機会損失は数えにくい
時間軸の影響早く失敗するほど軌道修正の余地が大きい時間が経つほど機会が失われる

中小企業庁「2024 年版中小企業白書」によれば、起業者数は 10 年で約 48 万人減少しました。男性は約 60 万人減、女性は約 12 万人増。開業率は 2021 年度以降低下傾向で、足下では 3.9 % です[1]。これらの数字には、「動かなかった失敗」がどれだけ蓄積しているかを直接示すデータは含まれませんが、起業に至らなかった層が一定規模で存在することが推測される構造になっています。

動いた失敗は次の意思決定の材料になります。動かなかった失敗は、本人の中にも社会のデータにも残りません。それゆえに、動いた失敗より見えにくく、扱いにくいリスクとして残ります。

4. 4 軸を自己診断する

以下のチェックリストで、自分が 4 軸のうちどれを満たしているかを確認できます。すべて満たしている必要はありません。満たしていない軸を 1 つずつ整えていくことが、行動への構造的な準備になります。

軸 1. 自己効力感

この 1 年以内に、未経験のことを 1 つでも始めて、続けた経験があるか

軸 2. 撤退条件

副業や独立を考える際に、撤退の数値条件(期間・金額)を持っているか

軸 3. 第三者共有

自分の計画を、配偶者・先輩・メンターなど、信頼できる第三者に少なくとも 1 人共有しているか

軸 4. 最小実行可能単位

最初の一歩を月単位の小さな実行(金額・時間・対象数)に分解できているか

満たしていない軸が見つかったら、それが今の自分にとっての「動けない理由」の構造的所在です。性格の問題ではなく、整える対象として扱えます。

5. 失敗の本質を再定義する

多くの人が「失敗」という言葉で想像するのは、リスクを取って動いた結果としての失敗です。けれど、行動経済学・心理学の研究と公的統計が示すのは、もう一つの失敗の存在——機会を逃したことによる失敗です。

副業希望者 493 万人のうち実施者 305 万人。10 年で約 48 万人減少した起業者数。これらの数字の背後には、動かなかった選択の蓄積があります。「動かない」選択は、安全な選択ではなく、別種の失敗を引き受ける選択です。

動いた失敗は経験として残り、次の意思決定を改善します。動かなかった失敗は、本人にも社会にも記録されないまま消えていきます。「失敗したくないから動かない」という判断は、実は「見える失敗」を避けて「見えない失敗」を選んでいるだけかもしれません。

おわりに — 4 軸を整えれば、動ける構造が見えてくる

動いた人と動けなかった人を分けたものは、性格や能力ではなく、自己効力感・撤退条件・第三者共有・最小実行可能単位の 4 軸です。それぞれは独立しているように見えて、組み合わさって作用します。1 軸ずつ整えていくことが、行動への構造的な準備になります。

副業を始める手順については別記事「副業の最初の 1 歩」で、家族との対話の進め方については「家族にどう切り出すか」で、それぞれ取り上げています。3 記事を併せて読むことで、4 軸を実装する具体的な経路が見えてきます。

出典

  1. 中小企業庁「2024 年版中小企業白書 第 5 節 企業の規模間移動と開廃業」https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_3_5.html
  2. 総務省統計局「令和 4 年就業構造基本調査 結果の要約」(2023 年 7 月 21 日公表)https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/index.html
  3. 奈良教育大学学術リポジトリ「大学生における先延ばし行動とその原因について」https://nara-edu.repo.nii.ac.jp/record/7685/files/b2006-R10.pdf/同志社大学心理臨床科学 vol.11https://pscenter.doshisha.ac.jp/journal/PDF/vol11/pp63-.pdf/教育心理学研究 vol.62 (4)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep/62/4/62_283/_pdf

この記事を書いた人

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